第四十九話:狙い
啓吾が来たことで沙南と柳はもう大丈夫だとホッとする反面、相変わらずなシスコンぶりを発揮している啓吾の怒りはかなりのものらしくあたりの物という物が重力の餌食になっている。
そして、その中でも一番のダメージを与えられている鷹族の主は呼吸が苦しくなりながらも赤い目を啓吾に向けた。
「啓星……!」
またこいつも人の二百代前の名を呼ぶかと啓吾はピクリと眉を吊り上げる。とりあえず、こいつは鷹族の馬鹿だなと彼はうっすらとした記憶を辿ると、まずは沙南と柳を安心させる言葉を告げた。
「柳、沙南お嬢さん、すぐに終わらせるから待ってろ」
「うん!」
「ありがとう、啓吾さん!」
どれだけキレていてもそう安心させてくれる言葉を掛けてくれることは忘れないんだな、と沙南は思うが、正確に言えばそれしか言う余裕しかない怒りだということをすぐに知ることになる。
目が青い光を放ち勝ち気な笑みを見せたのは二人にのみで、彼はすぐさま怒りに満ちたシスコンへと変貌したのである。
「よくも柳に触れてくれたなぁ? 圧死か塵になるか選ばせてやるから答えやがれ」
「ぐあっ……!!」
答える前にそれだけ重力を掛けては無理なのでは……、と沙南は思うが、怒り狂っているシスコンに突っ込むだけ無駄だろう。
その間にも、鷹族の主は全身に掛かって来る重力の枷から筋肉がボロボロにされていく感覚と呼吸がさらに止められていく感覚をおぼえさせられる。
どうやら単なる雑魚だな、と全く抵抗を見せない鷹族の主を見限ったのか、啓吾はさっさとケリを付けることにした。
「そうか、んじゃ生き地獄を味合わってくたばれ」
「ちょっと待って!」
突如口をついて出て来た声に、沙南はまた意識を乗っ取られたのが分かったが、素直にそれを受け入れることにした。
「どうした、沙南お嬢さん……、じゃなくて沙南姫様か」
目が虚ろになったことに啓吾は気付いて言い改める。本日二度目の沙南姫の意識に柳はどうも沙南の意識が不安定になりやすくなっているなと感じた。
もちろん、力が暴走している訳ではなく、意識だけが沙南姫へと戻ってるだけなので特に警戒する必要はないと思うのだけれど……
そして、沙南姫は啓吾の前に進み出ると、その凛とした風格で鷹族の主に問う。
「鷹族の主、あなたを操っているのは武帝ですね」
「違う! これは同盟だ! 武帝に鷹族の戦力を貸す変わりに私は沙南姫達を手に入れ、そして憎き天空王を始末してもらうと!」
「鷹族だけで出来る訳ねぇだろ。龍の周りには俺達だっているのにどうやって始末する計算が出来たのか聞いてみたいものだな」
確かに啓吾の言うことは正しい。二百代前、鷹族は他の鳥族と組んだにも関わらず天空族に、というより啓星達にボロボロにされたのだ。それは現代でも充分力の差は理解出来るはずだ。
「ならば、何故光帝達を滅ぼすことが出来たと思う?」
「ありゃ、神族まで出てきたから……!」
つじつまはあった。武帝が同盟を組んでいたのは鷹族を始めとする鳥族の連合軍だけではない。かつて天空族と同等の戦力を誇っていた神族の存在があったから。
そして、鳥の女神を手中に収めているという点も含めて現代で自分達に勝つ方法があるとすれば……!
「お前、鷹族だけじゃなく鳥の女神まで武帝に売ってたのか……!」
「くくっ……! 鳳凰に恋い焦がれていた女神なら、そして現代でも鳳凰と巡り合い二百代前の力を覚醒させた女神ならさぞお前達でも苦戦するはず。
なんせあの女は神族でも最高峰の力を持っていたからな!」
「じゃあ、現代でお前達が本当に狙っていたのは……!」
「そうだ! 鳥の女神を操りお前達を滅ぼすことだ! 貴様達はまんまとあの女がこちらの人質に取られていることで救出に向かうと踏んでいた通り、それこそがこちらの狙いであり貴様達を分散させて仕留めるための罠……!」
それ以上は聞く必要はないと啓吾は一気に鷹族の主の呼吸を止めて悶絶させた。鳥の女神が現代でどこまでの力を持っているのかは定かではないが、二百代前の記憶では鳳凰に戦いを挑めるほどの強さを誇っていた事は事実である。
何より、彼女を探しにむかっているメンバーは末っ子組と紗枝、そして土屋なのだから……
「兄さん」
「ああ、末っ子じゃ鳥の女神相手に戦うのは荷が重いな。もちろん紗枝が覚醒すれば互角の戦いは出来るが武帝が出て来たら厄介だ」
「武帝はおそらく出て来ます」
「沙南姫……」
「彼は天空族そのものを滅ぼそうとするでしょうから弱った太子達を狙わないはずもありません。そのために鷹族の戦力を取り込んだのでしょうから」
確かに的を得た意見だと思う。ならば、まずしなくてはならないことはと啓吾は目を閉じて強い念を夢華に送った。
『夢華! 聞こえたら返事しろ!』
『お兄ちゃん? どうしたの?』
どうやらまだ話せる状況らしく啓吾は安堵した。戦闘中となればとても会話などしていられないのだから。
『いいか、お前達はすぐに引き返して三男坊達と合流しろ。鳥の女神は武帝に操られているらしくてお前達の手に負える相手じゃないかもしれない。それをすぐに紗枝達に伝えるんだ』
『うん! 分かったよ!』
夢華がしっかり答えてくれたのを聞き終えて啓吾は目を開く。
「よし、とりあえずこの馬鹿の始末は終わったからお前達は森達のところにいろ」
「えっ、兄さんは」
「面倒だが俺が鳥の女神のとこに行く。武帝のことだ、天空王の従者だった桜姫は女だったから鷹族の主の元へ差し出して屈辱を味合わせてやりたかったんだろうが、俺は自らの手で殺してやりたいぐらいの怨みは持ってるだろうしな」
何より引っ張り出さなければこの戦いを終わらせることが出来ないのだ。そして、鳳凰と戦ってる龍の元に行かせる訳にもいかない。
「まっ、そういうことだから柳はちゃんと沙南姫様を守っておけよ」
「分かったわ」
「よし。んじゃ、これ頼む」
啓吾は服と靴を脱ぐとそれを柳に投げ渡した。つまり、それをすることの意味は一つだけ……
「覚醒なさるんですか?」
「ああ、というより俺ん中の啓星がそうしろってうるせぇからな!」
次の瞬間、啓吾の目が青く強い力を放ったと同時に青い衣が彼の身を包み込む。そして、溢れ出した重力の力は防弾ガラスを塵に変えて冷たい夜風を最上階の部屋に招き入れた。
「兄さん……」
「啓星様……」
「残念、まだ意識は啓吾のままだ」
ただ、少し揺さぶられてしまえばすぐに啓星として戦うことにはなりそうだけれど。
「夢華達は……ああ、十三階だったか。んじゃ、行ってくる」
そして、啓吾は上空に飛び出して最上階から十三階へと舞い降りて行ったのだった……
はい、お待たせしました☆
本当、どれだけ開けてるんだよと苦情がきそうですが、ただいま新作の構想を練ってましてそれで天空記が疎かになってきてるという……
うん、あとはゲームにはまりまくってる性でもあるんですけどね。
実は新作も乙ゲーの要素を含み、日常と魔法とバトルと恋愛というまたはちゃめちゃな設定を考えている訳です(笑)
勢いがあるなら今年にアップしたいところですが、さすがに厳しいか……
まぁ、バレンタインのお話はもう少し続くぐらいかなぁと思いますので、次回のバトルを楽しみにしていてくださいね☆