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妖霊夜行  作者: 二鈴
第二章 ずねりさま
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頭音離様の三

「で、実際どうなってるんだ? 今の状況は」

 「ああいうのが、うじゃうじゃいる……と思ってる。 孤立はしてるけど、味方がいないわけじゃないってところかな」


 ゆきめと田畠がいる。それだけでも完全に詰んでいるというわけではない。希望は、まだ多く残っているのだ。

諦めていたら、そこで終わりだ。災難に巻き込まれてばかりで泣きたくなってくるが、ここまでくると逆に面白くもなってくる。

 何故だかは分からない。かつての父と母が、今の自分と同じような仕事をしていると知って、その似たような境遇を楽しんでいるからだろうか。

適当な理由はいくらでも思いつくが、どれもが、自分の心境にしっくりと当て嵌まるものはない。ただ、とても懐かしいのと、面白みを感じるだけだ。

 命の危険性があるというのに、何より友人達の命も巻き込まれているというのに、不思議な感覚だった。自分の命だけではないのだ

賭けられているのは、友人やルルアの命も含まれている。なのに、自分の思考は驚くほどに冷静だった。焦りも何もなくなっていた。

 とうとうある意味で気でも狂ったのかと、自分でも一瞬考えるが、そんなわけがないと即座に脳内で否定する。

違う、違うのだ。トシ自身としては、どことなく懐かしい気持ちになっていた。どうして懐かしいと思うのかは分からないが、とにかくそういう気分になっていた。

 これは、まさしく父と母がこなしていた仕事を、今自分がこなさなければならない。そういう思いを秘めているからだろうか。


 違う、ような気がする。父と母と、似たような境遇になっているから、落ち着いている、というわけではない。

妙な気分だった。まるで、このような状況の方が落ち着いていられるというのは、まったくもって理解が出来ない。己の事だというのに、よく分からない。

 しかし、現在の状況では、ありがたい。思考が冷静でいられるというは、この危機を脱出するのに十分な力になるからだ。

自分まで狂ってしまっていたら、もはや脱出など到底不可能だっただろう。アレに追いつかれて、切り刻まれるか、食われるか、呪われるか。

 どういう死に方になっていたのかまでは分からないが、いずれにせよ、ろくでもない死に様を晒して、人に幕を下ろしていた事には変わりがない。

現状は、ラッキーな方だと、もう一度認識しなおす。あとはここからの脱出か、もしくはゆきめ達とうまく合流する事を考えればいい。

 友人達も、こんな事態に追い込まれてしまっているというのに、正気を維持できているのには、感謝せざるを得なかった。普通の人間が見ていれば、どう見ても発狂してもおかしくない。

そうなっていた場合は、自分がどうにかするしかなかった。最悪、気絶させて無理やり無事な誰かと共に運ぶか、適当な家を制圧して、籠城するかまで考えていた。

 どちらも、とても厳しい展開に追い込まれていただろう。全滅、と言う事もありえたかもしれない。現実というのは、時にとても残酷なものだ。


 思考をぐるぐると巡らせつつも、とりあえず今するべきことをまとめる。そして、恐らく出てくるであろう質問にも、答える準備をする。

どういうのが来るかは、想像がついた。自分とて聞くだろう。決して教えてはならない事実なので、そればかりは適当に誤魔化すしかないが。

 奴等がどういった存在であるのか、トシ自身は結論が出ていた。どうやって生まれたのかも、何が素材として肉体になっているのかも、間違ってはいないはずだ。

その結論を伝えてしまえば、ルルアはともかく、他の皆の精神はどうなるか。正気と狂気の間に追い込まれてしまうのは目に見えている。


 「……なぁ、トシ、あいつらは何なんだい」

 「この異界化した、というより別次元に棲んでいる化物さ。俺達はこいつらの世界に引きずり込まれたって所かな」

 「そ、そうなんだ……」


 異界化した世界の住人であるのは間違っていない。嘘はついていない。誤魔化しているだけだ。啓太は、自分の発言を信じようとしてくれている。

真実など、時には残酷なだけだ。狂気を引き起こす厄介者だ。アレの正体など、上手くやり過ごしてからでいい。それこそ、無事に脱出出来てからだ。

 すべてを知りすぎても、何もいい事などない。それくらいの気遣いは、自分でも可能だ。今は、行動するべきことをする。当たり前の事をするだけでいい。


 「とりあえず、大悟と聡で、慶介を見ててくれ。ルルアさんと啓太は、周囲の警戒で」


 ゆきめ達と連絡を取る前に、指示を飛ばしておく。浄眼で危機――化物共が迫れば、すぐに把握できるようにはしてある。 

幸い、大悟と慶介は余計な言葉を一つも吐かずに、指示通りに動いてくれた。ルルアと啓太も動揺だ。

 まさか、自分がこんなにも積極的に動いている人生を送るようになるなど、考えてもいなかった。思いつきもしなかっただろう。

そうしなければならない事態に放り込まれたのは災難としか言いようがない。愚痴をぶちまけたくなるが、そうしている暇もない。

 この面子で一番消耗しているのは慶介だ。本人のオカルト知識も中途半端にある。あれが、どういう存在なのか、勘づいてしまった可能性もある。

気づいたことによって発狂して、慶介本人だけでなく、周りにも被害が及ぶのが、最も恐れている被害だ。だから、体力的に十分押さえつけられる大悟と聡を付けた。

 男二人でならば、余裕をもって対処できる。そこから、ゆっくりとどうにかしていけばいい。


 「ちょっと待っててくれ。今連絡を取る」


 どう見ても木製の札にしか見えないモノ――世音符を耳に当てて、念じる。会話するべき相手の顔が、脳内に浮かんでくる。そのまましばらくすると、符が淡く光り始めた。


 『――聞こえますか!! 俊彦さん!』


 慌てるようなゆきめの声と、多くの人が苦しみ、もだえるようなうめき声、それから、結界が張られる音。

どういう状況なのかは、とても分かりやすい。分かり易過ぎて反吐が出る。どうして自分は、彼女たちであれば大丈夫などと考えてしまったのか。

 自分達は比較的集落から離れた、山道にいるから、襲撃の数が少なかっただけなのだ。集落の方は、いくら過疎化してる、観光地とはいえ学校があるくらいなのだから多くの人がいたはずだ。

 トシ自身の出した結論が、そうだったではないか。


――やつらは、人から生まれている。


 元より埋め込まれていたのか、異界の影響で変化させられたのか。どちらかは知らないが、堕神が関わっているには違いない。

山道の方に少ないのであれば、必然的に奴らが集まっているところなど絞られてくる。人を襲ったのだから、すぐに分かる。

 

 「……今は、どういう状況ですか」

 『突然の異界化と、人々が化物――いえ、堕神の眷属へと変化させられてます。今は、生き残った人々を宿の方へと迎え入れて、田畠さんと一緒に、護っています』


 眷属、というのは、やはり堕神のなのだろう。当たってほしくない、あの少女に告げられた事実が現実へ押し寄せてきていた。

だからと言って、諦めていいという理由にはならない。自分に今できる事を、最大限実行するだけだ。


 「僕達は、そちらへと向かう事は――」

 『駄目です。俊彦さんだけなら可能でしょうが――この数では、あなたの御友人達が、まず巻き込まれます。ごめんなさい』


 躊躇いなど何もなく、ゆきめが知らせる。友人達を守ったまま、宿へと逃げ込むというのが、不可能になった。


 「……では、友人達だけでも助ける為に僕自身が――」

 『もっと駄目です。あなたが囮になったところで、この数はどうにもできません。……もう、虚様には連絡を入れてあります』


 助けてください、としか言えませんでしたが、とゆきめが悔しがりながら、言葉を吐き出すのが伝わってきた。


 「連絡は、もう」

 『無理です。ここまで異界化が激しく進んでいて、干渉できる相手ですと、もうこうやって異界内で連絡を取る事しか』

 「十分です」


 友人達の方をちらりと見る。不安そうな顔でこちらを見ていた。どういう状況になってしまったのかは、はっきりと分かってしまった。

だが、諦めるのは良しとしない。やれることは、やるだけだ。自分には、それしかできない。

 それ以外の、何もできない。


 『十分って、まさか、俊彦さん、貴方』

 「原因を、僕が叩きます」

 『不可能です』


 即答される。それはそうだ。どう考えても無謀だ。だが、やるしかない。


 「……友人達の安全が確保できそうな場所は、ありますか」

 『それは一応……小学校にはまだ、伝承のある刀があるせいか、田畠が寄り付かないだろうとはいっていますが』

 「ありがとうございます。詳しくは、また後で」


 待ってください、という言葉が微かに聞こえたのを残して通話を切る。

 初めての正念場だった。旅行先ということでもらったパンフレットにも、大まかな地図は乗っている。

 友人達と、知り合った人を守るためにならば、自分が犠牲になる覚悟は出来ている。


 

 目指すべき場所は、決まった。


此処まで読んでくださりありがとうございました。

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