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妖霊夜行  作者: 二鈴
第三章 一首
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五人一首

いつも通りの通学路を歩きながら、家へと帰っていると、友人の一人が喜々として話題を振ってきた。 

 

 「ねえ、知ってる? 最近の殺人事件の噂」


 「あれでしょ? 首だけ残して、身体が行方不明のやつ。あれ、もーめっちゃ怖いよねえ!」

 

 またこの話題か、と思いながら篠村真希しのむらまきは曖昧な笑みを浮かべて、あれねと、相槌を打ちながら頷いた。

 最近になってから、随分と話題になることが多くなった猟奇殺人者についてのニュースだ。

 自分たちの住んでいる地域で有名になっており、犠牲者は判明している中で5人ほどだったか。


 いずれにせよ、あまり良いニュースでもないし、聞いててうれしい話でもなかった。

 友人たちは盛り上がりに盛り上がっている。

 最近、話題になる話が少なかったせいか、その気持ちも分からないでもない。

 だが、あまり気持ちの良いものではない。

 正直なことを言えば、殺人鬼がいまだに捕まっていない方が、恐ろしいというべきか。


 いつ自分たちが次の犠牲者になるかは分からないのだ。

 とてもではないが、楽観視できるような気分ではなかった。

 心配性とも言われるが、自分にとっては重大なことだ。

 と言っても、話を合わせられずに、仲間から外されるというのも、避けたいところだった。

 学生である限りは逃れられない、仲間との関係。

 基本的には、良いものだと思っているが、同時に煩わしいものでもあると感じ始めている。


 長かった高校生活は悪くはなかったとは思っている。

 特にいじめに会うこともなく、日々を快適に過ごしていた。

 そう、平和に過ごせていたのだ。

 恐らく、これからもきっとそういう日々が続いていく。代り映えのしない日々が続いていく。

 

 だが、下手にひどい目に合ったりするよりは、その方がよほどいい。

 よくある有名人になりたくもない。

 安心して友人と共に日々を過ごせる毎日の方がよほど良いではないかと思うのだ。

 これから先も、きっとそうなるだろう。

 

 「どう思うよっ、真希はよ」


 「んー、あたしとしてはさっさと捕まって欲しいけどなあ。おっかないしさ」


 ビビりだなあ真希は、と周りから笑われる。

 これもまた、いつものことだ


 「だいたい、一人ならまだしも、俺たちもいるんだぜ。そんな殺人鬼なんかよ。どうせなよっとした、いけ好かないやつだって」

 

 要するに怖がって近寄ってこないとでも言いたいのだろう。

 そんなことで怖気づいてしまうような相手だったら、そもそもそんな狂気的なことはしていないだろう。

 周りの友人たちは、どうしても、そういうところが抜けているような気がする。

 

 「そうだねー。まあ、実際男子が複数いれば、そんなのも恐くないかもね」

 「そうだろ? 俺たちがいるんだし大丈夫だって」


 ぎゃあぎゃあと騒がしい友人たちを横目に見ながら、帰宅するべく歩いていく。

 本当にうるさいが、まあそういうこともあるだろうと思っていた。


 「ねえ、身体頂戴?」


 「おい、誰だよ、頂戴なんて言ったやつは」

 

 俺たちに何を要求するんだよと、友人たちが笑い始める。私もつられて笑い始めて、一気に表情が消えうせた。

 先程まで、私たちはただ通学路を歩いていた。それも、人も車もそこそこ通っていたはずだ。

 今は何もない。本当に何もない。先ほどまで通っていた車の音も、人の通る音も消えた。

 全員の表情が固まった。何が起きているのか、どういうことになっているのか、いまだに理解できていない。

 

 「ねえ、身体頂戴」


 もう一度、声が聞こえた。それもはっきりとした、要求まで聞こえた。

 視線を、声が聞こえてきた後ろの方へと、ゆっくりと動かしていく。


――違う。


 動かしているのではない。動かされている。何かは分からないが、何かに引っ張られている。

 見たくない。見てはいけない。見ては――。


 「身体、頂戴」


 「あ、ぎ、ぁ」


 前にいた、友人の首が、ごろりと音を立てて落ちた。悲鳴は出せなかった。

 本当に、もぎ取られるとかそういうのではなく、自然と首が落ちた。

 首を失った身体は、ぶらりと揺れて、地面へと倒れていく。血は、出ていなかった。


――違う、違う。


 出ていないのではない。首が落ちた切断面から、太い綱の様になって出ていき、目の前のアレに引っ張られているのだ。

 身体ごと、血の綱を引くようにして、アレに繋がれていく。


 「やだ! やだ!! や、ぶぁ!!」


 喚いていた女の友人の首がごろりと落ちた。同時に次々と首が落ちる音がする。

 ごろりごろりと、首が落ちていく。

 ああ、アレがくる。あれが。


 「身体、頂戴」


 ごろりと、篠村真希は、自分の身体を下から眺める事になった。



 


  

 

 『さて、次のニュースです。今日未明……市において、男女合わせて五名の遺体が発見され……』


 「嫌なニュースが続くよなあ……トシ」 

 

 「そろそろ良い話は聞きたくなるね、本当に」


 黒水郷の事件から一ヵ月が経ったが、いまだに落ち着かない日々をトシたちは過ごしていた。

 あの大騒ぎの後だけあって、てっきり何かいろいろと組織に聞かれるかと思っていたが、杞憂だった。

 その代わりに、滋岳俊彦――トシの師匠である、組織の最高戦力である八権現の一人、〝八咫烏”の村上隆高は、いろいろと大変だったようだ。

 何せ、いつぞや助けた外国人の女性が、押しかけてきたのだ。同時に、今回の事件において被害者にもなりかけた。

 心身のケアを担当せねばならない。それがどれだけ重要なことかは理解していた。

 2人でのんびりと喫茶店で過ごしているのも、師匠である隆高がそちらに付きっきりになってしまっているからだ。

 隆高の従者である黒芽も、そちらに同行しているため、今回は修行のほうもない。


 ただし、暇というわけではなかったのだ。

 今回、喫茶店に親友である松井聡と2人でいるのも、理由あってのことだった。


 「いやでも、まさか、お前が来るとは思わなかったよ。本当に」

 

 トシからすれば、本当に驚きだったのだ。

 まさかそうなるとは思ってもおらず、予想外ではあった。

 だが、聡の正義感を知っているとなるとそれも納得だった。


 「いやぁ、まあ、あんなことがあった以上、俺も、そのなんだ。力になりたいと思ってさ」

 

 「だからって、なあ……見ただろ?」


 あの黒水郷の惨状を見たうえで志望できるというのは、なかなか勇気があるということだ。

 それは誇らしいことだが、同時に命を脅かされる危険性もはるかに増す。

 組織員になるということは、積極的に“そういう事態”にも首を突っ込まなくていけなくなる。

 正直なことを言えば、来てほしくなかった、というのは紛れもない本音だ。

 それでもなお、嬉しいと感じてしまうのは、友情が続くということだ。

 坂上大吾、佐々木啓太とも、友情が途絶えることはなく、今でも連絡を取り合っている。


 「もちろんさ。ああいう事がもう一度起きる前に防ぎたい。もしくはその手助けが出来ればいいってことで志望したからな。両親含めて」

 

 「……いやいや待て、両親を納得させたってことか、お前」


 「そうしないと、ダメだろ、さすがに」


 それはそうなのだが、だからといって本気で説得にかかるとは思わない。

 まして、息子が下手をすると命が危うい仕事――それ以前に怪しすぎる仕事にかかわるということを許可したというのは、なかなかに勇気がいる。

 

 「そりゃあ、そうなんだけどさ。……よく親御さんたちが許してくれたなって」


 「すっごい怒られたけどな。意地の張り合いになって折れてもらった」

 

 当たり前だろう。我が子が死ぬかもしれない目にあうことなど、ほとんどの親は望んでなどいない。

 どう納得させたのかも、非常に気になるが、肝心の話をまだしてもらってはいなかった。


 「んで、俺と会いに来たってのは、理由があるんだろう?」

 

 「ああ、実はな。俺たちの母校周りで、その……幽霊騒ぎだの、妖怪騒ぎだのあってな。……その、初仕事が調査なんだ」


 調査と聞いて、なるほどな、と言葉が漏れる。

 確かに新人にいきなり危ない仕事はさせられないだろう。

 となれば、事前調査か何かをさせるというあたりが妥当だ。しかし一つ疑問がつく。

 

――誰が監督官としてつくのだろうか。


 自分は特例として、“八権現”の一人である隆高がついていた。

 きわめて珍しい例であり、普通ならば、ベテランの祓し屋が一人つくのだが――。


 「――ああ、監督官がだれかって話なら、この人が」


 からんからんと、喫茶店のベルが鳴り、見目麗しい少女が入ってきた。

 どこかで見た覚えがある、艶やかな黒髪。ゆっくりと歩み寄る所作。確かこれは。


 「失礼します。滋岳俊彦さんですね?」


 「え、ええ」


 「松井聡さんと組むことになりました。常闇月とこやみつきと申します。……ああ、そんなおびえた表情をしないでください。

  お察しの通り、私は八権現の一人、常闇虚の妹ですが……その、そこまでおびえられると、色々とショックと言いますか」


 いきなり、波乱に満ちた調査が始まりそうだった。

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