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第一話 最初の記憶

最初の記憶


 子どもの頃の記憶など曖昧過ぎて覚えていない。よく衝撃的な体験を鮮明に覚えているという話があるが、少なくとも私はそうではなかった。

 もっとも、当時を知る家人や両親の話によれば最初は子ども特有の意味のない言葉だと思っていたようだ。それが一月も続くと、さすがにおかしいと感じたらしく注意深く私の言葉を拾う内に、どうやら何らかの言葉をしゃべっているらしいと気づいたそうだ。


 私が3歳の時の出来事である。


 何かの病ではないかと不安を感じた両親は医者に相談したが、未知の言語をしゃべる子どもの扱いなど医者の職分の範疇外である。

 取りあえず健康診断などおこない、何ら体に問題は無いことを確認した彼は、どうしたものかと頭を抱える両親に大学の学者に相談してみてはどうかと提案した。未知の言語も、学者ならなにか分かるのではないかと言うことだ。



「記憶受容症?」

「はい。まぁ、おそらくは……なにぶん類例が少ないですので。ええ」

「聞いたことのない病名だがどんな病気なのかね?」

「ええ、いえ。正しくは病気ではありません。だた、ある日突然、人の頭の中に知らないはずの言葉や知識、記憶などが現れる現象です。ええ。まあ、ゼロから知識や記憶が出てくる事はありませんから、どこからか知識や記憶を受け取ったと考えこういう名前が一応つけられている訳です。はい」

「ふむ……では、貴方のいう通りだとして、この子はどうすれば良いのかな?」

「どうしようもない、と言えますな。繰り返しますが、類例の少ないことですから。ええ。記録上ではっきりと記憶受容症だと確認出来るのは過去21名。疑いを含めても100は超えません」

「それは症例としては十分な数ではないのかね?」

「まぁ数百年の中でのことですし、この現象を解明するにはやはり類例が少なすぎます」


「……まったくなんたる事だ。せっかくの跡継ぎがこんな訳の分からない病だとは……」

「そう悲観されることはありません。ええ」

「……どういうことかね」

「この記憶受容症は病ではないと申しました通り、身体にはなんら影響はありません。また、過去の症例者には優れた者が多く、歴史にその名を遺した者もおります。はい。例えば、150年ほど前に活躍したウォーターポール卿などもその一人です」

「おお! あの英雄サミュエル・ウォーターポールかね!?」

「ええ、はい。冷や飯ぐらいの子爵家の三男から、優れた戦術眼で功績を立て領地と爵位を賜り、卓越した経営手腕で領地を大いに繁栄させ、異国からの侵略を何度も打ち破ったあの英雄です」

「そうかそうか。なるほど……ではこの子も……」

「まあ、かの英雄は特別だとしても、軍人や学者や芸術家など何かしら秀でた者が多いのは確かです。ええ。とにかく、お気になさることはないかと、ピープス卿」



 何をもってこの学者が私を「記憶受容症」と判断したのか気になるところであるが、私が成長した時、彼はすでに亡くなっていて直接尋ねることは不可能になっていた。私を連れて行った父上も同行した家臣も、診断の様子は見てないとのことである。

 よくもまあ大事な跡取りを一人任せたものだなと聞いた時には思ったが、この時父上は私の廃嫡も考えていたのだろう。それが期せずしてそういった行動に表れたのだろうか。

 外聞というものがある。家の跡取りが精神的におかしいともなればそう考えるのも当然の成り行きだ。


 ともあれ、この学者のおかげで私は廃嫡一歩手前から期待の息子へと評価は一変した。

 一度下がりかけただけに一変した評価がいささか過剰なものになったであろうことは簡単に想像できる。実際、私が成長してからも両親の期待は高かったのだ。

 ただ幸いなことに、子の面倒というものは親が直接見るものではない。幼いころは乳母がするものであるし、やがては家庭教師がつくことになる。その後は色々と家によって変わってくるが大方は学都の学校へ入学し寄宿舎に入ることとなる。

 ごく一般的な常識を持つ両親は任せるところは任せるという心構えを備えており、私の成長と教育に容喙してくることはなかった。


 ただし、学者から「このまま放置していては、言葉の習得に差し障るかもしれない」と言われていたため、乳母にはことさら言葉遣いに厳しい者があてられた。

 おかげでこの私、エリック・ピープスの一番古い記憶は、うっかり【ニホン語】の単語を喋って乳母の叱責を受けている場面なのである。


 およそ10年ぶりに小説を書き始めてみました、短めの中編小説になる予定です。

 全体の流れは出来ていますが書きあがっているのは2話のみ。書き上げて投稿する予定でしたが、自分を追い込むために予定変更し投稿。次の話までは続けて投稿しますが、その後は書きあがり次第になりそうです。

 感想・誤字の指摘等ありましたらお願いいたします。

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