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第五話 記憶受容と転生

記憶受容と転生


『――金の瞳と銀の瞳を持ち、その微笑みはあまたの乙女の心を奪い、その腕に抱かれた者はたやすく彼に心預けた――』


「つまりこれって、【オッドアイ】で「ニコポ」で「ナデポ」ってことよね。しかもこの人、初陣までは何にたいしてもやる気見せなかったくせに、初陣ではいきなり大戦果挙げてるの。実はS級の能力者だけど―ってやつ!? チート乙って言いたいわマジで。その上、何度も抜け駆けとか命令無視やってるんだけど、上官やら国王王妃なんかに助けられてるし。これで「NAISEI」までやってたら完全に【メアリ・スー】よ。でも内政じゃチートって言えるほどのことはやってないみたい。そっち方面じゃ時代がずれるけどリトルトンの方がチート。どうしても地味なんだけどね」


 彼女が身振り手振りまで交えて一生懸命話してくれているこの話題だが、その半分も理解できなかった。

 もちろんそんなことは口にしない。表面上は適当に相槌打ちながら分かる部分だけを拾って話をつないでいく。幸い彼女はとにかく喋りたいようで、今のところ私の方から話を振らなくても大丈夫そうである。

 しかし、どうしてこうなった。



 3日間の自由時間の外出禁止が説かれると、待ち構えていたのであろう翌日さっそく彼女からの呼び出しがかかった。

 4日ぶりに対面した彼女は、その大きな瞳を半眼にして私を軽く睨みつけてきた。翌日会いましょうから3日も空いたのだから気持ちは分かるが、理不尽なのは私だ。不可抗力であったし、そもそも私は何も約束していないのだから怒られる理由などはない。といった旨のことを失礼のない言い回しで伝えると、今度は呆れたといった表情で溜息をついた。

 「取りあえず座って話をしましょう」と言われ近くのベンチに腰を下ろすと、彼女もその隣に腰を下ろし、いきなり足を組んだ。到底侯爵家令嬢のする仕草じゃない。チラリと見える足も気になるので、できれば止めてほしいのだがそれを言う勇気は私にはなかった。


「それじゃあ先日の続きね」


 彼女の正体は私と同じ「記憶受容症」者であった。まあ予想できたことなのでそこ驚きはない。ただ、彼女は自分のことを「記憶受容症」とは呼ばず「転生者」と呼ぶ。

 「転生者」この言葉を彼女の口から聞いた時、私の脳裏にその言葉と意味が浮かんできた。転生、つまり生まれ変わりである。その考え方そのものは元々あるものだが、それをこの「記憶受容症」と結びつけたことなどなかった。


「あら? 普通に考えれば、「記憶受容症」の症状は転生そのものじゃない。【輪廻転生】って宗教観はこの世界にはないみたいだけど、生まれ変わりそのものは考え方としてあるんだし。むしろ誰も結びつけなかったのが不思議ね」


 常識的に考えてね、と彼女は言った。

 確かに私もこの知識や記憶に関しては、外から飛び込んでくるというより内から蘇ってくる感覚の方が近いとは感じている。そもそも、記憶、知識、感覚といったものだけがどこからともなくやってきて、頭に受け入れるという話が変だ。


「でも他から見たら区別なんてつかないわよね。それで、最初に「記憶受容症」なんて枠が決まっちゃったらそこで思考も止まっちゃうのかな。でもまっ、呼び方が違うだけで実質は同じね」


 いや根本的なところで違うのだが、それよりも気になる点がある。彼女の話し方はまるで自分が「記憶受容症」だと診断されていないみたいではないか。


「その通りよ。私が前世の記憶蘇った後、バレないように細心の注意を払っていたから家族の誰も疑わなかったわね。何年か前にようやくお父様が「記憶受容症」の話をしてきたけど、その頃にはもう自力で「記憶受容症」のことは調べていたわ」


 なるほど。確かにそれならば最初に型にはめられ先入観を持つこともない。しかし何か齟齬があるように思えるのだが。



「それで本題なんだけど、エリック―あ、名前で呼ばせてもらうわよ。私のこともアンジェリカでいいわ。でも、アンジーはやめてね。どっかの破戒僧っぽいから。で、エリックはどこの出身?」


 ピープス男爵領は王都から北のサントリニ山脈を越えた――と故郷の説明を始めたのだが、


「いや、そういうボケはいらないから。いらないから」


 ボケたつもりはない。そもそもこの質問でどうボケ様があるというのか。


「前世の話よ。【日本】だってのは分かるんだけどね。お風呂の習慣に「いただきます」、そうそう先日の事件で、トム君だっけ? 彼の【ラブレター】にあった詩。あれって、百人一首の1つよね。意外と教養あったのかしら。それとも【マンガ】で知った口か……」


 ああ、「ニホン語」の「ニホン」というのは国名だったのだとおよそ10年越しに知る真実に、トムの恋文―ラブレターが女子寮で回し読みされている事実が霞んでしまう。トムの傷心の姿は意外と哀れを誘うものだったので、立ち直るまではこの事実は黙っていてあげよう。


「とにかく!」


 そういってグッと顔を近づける。


「日本のどこの、いつの時代の出なのよ?」



 さて、ここでようやく先ほどの齟齬の正体と彼女の勘違いが判明した。つまり彼女は、私がその「前世」とやらの記憶を持っていると思っている訳だ。

 なるほど。いささか彼女、アンジェリカの話は独りよがりが過ぎると思っていたが、それも私が話題についてこられるという前提だったのならば多少は印象が違う。

 これは私の記憶に関する話を最初からしなければいけないのだろう。

 そう思い、私は3歳の頃より始まる私の「記憶受容症」に纏わる話を始めた。



「一部の記憶だけの復活。記憶って言ってしまえばそれぞれが連動しているのに、繋がりなく単独で出てくるものなのかしら。いや、確かにそういう【パターン】の転生物もあったと思うけど。でも、感覚だけとか常識だけどと……いや、常識だけなら知識の一種か……」


 口の前で両手を組む妙な姿勢で、アンジェリカは何かブツブツとつぶやき始めた。

 背の高い彼女がベンチでそれをやると、妙に猫背になり見苦しいでの止めてほしい。


「……そろそろ門限ね。今日はここまでにしましょう」


 姿勢を解きそう言いながら私を見た彼女の額には少し皺が寄っている。何か私の話に気に食わない点でもあったのだろうか。


「明日は私の話をしてあげるわ。今度は妙なことに巻き込まれないようにね」


 そんな皮肉を言いながらも、結局その顔から険は取れないまま彼女は寮へと歩いていってしまった。


 振り返ってみれば、ここが1つの分岐点だったのかもしれない。



 彼女の話をしよう。

 レインフォード侯爵家令嬢アンジェリカ・エクルストンは転生者である。

 家族は父であるレインフォード侯爵と、伯爵家の出の母。2つ年下の弟と3つ年下の妹がいる。祖父もいたそうだが、6年前に亡くなったそうだ。


 少し話はそれるが、我が国はその大きさに比して貴族の数が少ない。3つの王族系公爵家、8つの公爵家、20侯爵家、87の伯爵家、177の子爵家、309の男爵家。その下は準貴族である騎士と准男爵であり、トムの家のような郷紳は準貴族よりさらに下である。この貴族も、領地を維持できず王へ返納し宮廷貴族となっている家や、家名だけが残り王家預かりになっている家と領地もある。

 周辺に我が国と単独で肩を並べる国がないという事実を鑑みれば、いかにも数が少ない。これは先の授業であった帝国崩壊後の領土拡張に原因がある。早い話が、領土の拡大に対して貴族の増加が追い付かなかったのだ。

 貴族勢力の拡大を嫌う王の意向もそこにはあったのではないだろうか。とはいえ、広がった領地をすべて王直轄として安定して治めることが出来るほど当時も、そして今も王は強大ではない。そこで行われているのが、準貴族や上級市民の取り立てである。彼らに爵位を与え、王の官僚・政治家・軍人として取り込み王の力を強大化させようというのだ。郷紳の家であるトムがこの学校にいるのも、その辺りの事情がある。


 こうして新興貴族が今まさに増えようとしているこの時代、昔からの貴族というのは微妙な立ち位置になることは想像に難くない。まだそれは明確な形にはなっていないが、王と貴族との力関係の綱引きの中で、聡い者はうっすら予感し始めていた。


 そんな貴族たちの中でも数少ない侯爵家の長女として誕生した彼女は、父の漠然とした不安を打ち払う様に大変かわいがられたそうである。

 やがて、彼女が4歳を迎える少し前の頃。彼女は前世の記憶に目覚めた。

 彼女は即座に自分の状況を理解したという。これはトリップ転生だと。向こうの世界―彼女の言では、この世界と前世の世界は違うものらしい。いくつか確証があると言っている―で人気だったトリップ物や転生物をいくつも読み憧れていたのが原因だった。

 彼女は自分が置かれている状況を確認し侯爵家という非常に恵まれた立場にいることが分かると、これを最大限利用することに決めた。転生者としてやることをやるために。

 その後彼女は、自分を韜晦し子どもの振りをして過ごすことになるのだが、やはり隠しきれるものではなく、侯爵は跡取りが非常に優れた才能を持っていることに大変喜んだ。

 ところで、彼女が言うにはこの女が跡取りになるということも、この世界が前世の世界とは別である証拠の1つだという。

閑話休題。

 侯爵の喜び様を知った彼女は、徐々に前世の知識を披露し初め周囲からは「天才」だの「神童」だのと持ち上げられる。

 ちょうどこの頃、他の転生者はいないのかと色々と調べていく中で「記憶受容症」を知ったのだという。そしてその数年後、父から「記憶受容症」の話題をふられた彼女は、一切の記憶の出し惜しみを止めた。


 以上が、私が彼女から聞いた話である。

 彼女の話、特に前世とやらに関する話の真贋を確かめる知識は私にはないので、私はそれを全面的に信じることとする。


 まあ、英雄たちと同じ「記憶受容症」で、更にはその片鱗を見せる娘に侯爵の期待は留まることを知らない、という話に何やら身につまされ共感を覚えているので疑いたくないというのが最大の理由なのだが。


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