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第五十六話:もう一つの呪い

 空気は冷たいというのに島から放たれる闘気が沙南に寒さを感じさせていなかった。彼女はただ赤く染まるホテルを見つめ、龍の無事を祈り続けている。


 しかし、ふと彼女の視界に戦いを終えた二人の姿がゆっくりこちらへ向かってくるのを捉えた。


「啓吾!」

「桜姫!」


 一行が二人に駆け寄る。ただし、何故かここからおかしい会話が始まるのがこの一行たる由縁である。なんせ、全員の注目と心配が啓吾に抱えられている桜姫のみとなるのだから……


「お兄ちゃん! 桜姫お姉ちゃんは!?」

「ああ、力を使い切って気絶してるだけだ」

「怪我はないんですか?」

「覚醒が解けてるから傷は塞がってる」

「啓吾が腑甲斐無いから無理をしたのかしら……」

「俺の性にすんな、紗枝」

「本当、役立たずですね」

「絞めるぞ次男坊!」


 啓吾とて充分過ぎるほどボロボロだというのに批難ばかりされては溜まったものではない。


 ただし、いつまでもこのままという訳にはいかないので、いろいろ文句を付けたいのを我慢してまずは桜姫を休ませることにした。


「良二、悪いが桜姫は船室のベッドで寝かせといてくれ。極度の疲労でいまは意識が飛んじまってるが、またすぐに動くって言い出しかねないからな」

「分かった。ちゃんと言い聞かせておくよ」


 啓吾から桜姫を受け取ると、夢華が船室へと続く扉を開けてくれて宮岡はそれに礼を述べて中へ入っていった。


「さて、俺も覚醒解くから服は船室にあるのか?」

「ええ、露出されたら迷惑だからさっさと着替えて頂戴」

「何だよ、俺の全てを知ってる癖して今更」

「海に落とされたくなかったらさっさと着替えなさい! それと一応検査しておくから」

「別に覚醒を解けば怪我ぐらいは塞がるが……」

「いいからまずは着替えてきなさい!」


 紗枝にドンと背中を押されて啓吾は船室へと押し込まれた。それから船室から光がこぼれて、ドサッと音が響く。やっぱり疲弊しているかと紗枝は深い溜息を吐き出した。


「秀ちゃん、あの馬鹿が着替え終わったら引っ張り出してきて」

「紗枝さん、啓吾さんは大丈夫そうに見えましたけど……」

「怪我はね。だけど点滴は打たなくちゃダメよ。全く、いつもああやって強がるんだから」


 そうブツブツと文句を言いながらも点滴の準備を進めていく。しかし、無事に戻ってきてくれて良かったとホッとしているのが分かって秀は紗枝らしいと微笑を浮かべた。


 そして、早くも船室の扉が開いてもう着替えたのかと思って秀はそちらを見れば、そこには意識を取り戻した鳥の女神が立っていた。


「南天空太子様」


 イメージ通りの声といったところか、凜とした雰囲気は現代になってもそのままらしい。これはある程度の礼を払うべきだと思い、秀にしては珍しく相手を労る言葉を述べた。


「鳥の女神殿、お加減はいかがですか?」

「悪くはございません。武帝の術から解放して頂きましたこと、深く感謝致します」


 そう礼を述べて深く頭を下げる鳥の女神に秀も気にしていないと応える。なんせ彼女を助けたのは啓吾であり、啓吾がどうなろうと構うことはない思っているのだから。


 その点に関して当人は秀に言われたらキレるだろうが、ついでに助けただけだとあっさり流してくれることだろう。


 そして、鳥の女神は火の手が上がる島の方を見つめると僅かに表情が曇る。おそらく沙南と同じように愛しいもののことを思っているのだろう。


 ただ、彼女はこの戦いの無意味さを感じている訳ではなかった。それは龍に対して申し訳なさと一つの望みを抱いていた瞳をしていて……


「……天空王様は闘って下さってるのですね」

「ええ。もう無意味な戦いだと互いに分かっているでしょうに何が戦いを続けさせてるのか理解出来ませんが」


 武道を極めているものの性なのか、それとも鷹族の業に縛られているのかは分からないが、戦う理由がないとしか考えられないのに未だ島からは轟音が響き渡っている。


 秀と闘っていた蜻蛉が二人を止めるために説得役を買って出てくれたのだが、それすら聞く耳も持たずに戦わなければこの戦いは終わらないというのだろうか……


 意味が分からないと苛立ちを抑えている秀に鳥の女神は静かに俯いてその理由を告げる。


「……南天空太子様、この戦いにはまだもう一つ断ち切らなければならないものがございます」

「といいますと?」

「神族より与えられし鷹族の業です。鳳凰殿を縛っていたものは武帝の呪術だけではありません。むしろ一番の理由がその業なのです」

「どういう意味ですか?」


 眉を顰めて秀は尋ねると鳥の女神は一旦目を閉じ、鳳凰の過去に胸を痛めながら答える。


「……鳳凰殿が人体実験を受けていたことは聞いておられますか?」

「……ええ」

「その実験に携わっていたのは神族の末裔。鳳凰殿は光帝の懐刀と言われていたほどの猛者となれば彼等が鳳凰殿に施しそうなことは予測が立ちますね?」

「……人間兵器という訳ですか」

「はい、鳳凰殿を縛るもう一つの呪いは天空王様を滅ぼす為に掛けられたものでございます。それは戦うことでしか消し去ることは出来ません。おそらく天空王様はそのことに気付かれていらっしゃるのでしょう……」


 だからこの戦いはまだ止まらないのだという。それを聞いていた沙南は不安に表情を曇らせるがそれでも信じていたかった。


 ただ、龍が自分のもとに戻って来ることを……



 炎の翼が閃く。重力がその翼を叩くが剣で一閃、それを切り裂いて彼はまた攻撃を繰り出すと王は覇気でそれを掻き消した。


 武の頂きに立つもの同士、一歩も引かない攻防戦を繰り広げるのは己がプライドだけではなく、まるで互いがぶつかる運命ということすら感じるほど。


 ただし、ぶつかる力から龍は武帝の呪術が消えたことにも気付いたと同時に、自分とぶつかるごとにまるで鳳凰の意志が消されているような感じを覚えていた。


「天空王……」


 どこか虚ろになっていく目に龍は眉間に皺を寄せる。一体、鳳凰の身に何が起こってるのかと彼は一旦鳳凰から距離をとった。


「鳳凰、その力は元々お前が持っていたものじゃないだろう。一体何をした!」


 戦うのならば一切の小細工をせず、己が力で渡り合うのが二人の間での暗黙の了解だった。

 しかし、いま龍が感じている鳳凰の力はまるでこちらを滅ぼすことでしか自分を見出だせない狂気の塊にすら思えるもの。


 すると、鳳凰は目に影を落として右側の袖を破ると、そこには古代文字の刺青が刻まれていた。


「……これが運命。神族から受けし呪術であると同時に鷹族の業でもある。全ては天空王、お前が消えるまで終わりはしない」

「……いや、消えるのでは無く消してやる」

「何?」


 ピクリと鳳凰の眉が動いた瞬間、龍はさらに天の力を解放しその覇気が鳳凰を叩き付けた!


「鷹族の業、ここで断ち切らせてもらう!」


 全てを終わらせる力がそこに存在する……




はい、お待たせしました☆

こっちは一ヶ月ぐらいお待たせしたという……

うん、ノクターンとの時間差が気になってどうしようかなと思ってましたが、もう書いちゃおうかと。


そんな感じで、龍と鳳凰の激しいバトルがこれからという感じになるのか、それともあっさり終わってしまうのかというところですが、きっと次回で決着はつきます。

だって、あくまでもバレンタインデーですからね、この話(笑)


ただし、ノクターンを読まれてる方にはちょっとしたネタバレが入る終わり方になると思いますのでご容赦を。


では、次回もお楽しみに☆




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