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第四話:鷹という名の組織

 深夜、何となく寝付けなくなった紫月はホットミルクでも飲むかと上着を羽織って一階に下りれば、まだリビングの明かりが点いていた。


 兄か姉のどちらかだろうと扉を開ければ、そこには上着を羽織ってパソコンに向かう柳がいた。


「姉さん、起きてたんですか?」

「うん、ちょっと春休みのレポートが気になっちゃってね。紫月もどうしたの?」

「いえ、なんだか胸騒ぎがしたんで起きたんです。兄さんはまた呼び出しですか?」

「ええ、事故で重傷者がたくさん出たみたいだから」

「そうですか、本当に休めない人ですね」


 もともと睡眠なんて取るときに取ればなんとでもなる体質だが、たまにはきっちり休んでほしいと思う。


 もちろん、医者という職業柄、仕方ないところはあるのだろうけど。


「姉さんもホットミルク飲みますか?」

「そうね、お願いしようかな」


 紫月は冷蔵庫から牛乳を取り出し、鍋に火をかけて牛乳を温め出した。レンジでも構わないところだが、どうも美味しく飲みたいと一手間かけてしまうところは紫月らしい。


 しかし、もうすぐ出来上がるかというところで紫月は火を止めた。柳もデータを上書き保存してパソコンを閉じる。


「やはりさっきから嫌な予感がしますね。少し見てきますから」

「大丈夫?」

「ご心配なく。姉さんは夢華と一緒にいてください」


 そう告げて紫月は玄関から外に出れば、真冬の夜の冷気が肌に当たり急いで風を作り出して身に纏った。さすがは二月、暦上では春でも気温は半端なく低い。


 そして、何とか寒さを凌ぎながら紫月は辺りの気配を探ると、キッと屋根の上を睨みつけて舞い上がる!


「そこっ!」


 風を纏った蹴りを繰り出し、屋根の上にいた真っ黒なスパイのような服を着た不審者は多少風に煽られたものの、紫月の蹴り自体は完全に見切っていた。


 そして、すぐにバランスを立て直して紫月と対峙する。左頬にナイフで切られたのだろうか、大きな傷が走っている男だった。


「ほう、見破っていたとはさすがというべきか……」

「こんな夜中に何のご用ですか」

「君達にご同行いただきたく訪れたまでのこと」

「断ります。こっちは学生なんですから明日も学校なんですよ」


 言って紫月は何となく後悔した。翔と付き合ってる所為か発言が低レベルになって来ている気がする。ただ、翔以上に秀から受けている影響の方が問題ではあるのだろうが……


「そうか。だが、こちらは篠塚家を捕らえるように命令を受けている。大人しく従ってもらおう!」


 男はカッと目を見開き、ポケットからナイフを取り出してこちらへ突っ込んできた!


「くっ……!」


 それを何とかギリギリ交わして紫月は下段回し蹴りを繰り出すが、男はそれを跳んでかわしクルリと宙で一回転する。


 どうやらかなり訓練を積んでいるな、と紫月はさらに風の力を纏ってすばやく相手に切り込む。まずはあのナイフから破壊すべきだと、目線だけ相手の顔からはずさずに手首より先は鋭い風の刃を忍ばせていた。


「風の刃か……、だが……!」

「えっ……! きゃあああ!!」


 突然自分の体が弾かれ、紫月はいくつかの家の屋根の上でバウンドするが、それでもすぐに体勢を整えて再度男と向き合うと、男は自分の懐に入り込んでおり、紫月の腹部にナイフを突き刺そうとした!


「くっ!!」

「紫月!!」


 自分の名を呼ぶ柳の声が響くと同時に、男が手にしていたナイフが火球で弾き飛ばされ、さらにいくつかの火球が男に襲い掛かる!


「柳泉!!」

「えっ?」


 二百代前の自分の名前を言われ柳は驚くが、その一瞬の間に紫月は力を解放して爆風を生み出した!


「吹き飛びなさい!!」

「くっ……!!」


 男は体ごと吹き飛ばされたが、バランスを取り戻すなり一旦退却と闇の中に消えていった。


 そして、紫月は力をおさめると柳はすぐに駆け寄ってきた。今いる場所は平坦な屋根とはいえども、ここに来るまでは足場の悪い三角屋根もあるというのに、柳のこういうところは少しおしとやかな性格から離れている。


「紫月、大丈夫なの!?」

「ええ、姉さんのおかげです。助かりました」


 とりあえず、ご近所様の屋根の上にいるわけにはいかないと、紫月は風を纏って自分の家の玄関前に着地した。


「ですが、一体何者何でしょう……」

「紫月!!」


 突然襲い掛かってきた睡魔に紫月の体は崩れる。おそらく、あの体が弾かれた時か……、と考える思考だけは残っていたけど。


「……睡眠薬みたいですね、姉さん、すみませんが秀さんに連…絡……」

「紫月!!」


 それだけ言い残して、紫月は意識を失った。



 一方、地下街の闇の女帝の元を訪れていた秀は、彼にとっては少ない、心許せる女性と会っていた。


「桜姫さん、来てたんですか?」

「はい、お久しぶりです、秀様」


 穏やかな笑みを浮かべて深々と頭を下げてくれる彼女の服装は珍しくスーツ姿だ。どちらかと言えば、青い装束や少し着崩して色っぽく見られる着物姿の方が見慣れている。


 しかし、スーツ姿ということは何かしらビジネスで彼女もここを訪れたということだろう。


「闇の女帝は中に?」

「はい」


 桜姫は綺麗な笑みを浮かべると秀の一歩後ろに下がり、二人は闇の女帝が待ち構えている王の間へと足を踏み入れた。


 そして、王の間に入れば彼女の側近達が両サイドに控えており、自分達は赤いじゅうたんの上を歩いて王座にすわる闇の女帝と謁見する。


 相変わらずの美貌の持ち主で、その長く細い足を組んで女帝の風格を漂わせながらも口元は笑みを象っていた。


「久しぶりじゃな、天宮秀、桜姫」

「ええ。お元気そうでなりよりですね」

「お久しぶりです、彩帆殿」


 月並みな挨拶をかわしつつも、秀は見下ろされるのが嫌いなため、すぐに彼女と同じ目線の高さまでの階段を上がり、桜姫も秀より少し下がった位置まで上がった。


 普通ならここで側近達が動くはずなのだが、彼等を怒らせてろくな目に遭うことはないと熟知しているため、誰も動きはしない。というより、動けば殺される……


「時間が勿体ないので、早速本題に入らせていただきます。闇の女帝。あなたはいつから麻薬に関わるようになったのですか?」


 その問いに闇の女帝はピクリと眉を吊り上げるが、彼女は馬鹿馬鹿しいと頬杖をついて答えた。


「悪いが妾は麻薬に魅力は感じなくてな。あんなビジネスに関わるほど堕ちるつもりはない」

「ですが、あなたの部下がうちに来たらしいんですよ。天宮家に麻薬の密売人が来てないかとね」


 それにも彼女は反応した。しかし、そんなことをするはずがないと分かっているだろう秀に、彼女は不機嫌さを隠すことなく答える。


「嘗められたものだな。妾が部下を使ってわさわざそんなことを伝えに行かせると思うか?」

「では、違うと?」

「当たり前じゃ。そんな者がいたら即刻処刑しておる」

「やはりそうでしたか。あなたなら伝えに来させる前に片付けるでしょうからね」

「時間が勿体ないのだろう、さっさと本題を言え」


 不愉快の代償は皮肉で返すあたりはさすが闇の女帝というところか、それに桜姫はクスリと笑うと、秀も確かに無駄だったな、と思い本題に入った。


「それではお尋ねします。最近、日本に入り込んだ麻薬密輸団、特に大きな力を持った奴らの情報を譲ってください。どうも嫌な予感がするんでね」

「……天宮秀、お前は鷹、という名の組織を知っているか?」


 その名に秀と桜姫は反応する。地下街にいれば一度は耳にする組織名だが、最近の活動から別の噂も流れ込んで来ていたのだ。


 その時! いきなり王の間の扉が激しく開けられ、側近が慌てた様子で飛び込んできた!


「闇の女帝! 大変です!」

「どうしたんじゃ?」

「鷹の連中が地下街に!」


 事態は急激に動き出していた……




今回でバレンタインデー前日を終わらせたかったのに、なんでこう激しくなるんだこの話!

まぁ、天空記はどうもバトルから切り離せないんですけどね(笑)


はい、そんな感じで篠塚家はいきなり襲撃されており、紫月ちゃんもかろうじて無事という展開です。

だけど、無敵な彼女がおされるなんて結構珍しいこと。

敵はなかなかのやり手みたいですね。


そして、闇の女帝の元を訪れた秀と桜姫。

どうやら今回は鷹、という名の麻薬密輸組織が相手みたいで?


さぁ、一体どんなバレンタインデーになってしまうのか……




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