第四十八話:女子大生達の攻防
沙南達を残して宿泊棟の最上階から情報室に辿り着いた森達は、ありとあらゆりシステムの光りに一瞬目をくらませたが、宮岡は桜姫を壁に寄り掛からせるとすぐにパソコンのキーを叩き始めた。
「良、お前こんなの分かんのかよ」
「ちょっといじってやればいいだけの話だから問題はない。森、今現在全員がどこにいるか教えてくれ」
これをちょっとと言うあたりどうなのかと思うが、とりあえず森も闇の女帝を椅子に座らせて全員の反応を確認した。
「まず高校生組はこっちに向かって来ている。啓は……、ああ、お姫様達の所に向かってるな」
それを聞いて宮岡はホッとした。啓吾が向かってくれているのならあの二人は問題ないはずだ。寧ろ、自分達が行った方が邪魔になる。
「末っ子組と紗枝、それに淳は……何だ? 何か妙な位置にいるが……」
「ああ、隠し通路を見つけたか。何階だ?」
「十三階だ。ってかこういったホテルに十三階なんて存在しないもんだけどな」
「だから怪しいんだ。まっ、そこに隠し通路を作るとすればこの辺りか」
宮岡はキーを叩いていきながら一本の通路を作り上げ、そこに四人の反応を打ち込んでいく。
「あとは秀が麻薬会場、龍が踊場だ」
「分かった」
それを聞いて宮岡は全員の現在地を入れ込むと、システムの大画面に宿泊棟内の地図と全員の現在地が映し出された。それから宮岡は自分専用のパソコンをシステムとリンクさせるとニッと口元に笑みを象る。
「よし、これで宿泊棟内のシステムの掌握は完了した」
「はっ!? お前何やって……!!」
「こっちがこの状況なのに無駄な戦闘はしたくないだろう。だから全員が合流出来るルートと脱出口だけを確保してあとは全部締め出す。そのために口頭で全員の現在地を聞いたんだ」
そう、通常ならパソコンを繋いで全員の現在地を映し出すだけでも良かったのだが、宮岡はそれをしながらルートの一本化とシステムの掌握を進めていたのである。
全く、パソコンやらシステムのことになると本当に手際の良すぎる男だと森は改めて思った。その時、勢いよく扉が開かれる。
「森兄ちゃん達無事か!?」
「オウ! 腕白小僧と踊り子!」
高校生組の登場に一行はより安心したが、やはり桜姫のボロボロになってる姿には二人とも表情を歪めた。
「桜姫姉ちゃん大丈夫なのかよ……」
「女子大生達が止血してくれてるから大丈夫だとは思うが、こんなにボロボロにされている桜姫を見るのは初めてだ」
森の言うとおり、一行の中でもかなりの力を持つ桜姫がここまでやられることは珍しい。しかも未だに意識も戻っていない状況で、鷹族の主から打たれた薬がどのように作用してしまうのかも気になるところだ。
しかし、医療の術を持たない翔ではどうすることも出来ないため、彼は彼のやるべきことをやることにした。
「宮岡の兄ちゃん、紗枝ちゃんは今どこにいる?」
「この棟の十三階だ。ルートは一本化してあるから迷うことはないよ」
「分かった。じゃあ、俺はちょっと行って紗枝ちゃんを呼んでくるから紫月は皆を頼む」
「分かりました。ですが油断しないで下さいね、桜姫さんを追い込んだ奴がどこで出てくるか分からないんですから」
「オウ!」
威勢良く翔は答えると紗枝を呼びに行くため、情報室から飛び出したのだった。
その頃、宿泊棟の最上階では沙南と柳がコンビネーションよく鷹族の主に挑み、少しずつダメージを与えているところだった。
「それっ!」
「やっ!」
沙南が鷹族の主の目を太陽光でくらませている間に柳が火球をぶつける。その繰り返しに鷹族の主はその巨大な腕や翼を無造作に振り回すが、やはり世界最悪のテロリストでもある二人は世間一般的には身軽な方だった。
ただし、柳はともかくまだ覚醒してそこまで太陽の力をコントロール出来ない沙南にとって長期戦は不利だということは二人とも感じていたが、他のメンバーのように一撃必殺で悶絶させる方法を考えあぐねている状況だ。
もちろん、覚醒してしまえばすぐに終わるかもしれないが、覚醒して元に戻るまで自分達の力が暴走しないとは限らない。何より、暴走した時に止めてくれるものが今ここにいないのだから……
「沙南姫……! 柳泉……!」
目が眩んでいる状況で無造作に腕を振り下ろしてはいてもそれなりの巨体のためか、風圧と破壊された物品の数々が飛び散って二人を襲って来る。
やはりこのままでは沙南に負担が掛かると思い、柳は意識を保てるギリギリの力を解放することにした。
「沙南ちゃん、少しだけ離れていて」
「……分かった」
沙南は柳が力を解放することを悟り、出来るだけ邪魔にならないようにと部屋の隅の方へ飛び自分の力も溜めておくことにした。いざとなったら小さな太陽でもぶつけてやろうと思っているのは彼女らしい。
そして柳もふわりと髪が熱風で揺れたかと思えば、一気にその目は赤い光を放つ!
「やっ!」
「くっ……!」
暗愚だと言われようとも、増幅した柳の力を感じとった鷹族の主は先程より一回り大きくなった火球を上空に羽ばたくことでよけたが、大きく開いた翼を焼き尽くさんばかりの火炎放射が柳から放たれる!
「ぐあああっ!!」
「まだまだ!!」
柳はさらに火球を翼にぶつけると火の羽がいくつも抜け落ちて地上へと舞っていく。その光景に残酷なことながらも綺麗だと沙南はそう思った。
しかし、翼を焼かれた鷹族の主も少しずつ視力が戻って来たのか、ぼんやりと柳の赤い光を帯びた目を視界にとらえると同時に鋭い爪を振り下ろした!
「くっ……!」
後ろに跳んでそれをかわして柳は再度攻撃を仕掛けようとしたが、ふいにあげられた咆哮で耳に痛みが走りその隙を突いて鷹族の主は柳の体を掴んだ!
「柳ちゃん!」
「動くな沙南姫! それに柳泉! 力を発動するならすぐに貴様の体をへし折るぞ!」
「うっ……!」
巨大な手に捕らえられた体は鷹族の主にとっては自分は今、人形と同じだと告げられているよう。おそらく、少しでも力を解放すれば殺されない程度に危害を加えられる事は分かる。
だが、それ以前に自分がやられてしまえば沙南に矛先が向けられてしまう事の方がもっと気掛かりだった。そして、柳は力をおさめていき赤い目の輝きは通常の瞳の色へと戻る。
「そうだ、それでいい。だが、貴様にはたっぷりと主に逆らった仕置きをしてやる」
「誰が……!」
「私がお前の主だ。薬漬けにして二度と逆らえないようにしてやる。そして、沙南姫!」
鷹族の主は柳を掴んだまま沙南に近寄ってきた。その巨体に捕らえられている柳を何とか助けられないかと思うが、自分の力の発動も柳を危険な目に遭わせてしまうのだろう。
「やっとお前も手に入れられる。天空王がもっとも愛し、守り続けたお前を手に入れることが出来れば二度とあの男にでかい面などさせん! そしてあの男の歪んだ顔を……!!」
突如、鷹族の主の呼吸が乱れ始める。柳を掴んでいた指が一本ずつ無理矢理引きはがされ、柳が地面に落とされる前にその体はふわりと浮く。
そして、鷹族の主に更なる重力の枷が叩き付けられれば、彼は膝を折ってついには立ち上がることも出来なくなった。
「あっ……!」
「兄さん!」
女子大生達の顔がパアッと明るくなる。だが、当の本人は爛々と青い目を輝かせて怒りに満ちた声を発した。
「お前、人の妹に何やってくれてんだよ……!」
そう、シスコンが到着したのである……
はい、お待たせしました☆
相変わらずゲーム三昧の緒俐です(笑)
新作のネタに使いたいのでついついやり込んでしまうという。
さて、一行にいろんな動きが出てきましたよ。
宮岡さんがホテルのシステムを短時間で掌握してしまい全員がすぐに合流出来るルートが完成。
これなら翔も迷わず末っ子組の一行と合流出来るかな。
女子大生達は間一髪のところをシスコンに助けられて良かったなぁ。
次回は怒り狂ってるシスコンがどこまでやるのか……
はい、お楽しみに☆