「背筋凍らせ屋」
一年中半袖シャツで過ごしているため、心の中でこっそり”夏服の人”と呼んでいる友人が、どういうわけか夏まっさかりのこの時期に長袖シャツを着て来たので、「暑くないの?」と尋ねたら「寒いくらいだ」と小さく身体を震わせた。熱でもあるのかと、額に手を当てようとしたら、彼は「涼しくなる話、知りたいか?」と意味ありげな笑みを浮かべた。
夏服の人曰く、「どこにも続かない橋のたもとに供物を捧げよ、さすれば冷気訪れん」とのこと。いったい何の話なんだかよくわからない。つーかなんで古文書みたいなセリフなんだ。
「どこにも続かない橋って、作りかけで放置されてる近くの橋のこと?」と首を傾げるわたしに、友人はニヤニヤ笑って「試せばわかるさ」と取り合ってくれなかった。
放課後、お供え物の飴を持って橋のたもとに向かうと、意外に広まっている噂話なのか小さな石碑のようなものには既に様々なお供え物が供えてあった。ここかな、と思いながらも飴を供えた瞬間、なぜか背筋がぞっとした。周りを見回すが何も見えない。……結局、それきり何も起きなかった。夏服の人の言う、「冷気」とはいったい何のことだったのだろう?
拍子抜けしてその場を立ち去ろうとした時、視界の端に一瞬、白いものが映った気がした。なぜだか、背筋のゾクゾクがとまらない。さっきから視界の端に映る白いものはなんだろう。背後が妙に気になる。振り返ると誰も居ないのだけれど、確かに、何かが居るような気がする。そうだ、鏡を使ったらどうだろう。鞄からそっと手鏡を取り出して背後を映すと、全身真っ白な着物で、片目が髪に隠れている儚げな様子の少女がこちらを見つめて冷たく微笑んでいた。
「さ、流石にホンモノの幽霊とか遠慮したいんですけど……?」と引きつった笑みでつぶやいた瞬間、「ご利用ありがとうございました……またのご利用を……お待ちしております」と、か細い声が背後から聞こえて、小さく微笑んだ少女が、音もなく消えた。
タイトルがオチになります。よくわからなかった方のために説明しますと、お供え物もらって背筋を凍らせて涼しくしてくれる、背筋凍らせ屋さんの幽霊のお話です。800字でなくて1500字くらいでもう少しいろいろ細かい設定とか、だんだん白い人影が近づいてくる、とかやった方がよかったネタかもしれません。