表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/26

第9話 ~レチタティーヴォに終止符〈ピリオド〉を~

鏡池の主、スノゥは言った。


「なぜお前が魔王を凌駕(りょうが)するエナジーを持っていたのか?

 それは我にもわからん。

 

 だが、お前の超過交響曲〈オーバーシンフォニー〉……。

 それは、共鳴性の波動を持った一種の超能力だ。

 

 代々、神々の気まぐれで選ばれた(ひめ)巫女(みこ)に伝わる、

 相手の感情に共鳴し、それを我がことのように把握し、

 あるいはそれと同等の波動を反射するもの……。


 ――いわば、対魔力型の自動的な迎撃〈カウンター〉だ。

 だが、それはお前……(なんじ)の能力の一部にすぎない。


 その主たる能は、見えるものと見えないもの、

 ここにあるものと、ないものとを繋ぎ、取り持つこと。


 ゆえに明確なイメージを持って望めば、

 〈彼方〉と〈此方(こなた)〉の(あわい)を繋ぐことにより、

 世界の端から端まで跳躍し、空間を超越することも可能。


 また、波動を展開し、対象を索敵することもたやすい。


 つまり、お前は間違いなく、

 この世界では最大のエナジーを有するわけだ。

 

 あの能無し小僧は気に食わんが、

 お前なら、確かに魔王の花嫁たりるだろうな……」



「それって……、魔王の赤ちゃんを……」


「――産めるだろう。もちろん、可能性の話だが」


「……っ」


「ただし、お前も薄々感じておろうが、魔王の花嫁となることは、

 あの月光蝶……月花を捨てるということだ。


 お前の想いは誠であろうが、その覚悟はできているか?

 

 生半可(なまはんか)な思いで(いど)めば、

 情にもろいお前のことだ、なし崩しにほだされてしまうやもしれん。

 それこそ〝情け〟と〝恋〟を混同してな……」


「……スノゥ」


「勘違いするな。責めているわけではない。

 ただ、魔王は月花を選んだ。

 ――おそらく、奴なりに考えた、苦渋(くじゅう)の末の決断だ。


 その決意を揺るがせるだけのものを用意できぬのなら、

 魔王に……そして月花に(いど)むべきではない。

 お前なりのけじめを、ここではっきりとつけておくべきだということだ」


(――けじめ…………)


魔王にとって月花は、自分のたったひとりの同朋(どうぼう)だった。


母を自らの誕生により亡くし、高齢であった父が死んでのち、

たったひとりで鏡森の主として君臨(くんりん)した、

ひとりぼっちの魔王は、


両親を持たず、育ての母をも自分のせいで殺された月花を、

自分の片割れのように……家族のように思っていたのかもしれない。


(――そんな魔王に、わたしを選べって言うのは、

 月花を捨てろっていうのと同じだ……)


月花はわたしに恋をしたから、魔王の前から姿を消した。


そう、月花は、魔王より、わたしを選んだ。

一方、魔王は、わたしより、月花を選んだ。


だから、わたしは、よく考えなきゃいけない。

――魔王のことがすき? 月花を踏みにじってもいいくらい?


……わたしは自分のために、大切なひとから、

たったひとりの家族を奪える?


(……ダメだ! ――そんなこと、できない……!)


もしわたしが、だいすきなお兄ちゃんを奪われたら。

わたしはきっと、この世の全部を捧げられたって、許せない。


悲しくて、とても我慢なんてできない。

きっと、大泣きするだろう。だいすきなパパを亡くしたときみたいに。


だからわたしは、そんなこと、しちゃいけない……!


「――どうやら、お前には選べないようだな。

 ……だが、お前は少し勘違いをしているようだ。

 月花が魔王のもとから去ったのは、お前に恋をしたからだけではない。


 さすがに我といえどこれ以上の干渉はすまいが……。

 お前は、一度月花に会っておくべきだ。


 ――さすれば、お前の答えは決まるであろう。

 そう、敵は彼方にあらず。己の無知こそが最大の敵なのだからな……」


そう言って、スノゥは去ってゆく。


(――あれ、回想をしていたはずなのに……こんな記憶、あったっけ……?)


それはまるで、わたしの心……ううん、脳の海馬(かいば)そのものに、

スノゥがアクセスしてきたみたいだった。


光が辺りをみたし、眩い色彩が散る。

わたしは、スノゥの言葉を、反芻(はんすう)する。



――明確なイメージ。


彼方(かなた)〟と〝此方(こなた)

……〝遠く〟と〝近く〟の間を、つなぐ。


ふたつの間に距離はない。ただ、飛び越える。

同時に展開するのは、寄せては返すさざなみだ。


月花のにおい。かたち。声。

そのすべてを、世界すべてに問いかける。


――そうして世界を、わたしの波動で(おお)う。


難しくなんてない。

――できる。

実感はわかない。


だけど、スノゥは、こう言ってくれた。

わたしは姫巫女だって。――大切な役割があるんだって。


――だから、できる。

……ぜったいに。


わたしは、月花に、会いに行く。

もう、逃げない。


――伝えよう。

わたしのほんとうの気持ちを。


そして、魔王に……。



――カチッ。


エコーが、返ってくる。

半径1.5キロと20メートル5センチ。


間違いない。月花は、近くにいる……!


もう、スノゥのナビゲートはいらない。

(待ってて、月花……!)


――わたしは、けじめをつけに行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ