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第六十話:未来の契約

 翌日、聖蘭病院医院長である誠一郎はやっと夕方になってホッと一息を入れると同時にかなりの苛立ちを覚えていた。


 なんせ、土屋率いる警察が病院に押し寄せてきて、入院していた大日本製薬の息子を薬物法違反の容疑で逮捕して行ったのだ。

 当然、そうなってしまっては沙南の婚約者とするわけにもいかず、彼の金儲けと新たな権力も手に入れることが出来なくなってしまったのである。


「く〜〜っ!! このままでは沙南が龍にとられる上にこの病院の権限も全てあいつのものに……!」


 一体どうすればいいのかと思っていたその時、誠一郎は病院の敷地内に入ってきたロールスロイスを窓から見付け、その車から下りてきた男に目を輝かせて医院長室から飛び出していった。


 そしてドタバタと病院の廊下を走り抜け、エントランスまで全力疾走した誠一郎が息を切らしながらも出迎えようとした相手こそ、デュパン社のフラン社長、つまり鳳凰の義父だったのである。


「フラン社長、よくお越し下さいました!」


 好意的な笑みを浮かべ誠一郎はフランに手を差し延べたが、彼の目的は当然誠一郎に会いに来たわけでも薬の営業というわけでもなかった。


「いえ、それよりドクター龍は」


 龍と言われて誠一郎は僅かに表情を曇らせた。いまここでフランと龍を会わせて沙南のことを話されては困ると思ったからだが、龍はオペに入っていることを思い出し、誠一郎はしめたといわんばかりに満面の笑顔を浮かべる。


「すみませんが龍は只今オペに入っておりまして、まだ時間が掛かります。それより」

「そうですか、ではまた出直すことにします」

「えっ? いや、その……」


 あっさり引き上げようとするフランを呼び止めようとしたが、誠一郎がいることなどお構いなく、フランを呼び止める人物が現れたのである。


「待ってください、フラン社長」


 後ろから呼び止められフランは振り返ると、そこには青のオペ着に白衣を羽織った啓吾が立っていた。その顔は今回の件に関していろいろ言ってやりたいことがあるといったものだ。


「ドクター啓吾……」

「どうも。立ち話も何ですし応接室にでもご案内しますよ」

「啓吾先生、フラン社長は……!」

「いえ、ドクター啓吾とも話したいことがありますのでご案内頂けますか?」

「へっ?」


 一体どういうことなのかと誠一郎は目を丸くするが、フランまるでそうすることが当たり前と言うように表情を崩すと、彼は啓吾に連れられて病院内へと入っていった。


 そして、二人の後ろ姿をその場に残された誠一郎はポツンと眺めているのであった……



 聖蘭病院の応接室など初めて使った。啓吾の行動パターンといえば、医局か病室かオペ室と言われるほど広いが限られている。そのどこにもいない時は仮眠室付近で喫煙中というところだ。


 ただ、さすがは聖蘭病院というところか応接室となれば使用率が低い分だけきちんとされている。おそらく今は亡き龍の祖父が迎え入れても構わない客には礼を尽くすと決めていたからだろう。


「どうぞ」

「ありがとう」


 啓吾にコーヒーを差し出されフランはそれに礼を述べるが、すぐに口付けることは出来なかった。それ以上に今回の件で啓吾達に多大な迷惑を掛けた性かその表情はひどく固いものだった。


「まず、今回の件について君達には大変お世話になったことと」

「その前に、オペをする予定だった患者にインフルエンザの陽性反応を出したことを謝っていただけますか?」


 啓吾の指摘にフランは目を丸くした。どうやら彼は全て最初からお見通しだったらしく、敢えて今回の騒動に身を投じたところがあるようだ。


「いつから気付いてたんですか?」

「オペ予定の患者がいきなりインフルエンザに掛かった時からですよ。検査結果が出た後の回診でもう一度診たら特に問題がなかったのでおそらく誰かの差し金かと。といっても、龍には黙っておこうと思いますが」


 おそらく真面目な龍のことだ。フランを責めることはなくとも患者に対して思い入れしてしまうに違いない。


 しかし、啓吾はオペの予定をズラしてでも今回の件を先に片付けておく必要があると思い、敢えてそのことを龍に伝えなかったのである。


 まぁ、それでもカルテをしっかりチェックする龍のことなのでインフルエンザは誤診だったと気付くだろうが、患者の容態が少々良くないのは事実だったと何かしら啓吾は理由を付けて答えておこうとは思っている。


「……大変申し訳なかった。鳳凰やうちの社員である鷹族を救えるのは君達しか思い付かなかったんだ。私の力ではこのような手段しかとれなかった。本当に申し訳ない」


 深々とフランは頭を下げた。その空気はひどく痛々しいものだったが啓吾は特にそれに触れもせず、いかにも彼らしい言葉で

あっさりそれを受け流した。


「別に患者の命を脅かしたわけじゃないんで俺はそう怒ってないですよ。それに義理の息子のために動いてた父親っていうのは俺にもいるんで」

「シュバルツ博士ですね」

「まぁ、そうなりますが」


 苦笑してしまうのは仕方のないこと。シュバルツが自分のためにしてくれたことは確かに死ぬ目も見たが、それ以上に愛情に満ち溢れているものだった。そんな親心を否定することなど啓吾には出来ない。


 そして、啓吾は一口コーヒーに口づけてテーブルに置くとすっかり和らいだ口調で尋ねる。


「それで、鳳凰はこれからどうすると?」

「息子にはしばらく休暇を与えようと思います。鳥の女神殿も長期間操られていたことと、薬物にやられていたことは確かですから一緒に回復して貰えればと」


 それは二人の幸せを心から願っている親の顔。本来ならもっと早くこの顔をさせてやれただろうにと啓吾は思う。それは自分も同じでシュバルツを安心させてやるまで十年も掛けてしまったからだろう。


 ただ、今回のことを全て水に流すには勿体ないと啓吾は龍がこの場にいないからこそ切り出した。


「フラン社長、これは数年後の約束として今回のことをチャラにしてもらいたいんだが……」


 悪戯と未来を見据えたその表情で啓吾が持ち掛けた提案に、フランは相槌を打ちながら聞いて最後には柔らかな笑みを浮かべた。いかにも啓吾らしい提案は、喜んで聞き入れないわけにはいられなかったのである。


「そうですか、いいでしょう。では、今度お会いする時は息子の結婚式になりますか、それともドクター啓吾の結婚の方が早いですかね」

「さぁ、龍よりは早く挙げたいですが」


 啓吾は苦笑いを浮かべて答える。じゃなければ、シュバルツが紗枝を早く娘にしろと騒ぎ立てるに違いないのだから……



 それからフランが病院を後にして啓吾が医局に戻ると、そこにはカルテをチェックしている紗枝がいた。まだまだインフルエンザが続く時期とあって小児科はなかなか忙しそうだ。


「お疲れ」

「うん、フラン社長は何て言ってたの?」

「ああ、謝罪してくれたが俺の企みに乗ってくれることで今回の件はチャラってことにした」

「そう、なら良いんじゃない」


 深く突っ込まないあたり紗枝も全て織り込み済みというところなのか、相変わらず彼女らしく終わりよければ全て良しということらしい。

 まぁ、彼女もインフルエンザの反応にある程度首を傾げていたところがあったのだろうが。


 そして、啓吾は自分の席に座るといつもと何等変わりないトーンで紗枝に尋ねた。


「なぁ、紗枝」

「何?」

「夢華が中学生になってちょっと落ち着いたら結婚しねぇ?」

「えっ?」

「なんか鳳凰が少し落ち着いたら結婚するって聞いたから俺もしたくなった。まぁ、式は鳳凰達の後で良いかと思うけど」


 少なくともシュバルツがしばらくの間、日本でオペを引き受けているらしく、当然あの死ぬような指導を受ける予定が迫っているため、式の準備をしている暇がないと分かっているからこそ諦めてはいる。


 そんな啓吾らしいプロポーズに紗枝は上を向いて少し考えていたが、いかにも彼女らしい理由であっさり断った。


「……却下!」

「なっ!?」

「だって、優衣先輩の出産があってさらに闇の女帝もでしょ? 何より秀ちゃんだって最低三年は戻って来ないんだから結婚はそれまで無し無し」


 さも当然と言ったように紗枝から断られるが、優衣の出産は数ヶ月後なのでともかく、秀のことまで出てくると納得出来ない。啓吾はあの腹黒の顔を思い浮かべながら眉間にシワを寄せて抗議した。


「何で次男坊基準なんだよ……」

「皆にお祝いされても良いじゃない。まだ龍ちゃんだって結婚してないんだから」

「あいつを待ってたら五年経っても出来ねぇ気がするんだが……」

「良いじゃない。私は三十過ぎぐらいを考えてるんだし」

「十年も待たせないでくれ……」


 それは心から出た言葉だった。既に紗枝の両親に婚約してると挨拶に出向いてまでいるというのに、結婚するのが十年後など啓吾にとってはほぼ拷問だった。


 ただし、それでもプロポーズが嬉しかったのか紗枝は挑戦的な顔をして啓吾に告げる。


「まっ、さらに惚れさせてくれるなら分からないけどね」


 やっぱりそういうことかと相変わらずな紗枝に啓吾は心の中で苦笑する。もちろん、そんな勝ち気な性格をしているところも含めて好きなのだけれど。


 ただ、恋愛ごとに関しては啓吾の方が一枚上手だということも忘れてはならない。


「ふ〜ん、だったらすぐに落ちるな」


 そう告げられた次の瞬間、紗枝の唇はあっさり奪われた。不意打ちに数秒目を丸くしていたものの、ここは病院じゃなかったっけ、と紗枝の脳裏に過ぎれば彼女はみるみるうちに真っ赤になっていき慌てて離れた!


「啓吾っ!!」

「さて、そろそろ龍のオペも終わるだろうから俺も明日のオペ患者のとこでも行ってくるかな」

「ちょっ……!」


 何の悪びれもなく啓吾は立ち上がると、それは悪戯モード全開といった顔をしてニヤリと笑いながら告げた。


「早く花嫁になりたいって顔してるぞ?」

「なっ……!」


 ふざけるな、とでも叫びたい顔をしているが啓吾は全く気にせず医局から出ていった。

 そして、取り残された紗枝は机に突っ伏してかなり悔しい思いをしながら悪態を突く。


「あのバカ……!」


 それは二人が結婚する約一年前の話だ……




大変お待たせしました☆

今月も終わろうとしてるのにやっと書いたかという……

まぁね、ゲームにはまると長いですからね、次のネタ集めでもありますし……


さて、フラン社長と啓吾兄さんの相谷取り交わされた契約、これは次回に回します。

まぁ、啓吾兄さんのことだからきっと自分が得できることも考えてますよ(笑)


そして、ちゃっかり紗枝さんにプロポーズ。

まぁ、既に婚約者という間柄ですから今更という感じですが……

とりあえず、二人が結婚する前のお話ということで。


そうなると残りのメンバーは??

はい、次回もお楽しみに☆




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