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第六話:早速出てきた気苦労の芽

 昨夜の騒動で眠れたのは朝方。沙南が寝坊してもいいと言ってくれたため、柳は有り難くそれに甘えることにした。ただ、年少組は学校があるためにそうもいかないのだろうけど。


「ん……」


 冬場なので外の空気がひんやりとしている。ただ、自分を包んでくれるこの体温はいつも優しく、何よりも愛しく……


「えっ……?」


 そう考えて柳はようやく頭が回転し始めた。部屋は客室に違いない、布団も一つ、ただ違うのは布団の中に入り込んでいる朝からいたずらモード全開の世界屈指の美青年がいることだ。


 柳は慌ててその腕の中から抜け出そうとしたが、常人よりはるかに強い力の持ち主は簡単に解放してくれない。ただ、今日は気が張ってる所為か、いつもより寝起きがいい。


「……ああ、おはようございます……、今日も寒いですね……」

「秀さん……! なんで……!」


 真っ赤になって慌てふためく柳に、秀はにっこり笑ってさも当然と答える。


「冬なんで人肌が恋しいんですよ……」

「ひゃっ!!」


 秀は柳の額に口づけてまたギュッとその体を抱きしめた。しかし、寒ければ自分の力を使えば充分なのでは、と彼の力を知るものなら間違いなくそうつっこんでるはずだ。


 ただ、柳もその力を持っているというのにパニックに陥ってるためそこまで頭が回転してくれない。


「さて、僕達は春休みですからもう少し眠りましょうか……」

「秀さ〜〜ん!!」


 柳の抵抗など構わず、秀はしばらく柳を堪能することにした。



 そんなことも露知らず、朝に秀を起こしに行くのは禁止と今や常識と化している天宮家は、いつものように朝食の準備が整っていた。


 顔を洗って制服に着替えたにも関わらず、翔は大あくびをしながらリビングの扉を開けて朝の挨拶を告げる。


「おはようさん……」

「おはよう、翔君!」

「おはようございます」

「紫月!? なんで!?」


 一気に眠気が吹き飛んだ。制服の上からエプロンをつけた紫月が目に飛び込んで来たのだから。


 ただし、昨夜睡眠薬を盛られたにも関わらず紫月はいつものようにすっきりしており、相変わらずな翔に溜息をついて髪を撫で付ける。


「翔君、寝癖ぐらい直してください。ほら、早く御飯食べて学校に行きますよ」

「ああ、って! だからなんでいるんだよ!」

「それも食事をしながら話します。遅刻なんて御免ですから」


 いや、最悪飛んでいけば問題ないのでは……、とは言いたいところだが、あくまでも平凡に暮らしたい紫月にそれは言わないでおくことにする。するとキラキラした笑顔で末っ子組もリビングに入ってきた。


「皆おはよう!!」

「おはよう!!」


 寒くても末っ子組は元気いっぱいだ。夢華に至っては昨日の騒動も露知らず熟睡していたのだが、何の抵抗もなく天宮家にお泊りしているあたりはさすがである。


 そんな末っ子組に癒されつつ、一行は朝食を摂ることになった。



 それから紫月が昨日起こった出来事を簡潔に話せば、またトラブルがやって来るのかと一行の目は輝く。


「そうかぁ、紫月でも手こずる相手が出てきたのかぁ」

「翔君の油断癖が感染した所為なんでしょうね。風邪より性質の悪い……」

「えっ!? 俺の所為かよ!?」

「情けないことに……。ですが、今度は必ず仕留めますから」

「そういうとこ負けず嫌いだよな……」

「兄さんに似てるもので」


 なるほど、と全員が納得する。啓吾もやられっぱなしは嫌う性格だ。やられたら倍返しが常識になってるところは確かに啓吾譲りなんだろう。


「だけど、今回の敵の目的ってまだ分からないのでしょう?」


 沙南が翔に三杯目のご飯をよそいながら尋ねると、紫月はコクリと頷いた。


「はい、組織名は鷹という麻薬の密輸集団ですけど、まだその目的や背後関係も掴めていません。秀さんが闇の女帝からどれだけの情報をもたらされたかは分かりませんけど、動いてないところをみるとまだ……」

「そっか……」


 気になるところだが、動けない時はどう足掻いても仕方がないのも事実である。もちろん、鷹のアジトに直接乗り込んで潰す手もあるが、遠い異国の地に龍達の許可もなく行くわけにはいかない。


「だけどさ、その密輸集団がこっちに来てるんだろ? だったらそいつら潰せば良いんじゃねぇの? ごちそうさま!」


 核心をついて食後の挨拶をきちんとする翔に、紫月はまた深い溜息をついた。まさにそのとおりだが、それを実際の行動に移すのが問題なのである。


「……翔君にかかれば何でも単純なんですね」

「じゃあ、また皆で敵をやつっけるの!?」

「夢華、そんなキラキラした目でいうものじゃないですよ。兄さんはともかく、龍さんが頭を抱えますから」

「うん!」


 末っ子組の教育に頭を抱える龍の気苦労を知る紫月は、今日もきっと気苦労をするであろう、悪の総大将に同情するのだった……



 そして本日、世界で最も気苦労することが確定している悪の総大将は……


「えっ!? オペ出来ない!?」

「二つともですか!?」

「ああ」


 朝方、救命から解放された龍と啓吾は本日二件のオペが入っていたのだが、それが急にキャンセルとなったと外科部長に告げられていた。


「一体どういうことなんです、患者の容態は安定していたはずでしょう?」

「ああ。しかし、二人とも軽度だがインフルエンザにかかってしまっては、とてもじゃないがオペするわけにはいかないだろう」

「はぁ!? インフルエンザって院内感染してるんですか!?」

「いや、かかってるのはその二人だけだ」

「また奇特な……」


 よりによって昨日の検査で何も問題なかった患者が、いきなり揃ってインフルエンザに掛かるなんてよっぽどの偶然でない限りまずない。


 しかし、さらに外科部長はとんでもないことを告げた。


「とりあえず、二人の患者のオペは延期となるが、医院長はそれを喜んでいてな……」

「……また何かあったんですか」


 龍は苛立ちを抑えているのだろう、呆れ返った表情を浮かべると、それに同意するかのように外科部長も溜息を吐き出した。


「ああ。オペが延期になったなら、今日は二人とも夜は休ませてやりたかったんだが、あの医院長からの命令で二人にはパーティーに出席して欲しいそうだ」

「俺はそんなもんに出るぐらいなら夜勤しますよ」


 啓吾は即答したが、外科部長は首を振って申し訳なさそうに頼む。


「気持ちは分からなくもないが、二人がお目付け役だと助かるんだがな」

「と、いいますと?」

「そのパーティーなんだが、多くの製薬会社に加えて麻薬組織も入ってるという噂なんだよ」


 それだけ聞けば二人はガックリと肩を落とした。あの医院長なら確かに余計なものを引っ掛けて来そうだ。


「本当に申し訳ないが、私も明日は朝一でオペだからな」

「分かりました。何とかします」


 龍の気苦労は早速始まるのだった……




さぁ、トラブルの舞台が少しずつ整って来るバレンタインデー当日。

一体どんなことになってしまうのでしょうか。


そして、朝から柳ちゃんを独占している秀。

火の力を操る癖して寒いから一緒に寝るって……

う〜ん、人肌の温もりはやっぱり自分で力を使うのとは違うのか……

きっとまだ秀の暴走は止まらないのでしょうけど……


高校生組と末っ子組は朝から賑やかです。

天宮家に泊まることに結構慣れてるんだろうなぁ、あまり違和感がない日常みたいな感じがしている作者です。


次回は高校生組と末っ子組のお話になるかな?




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