第四十六話:威圧
地獄絵図と化していた戦場の中を総大将が駆け抜けたことにより、その元凶達は攻撃の手を止めて彼の後を追い掛ける。さすがに一人で敵本陣に行かせるわけにはいかないからだ。
そして、彼等は龍からこれから鷹族の主に降伏を勧めに行くことを聞けば、やはり微妙な表情を浮かべて答えてくれた。
「何も兄上自ら降伏を勧めに行かなくても……」
「お前達に任せたらろくでもないことにしかなりそうにない」
「そんなにひどいことやりましたかねぇ?」
「さぁ?」
「身に覚えがございません」
三人揃って同じような返答に龍は深い溜息を吐き出した。おそらく、自分が相手の大将の元へ進み出なかったら、さらに悲惨な光景が広がっていたことだろう。
「とにかく! これ以上戦う理由なんてないんだ。沙南姫様を守るためとはいえども、相手を潰すまで戦うことを俺は望んでいない。だから兵を引かせる」
「そう簡単に引くと思うか?」
「引かせるさ。それにこの戦、鷹族の主だけの力で鳥族の連合軍が出来上がったとは考えられないし、鳥の女神殿が命じたとも思えない。誰かが裏で糸を引いているはずだ」
その誰か、に会えればいいかと思うが、きっと高見の見物を決め込んでくれているのだろう。それに対してまたS三人は見事に返してくれた。
「まぁ、そうなんだろうが吐いてくれるかだな」
「啓星、吐かなければ吐かせるまでですよ」
「はい。主、拷問の許可を」
「……お前達は少しぐらい敵に優しくなれ」
さっきあれだけやっておいてまだ足りないのかと、龍はガックリと項垂れるのだった……
それから四人はものの数十分もせずに残存兵達を一蹴したあと、ついに敵本陣に降り立った。
しかし、さすがは敵本陣。総大将を守るため鷹族の重鎮達が固めている。だが、龍の発した言葉はやはり甘いものだった。
「鷹族の主に降伏を勧めに来た。道を開けてくれないか」
それじゃあ開けてくれないだろう、と啓星は思うが、あくまでも流血を見ずに全てを終わらせたいと思うのが龍である。そんな主だからこそ、力を貸したくなるのだけれど。
「例え天空王殿でもそれは出来ぬ。主を守ることが我等鷹族の業」
「あんな暗愚な主に仕える価値などあるのですか?」
「秀、今は事を荒立てるな」
「すみません。ただ、私は鳳凰殿と同じ民族だというのに仕える主を間違ってるとしか思えないんですよ。それに聞いてみたいものですね。あなた達は女性ばかりに気をとられて部下は疎か民までを苦しめている暗愚な主に誇りを持てるのかと」
「ぐっ……!」
秀の言うことは事実で鷹族の者達は誰一人として反論出来なかった。それを腕を組んで聞いていた啓星はこれが業に縛られた哀れな者かと思う。明らかに正さなくてはならないものを放置して、自分達を取り巻くものを崩せずにいるものだと……
しかし、それ以上責めてやるなと龍が秀に下がるように命じれば彼はそれに従う。あくまでも目的はこの戦において降伏をせまることなのだから。
「頼む、こちらはこれ以上犠牲を出したくはないんだ。そこをどいて」
「うおおおおっ!」
「主!」
敵の一人がいきなり叫んだかと思えば龍に襲い掛かって来たが、届く前に桜姫が龍の前に立ちあっさり敵を花びらで切り刻む。
しかし、それを皮ぎりに残りの鷹族も四方八方から襲い掛かってきた!
「ったく……!」
「仕方ないですね」
「主、少しお待ち下さいませ」
重力と火、そして花びらが舞い散れば敵は次々とその場に悶絶させられていく。命までを奪うなと龍の意思を感じ、尚且つ龍には力一つ使わせないようにして三人は戦う。
ここで龍が戦ってしまえば、先ほどの言葉の意味が軽くなってしまうと分かるからだ。
「ぐはっ……!」
最後の一人も秀が軽く首筋を打って気絶させれば、ついに本陣には鷹族の主一人の気配しか感じられなくなった。逃亡する時間はあったのだが、それだけはさせないと啓星がきっちりここに来たときから重力の枷で捕らえていたのである。
そして、四人は気配のする大きなテントの簾を潜れば、そこには悔しそうな顔をした鷹族の主が椅子にがっちりと押さえ込まれていた。
「天空王……!!」
「そちらの負けは確定しているため降伏を要求しに来た。これ以上の犠牲を払いたくなければ今後一切、沙南姫様や自然界の女神殿、そして天空族に危害を加えぬと約束してもらう」
「認めん! 私は沙南姫達が欲しいのだからな!」
「己が私欲のためにどれだけの犠牲が出てると思ってるんだ!」
「それが下の者の役目だ! ぐうっ!!」
既に敗北は決まっているというのに往生際の悪い、と啓星はさらに重力を強め、その発言にキレた桜姫も手に花びらを纏って龍に申し出た。
「主、このような者に降伏を勧めたところで無駄です。私が斬り捨てます!」
「桜姫」
「それが鷹族のためというもの。このような愚か者に彼等の命と忠義を無駄にさせることも、何より主が手を下す必要はありません」
龍に降伏を勧めさせること自体が彼女にとっては龍に膝を折らせてるような気にすらさせていたのだ。これ以上は誰一人譲るつもりはないらしい。
だが、鷹族の主はニヤリと笑みを浮かべて桜姫に問う。
「桜姫、私を殺せば鳥の女神殿はどう思われるか」
「暗愚な主が消えて清々するとおっしゃってくれるかと」
ばっさりと言い切ってくれる桜姫に啓星はさすがだなと感心する。もちろん、もっと痛烈な言葉を言っても構わないと秀は思っているが。
「だが、鷹族の習性は知っているだろう? 主を守れなければ自害するとな。それに鳥の民族が一つ滅びれば神族が黙ってはいまい?」
「くっ……!」
それには桜姫も眉を顰める。この馬鹿主の跡を継ぐ主が決まっているのなら問題はないが、それがいないとなれば少なくともここにいる鷹族は自害するに違いないだろう。
どうやら突破口を開けたと鷹族の主はニヤニヤして龍に迫る。
「さぁ、天空王。それでも……!」
次の瞬間、その場にいる全員が立っているのがやっとなほどの威圧感を龍が放ったかと思えば、龍は鷹族の主の喉元に剣先を突き付ける!
「兄上!!」
「龍!!」
「主!!」
声を出すのがやっとで、三人は龍の行動を止めることなど出来ない。体中から冷汗が流れて来て、ただ、龍がすることを見ているしかなかった。
「て、天く……おっ!!」
三人がやっと立っていられるだけの威圧感な上に、彼等より力のない鷹族の主が声などまともに出せるはずがない。
「命までは取りはしないがこれは警告だ。お前の後ろ盾に誰がいるかは知らないが、俺達に危害を加えるなら例え相手が何者であろうと容赦はしない。
それにこんな茶番の戦を起こして何を企もうとも……!」
「ひいっ……!」
更なる威圧感によって、ついに鷹族の主は泡を吹いて気絶した。
「俺達は全て打ち砕く」
そして、その後に鷹族と天空族との本格的な戦へと時は流れていったのである……
はい、お待たせしてすみません!!
ゲームにまだはまったままの緒俐です(笑)
だって、乙ゲーってかなり面白いじゃないですか!
人間味あふれて胸キュンしちゃいたいんですよ!
それを小説に使いたいなぁと……(遠い目)
さて、とりあえず次回からは現代に話を戻します。
本当、久しぶりの現代話ですね。
ノクターンは今のところ現代ですが、こっちは一ヶ月以上は現代書いてないんじゃないか!?
まぁ、鷹族の変態ハーレム馬鹿との戦いからスタートてすので、またドタバタコメディーをお楽しみ下さい。
本当、どうなっていくことやら……