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SHADOW3:捕獲による拷問(?)

「人、多っ」


昼飯時、実に様々な商店が建ち並んでいる学園中心部――生徒達からは『中心街』と呼ばれている――の一角にある食堂に来た神楽の第一声がそれだった。

ザワザワと騒がしい食堂内はすでに場所横取り御免の戦場と化していた。

「座る所……ねェじゃん」


右を見ても左を見ても、空席なんて存在しない食堂。

神楽はただ呆然と立ち尽くす。

一応、学園の名誉の為に言っておくが、この食堂には約五〇〇〇人が収容出来る程のスペースがある。

野外スペースも併せれば、五三〇〇人は入る。

が、中等部の事件は学園生徒の殆どの事情聴取を必要とし(幼等部、初等部除く)、中等部、高等部、大学部、大学院は本日限り臨時休校する羽目となった。

結果、約一四〇〇〇人もの生徒が暇する事になり、ついでに言えば立ち入り禁止された校舎の食堂が使えないから必然的に中心街の食堂にその幾割が集う事になった。

「……マジかよ」


神楽お気に入りのBランチを持ったまま身動き一つ取れない。

何故、こんな状態で頼んでしまったのか。

Bランチを恨めしげに睨みつつ(八つ当たりとも言う)、神楽は立ったまま人の流れが過ぎ去るのを待つ事にした。

席が空いたと思い駆けつければ次の瞬間には見知らぬ誰かが座り、また次を待つ。

再び席が空いたと思い駆けつければ次の瞬間には見知らぬ誰かが座り、また次を待つ。

――何度か繰り返したところでようやく着座する事が出来たはいいが、すでに唐揚げはパサパサになり味噌汁は冷えライスは固まり、いかにも不味そうだ。

「くぅ、何たる屈辱……ッ!!」


本来、学食で飯を食うには幾つかの条件がある。

まず第一に、必ず二人以上で行動する事。

席取班と運搬班に分かれ、席取班が人数分の席を確保したのを確認して運搬班がメンバーの食事を取りに行く。

これは古今東西全ての学校に言える、いわば『学食の法則』に基づくものであり、ソロで学食に臨む場合はかなりの強運を必要とする。

第二に、迅速な行動を取る事。

如何に座席が獲得出来ようとも人の波に呑まれ立ち往生してしまえば昼食は冷め、メンバーの反感を無駄に買う羽目になる。

絶対視されるのは人の波を見極める判断力と瞬時に移動できる行動力である。

第三にバランス能力がある事。

波に押されたり走り回る生徒を避け、無事にキャンプ地に帰還出来なければ意味がない。

席取班の料理を運ぶとなると必ず両手が塞がってしまうので、如何に安全な道を行くかで安否が決まる。

だが神楽は現在ソロ活動中であり、人で埋め尽くされた学食で悲しくも冷めた食事にありつかなければいけなくなっていた。

パサパサになった唐揚げを口に含み咀嚼する。

続けざまに固いご飯を二三噛んで呑み、咥内に残ったご飯を冷めた味噌汁で流し込む。

油が分離しているドレッシングにまみれたキャベツを咥内に詰めて咀嚼。

均等にブツを食べる神楽の表情は浮かない。

不味いのだ。ちょっとした有名店にも負けない味のハズなのに……。

「ちょっといいスか〜?」


何だかんだ心の中で文句を呟きながら、ほんの五分で三分の二を食した神楽の耳に届いたのは、目の前に座る少女の声だった。

「んむ?」


食材の坩堝と化した咥内の物を咀嚼しながら、神楽は目の前の中等部生徒と思わしき少女を見た。

黒いボブカットのメガネ少女がやや延び気味の掛け蕎麦を小さく食べていた。

「今回の事件について聞きたい事があるんでスが、いいッスか〜?」


にへらと、少女の緊張感のない笑顔。

「……」


これは何か、と神楽は思う。

先刻考えていた、刑事の真似事をしようとしているのか、と神楽は思う。

ついでに、フィクションとノンフィクションの区別のつかないあらゆる意味でイタい少女なのか、とも思う。

「……間に合ってます」


「ああ、そんな!少しは人の話聞いて下さいよ〜!」


「……聞いてどうするつもりだ」


「もちろん、この不可解な殺人事件を解くのでス!」


ガタッと立ち上がり、目一杯拳を握る少女――リボンの色を見る限り、一年生――の瞳は、無駄にギラギラとアブナく輝いている。

どうでもいいが、掴んでいた麺が箸をすり抜け汁に落ちた衝撃で神楽の顔にかかった。

(……ヤバい人種だ)

ハンカチで顔を拭きながら、神楽は直感した。

「……やっぱり間に合ってます、マジで」


「間に合ってませんよ〜!本当に、少しでいいですから教えて下さいよ〜!」


ガタガタと長テーブルを揺らしながら、少女。

辺りから刺さる『迷惑だなコイツ』な視線がイタい。

しかも何故か、神楽まで睨まれている。

「分かった、分かったから落ち着け!テーブルを揺らすな、みんな殺気立ってこっち見てるから!」


「じゃあ話を聞かせてくれまスか!?」


「分かったからやめれ!」


ようやくテーブルを揺らすのをやめたご満悦少女を見つめ、思う。

厄介な奴に捕まってしまった、と。

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