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第四十五話:地獄絵図

 地鳴りがする。怒声が響いて鳥族の連合軍の士気は上がる。その姿はまだ人間のままでいるものと鳥へと容姿を変えているものと様々だが、天空軍の大将が天空王であることを聞き、さらに彼等は白熱していた。


 そして、ついに彼等は天空軍の本陣を視界にとらえたのである。


「見えたぞ! 天空軍の本陣だ!」

「天空王の首はすぐそこだ! かかれぇ〜〜!!」

「うおおおお〜〜〜っ!!!!」


 三十万の大群は我先にとスピードを上げるが、本陣を前にして自分達を遮ろうとする最初の真っ白な壁が立ち塞がる。特にその中でも少年と少女が先陣を切って立っているのだ。


「西天空太子!!」

「そこをどけぇ!!」

「そっちこそ俺以上に最悪な目に遭わせようとしている兄者達の元へ行かない方が絶対幸せだから引けっ!!」


 敵の身を案じる言葉が出るのは仕方ないか、と紫月はいつもの百倍納得するが、それで引いてくれるなら最初から戦など起きはしない。鳥族の連合軍は士気盛んに翔達に突っ込んできた!


「紫月、今日は少し大人しく暴れようか」

「翔様からそんな言葉が出るなんて……」

「俺だって同情ぐらいするやい!」

「……そうかもしれませんが、油断はなさいませんよう。相手は鳥なので」

「分かってらい! 風の使い方ぐらい気をつけるさ」


 相手は鳥族。風に乗られる可能性は高く、使い方を誤ればこちらに隙が出来てしまう。しかし、翔は勝ち気な笑みを浮かべて剣を抜くと三十万の大群に斬り掛かっていった。


「風の刃に斬り刻まれたくないものは今すぐ下がれ!」

「生意気な!! 従者もろとも葬り去ってくれる!」

「そんなの御免だい!」

「遠慮致します!」


 鋭い風を身に纏った二人は一斉に襲い掛かって来る鳥の群れを吹き飛ばし、そして切り裂く! うめき声が上がるがそれを気にもせず二人は身軽な動きで次々と敵を薙ぎ倒していった。


「西天空太子〜〜!!」

「おっと!」

「ぐあっ……!!」


 後ろから飛び掛かってきた怪鳥の爪をかわし、翔はタンと怪鳥の肩に飛び乗って剣の柄尻で首筋を強く打って失神させる。

 いつもなら爪を一閃で切り裂いて相手を斬りつけてるところだが、どうもそういった気になれないのは兄達のことを考えてしまうからだ。


 それは翔だけではなく、紫月も同じ心持ちらしい。相変わらず風の踊り子といった感じで相手を次々と蹴り倒してはいるのだが、相手を地面に埋めるまでの強さでおらず、かまいたちの威力も若干やさしい。


 しかし、いつも戦っている訳ではない相手にとっては二人の強さが分かるはずもなく遠慮なしに襲い掛かって来る。


「小娘!!」

「従者風情が生意気な!!」


 主がダメならせめて従者だけでもと紫月を狙ってくるものが増え始めてきたが、彼女はせめて自分に倒されるならまだ地獄は見ないでいいだろうとフワリと強い風を一瞬身に纏って蹴り掛かった!


「寄らないでください!!」

「がはっ!!」

「グホッ!!」

「ゲハッ!!」


 疾風の如く、しかし、鮮やかな蹴り技が三体の怪鳥の急所に入り地に伏せさせる。我ながら今日は甘いものだと紫月は心の中で深い溜息を吐き出しながらも、また襲い掛かって来る敵に向かっていく。


 しかし、彼等の後方から援護射撃をしていた天空軍の兵達からどよめきが聞こえ始めると、二人は上空から降り注いで来る殺気に気付く。もう、あの三人が待てないということなのだろう。


「紫月、兄者達が来た! すぐに戻るぞ!」

「はい!」


 二人は風を身に纏うと、それは猛スピードで後退した。そこにいれば間違いなく今からやってくるであろう地獄に巻き込まれるからである。


 そして、鳥族の面々は上空に浮かぶ最悪Sトリオを発見するのだ。


「南天空太子だ!」

「啓星と桜姫も出て来てるぞ!」

「柳泉はいないのか!?」


 柳泉の名を聞いてピクリと反応するSが二人。もちろん、シスコンと腹黒である。


「お前らみたいな欲まみれに妹を曝せるかってんだ!」

「全くですね。やっぱり柳泉は私の中に閉じ込めてしまおうかな」

「お二人とも、今だけは堪えてくださいませ。八つ当たりには充分の軍勢ですので」


 シスコンと腹黒の喧嘩は今は止めておこうと桜姫はピシャリと言い切った。ただし、敵に対して全く容赦ない言葉はさすが桜姫というところか。


 そして、秀は黒い微笑を浮かべて既に彼のテリトリー内に入ってしまっている鳥族の群れに容赦なく告げた。


「さて、本日は鳥の丸焼きで決定ですね。では……!」

「うわああああ〜〜〜!!」


 秀が指を鳴らしたと同時に、地中に仕掛けておいた火薬が炸裂して辺りは火の海へと変わる。

 ただし、当然彼がそれだけで終わらせるはずがない。指をもう一度鳴らせばロケット花火が打ち上がってきてさらなる爆発を生む。


「まだそこまで熱くなさそうですね」


 地上とは打って変わって涼しい顔をしたまま、秀は上空からも火の雨を降らせた。


「うわっち〜〜!!」

「水!! 水をくれぇ〜〜!!」

「ひっ、火がぁ〜〜!!」


 四方八方、秀の攻撃に囲まれた鳥族達は喚き散らすが、まだあと二人残っていることを忘れてはならない。


「んじゃ、おまけだ」

「こちらもついでに」

「うぎゃあああ!!」

「やめてくれぇ〜〜!!」


 啓星が重力を叩き付けて拘束し、桜姫が空間を歪ませた上にそれは悍ましい怪物の幻術を見せ付ければ、鳥族の兵達はついに泣き叫び始めた。地獄から逃げることまで出来なくなった挙げ句、更なる恐怖まで煽られたのである。


 そんな地獄絵図を遠くから眺めていた翔はただポツリと感想を漏らした。


「……ひでぇ」

「はい……、ですがまだ向こうの大将にはこんなもので済むのでしょうか……」


 想像もしたくないとはまさにこの事である。すると、天空軍の大将殿は思い腰を上げて翔達の前に進み出た。


「龍兄者、どっか行くのか?」

「向こうの大将の元へ」

「待て待て! 兄者は大将なんだからそれはまずいだろ!?」

「天空王様! それは私も反対です!」

「ああ、だがな……」


 翔達が止めるのはもっともな事なのだが、彼はそれ以上もっともな理由を返してくれた。


「このままいったらあの三人が何を仕出かすか分からないから俺が直接降伏するように出向く。伝令一人出せない状況だからな……」

「……俺達でも行く勇気ないよな?」

「勇気以前の問題ですよ……」


 そう、目の前の地獄絵図に巻き込まれずに行く力の持ち主など龍しかいないのだ。

 何よりあの三人の性格から考えても相手が降参して懺悔して、さらに三人のストレス発散に付き合わされない限りどうにもなりそうにない。


 そして、龍はこれ以上ここに全軍が揃っていても申し訳ないからと翔に命じた。


「翔、ここはあの三人で片付くから全軍天宮まで下がって休むように言っておいてくれ。それと遅くならないから宴の準備もしておいてくれ」

「分かった! 全軍撤収するぞ!」

「うおおお〜〜〜!!」


 勝利の歓声を上げて天空軍は涙を流しながら天宮へ撤退していく。当然、その涙の持つ意味は喜びではなく恐怖だということは言うまでもない。


「だけど兄者、気をつけてくれよな」

「ああ、俺が向こうに出向くとなればあいつらも一緒に来てくれるさ。だが、出来ればすぐに引いて欲しいけどな……」


 これからのことも含めてと、龍は深い溜息を吐き出すのだった……




大変お待たせしました☆

こっちは久しぶりの更新です!

ノクターンを連続で書いちゃいましたからね。


さて、今回は戦ということですが……

翔と紫月ちゃんがいつもより遠慮して戦ってしまうという事態に……

うん、兄達がね……、というかどこまでやるんだろうなあのS達……


だけど、見るに見兼ねた天空王は伝令を出せないからと自ら降伏を勧めに行くことになりました。

つまり、一旦次回で二百代前のお話は打ち切りかなと。

ならなかったらすみません(笑)


では、次回もお楽しみに☆




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