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第四十二話:守ることを迷うな

 宴の後ははっきり言って悲惨だった。辺りに皿や酒瓶が散らばっていることはまだ許すにしても、屋根や床に穴が開いていたり、会場の壁が崩れ落ちたり、皹や黒ずみになってる箇所や植物の類が召喚されているのはどうかと思う。


 しかし、全員騒ぎ疲れたのか、それとも龍が連れ帰ってくれるから問題ないと決定事項になっている性か、実に健康的な寝息を立てていた。


 そんな中、唯一まともに起きている桜姫は、紫月と末っ子組にのみ毛布をかけてやりながら龍の肩を借りて眠っている沙南姫にフワリと笑みを零した。


「主、お疲れ様でした」

「桜姫……、今回も天空軍で太陽宮は修繕か……」

「はい。ですが、光帝はいつもの事と気にしておられませんし」

「また改めてお詫び決定だな……」


 毎回申し訳ないと思いながらも、天空族の面々はその態度を悔い改めることをまずしない。ただ、光帝は面白いから問題ないと笑い飛ばしてくれているのだが……


 とりあえず、沙南姫をこのままにしておくのもと思い、龍はスッと沙南を抱え上げた。


「主、皆様は私が連れ帰りますので主は沙南姫様と今宵は御一緒に」

「桜姫……」

「光帝は部屋は整えてあると申しておりましたので」

「おいおい……」


 ニッコリ笑う桜姫に通常なら言い返していたが、騒いで沙南姫を起こすわけにはいかずガックリとうなだれた。どうしていつも自分の周りはこうなんだと思うが、理由は楽しいからだと返されるのがオチである。


 ただ、冗談はここまでにしておいた。桜姫は龍の気に掛かっていることにも気付いていたのだから……


「……気に掛かっておられるのですか? 鷹族のこと、いえ、この未来のこと」


 桜姫の問いに、やはり従者には分かってしまうなと龍は眉尻を下げて自分がこの先危惧している事態を告げた。


「ああ、おそらく鷹族とはいずれ戦となると思う。ただ、鷹族は鳳凰殿の血筋であり、鳥の女神殿の配下と当たる民族。あの太子を叩くだけならまだしもそうはいかないだろう」

「はい、やがては神族も関わって来ることでしょうし……」


 味方としてか敵としてか、それはまだ分からないが、と二人とも声にはださないが思っていた。

 ただ、今に至るまでは主上の勅命ということで多くの民族と戦って勝利をおさめて来ているのだが……


「ですが主、こちらも守らなければならないお方がここに」

「……ああ」


 腕に抱えている姫君を守るため、おそらくそのためになら多少の無茶ぐらいやってのけられると思う。

 しかし、彼女は天界全土を巻き込むような戦いを望むかと言えば、きっとその表情を曇らすだろう。それでも桜姫はきっぱりと言い切った。


「主、例え天界全土を巻き込む戦になろうとも、沙南姫様を守ることを迷わないで下さい。私達はそのためになら例え命を落とそうとも後悔は致しません。それは光帝を守る鳳凰殿も同じこと」

「桜姫……」


 従者は主が守りたいと願うものを、自分の命にかえても主とともに守るのが使命だ。寧ろ、それが従者としての誇りであると言い切れるまでに。


 すると、桜姫は凛とした表情をして片膝立ちになって龍に深く頭を下げた。


「主、ご命令を」


 凛とした声はいつも彼女が梃子でも動かないほどの覚悟を決めているときに発せられるもの。それに水を差すようなことをいくら主とはいえ、龍は言うことが出来なかった。彼女の行動が正しいものだと分かっているからだ。


 龍は申し訳ないと一度顔をしかめたが、それでも王として従者に命じた。


「……分かった。桜姫、天空族の長として命じる。来る戦に備え鷹族の動向を探り報告せよ。ただし、防衛以外の一切の抗戦は認めぬ」

「はっ!」


 短く答え、桜姫は花びらを身に纏って瞬時にその場から消えた。


 それから少しの沈黙が訪れた後、もう一人の従者も彼女と同じことを告げる。


「守ることを迷うな」

「啓星……」


 やっぱり起きていたのかという声で龍は彼の名を呼べば、啓星はうんと伸びをして微笑を浮かべた。ちゃっかり酔い潰れた紗枝を片手で抱いているあたりは彼らしいが……


「桜姫の言う通りだぜ? お前が迷えば天空族全てに何らかの影響が出る」

「ああ……」

「だが、そんな主だから俺達はお前の下に集いたくなるんだ」

「啓星……」


 寧ろ全てを何とかしたいと願わない王に啓星はまず惹かれなかった。天のように全てを包み込む強い存在の癖して不器用な王だからこそ力になりたくなるのだ。


「心配すんな。お前が沙南姫に現を抜かしても問題ないぐらいは働いてやるさ。少なくともあの馬鹿には指一本触れさせやしねぇよ」

「……紗枝殿に危害を与えたことでもキレてるのか?」

「さぁ? ただ、こんないい女を他のクズに渡したくはないだろ?」


 ニヤリと色っぽい笑みを浮かべる従者に太陽宮だけじゃなく、明日の朝は天宮まで破壊されるのかと龍は肩を落とす。間違いなく啓星はまた自分の部屋に紗枝を連れ込んで寝るつもりだ。


 ただし、彼がそうする理由は彼女を守るためであって、不純な気持ちからではないと龍は分かっていた。まぁ、そんな気持ちがないと疑わないのは龍だけであるが……


 その時、辛うじて危害のない入口から風が舞い込んだ。気配すら感じさせず、いつの間にかそこに鳳凰が立っていたのだ。


「天空王殿」

「鳳凰殿。すまない、太陽宮でまた……」

「いえ、光帝は許容範囲内と申しておりましたので」


 あっさりと鳳凰に答えられて龍はさらに申し訳ない気分にさせられた。しかし、その原因は苦しそうに笑いを堪えているわけだが。


 しかし、鳳凰はそんなやり取りをしに来たのではなく光帝からの伝言を持ってここに来たのだ。


「天空王殿、光帝がしばらく沙南姫様をそちらであずかって欲しいと申しております」

「沙南姫様を?」


 突然の申し出に啓星もピクリと反応した。それはついに動き出したかという顔をして。


「はい。主上の命により我等光軍はしばらくの間、遠征に赴くこととなりました。

 光帝自ら赴く戦ですので敗戦はございませんが、沙南姫様を狙う賊からは天空王殿が守って下さった方が安心できるからとおっしゃっておりますので」


 つまり、それだけの大軍が動くことと、太陽宮の守りの戦力は極力押さえておくということ。沙南姫を狙う者達からすれば、これほどチャンスとなる時はないのだろう。


 そういうことならばと、龍は彼女を守るために快く承諾した。


「分かった。沙南姫様はこちらで預かる」

「よろしくお願いいたします。では、私はこれにて」

「いや、待ってくれ」


 龍はその場から去ろうとした鳳凰を呼び止めた。まだ尋ねておきたいことがあったからだ。


「鳳凰殿、光軍はどの民族と戦う?」

「……鷲族です。そして、いずれは鳥族全てを相手にする可能性はあるかと」

「鳥の女神殿からは何も便りはないのか?」


 鳳凰の脳裏に女神の顔が過ぎる。あの凛とした女神が大戦にもなりかねないこの戦にどうでてくるのか、今後関わって来ることは事実で……


「……あの方も戦いは止めたいはず。しかし、何もないのならば私はただ光帝を守るために戦うのみ」


 それが近衛兵としての使命だからと鳳凰の表情はそう物語っていた……




宴の後は余計に気苦労度が上がるという龍……

本当、この人から気苦労をとってやりたいところですが、無理なお話でして……


はい、今回は主従のお話となりました。

戦に関して、天界全土を巻き込んでいくのではないかという龍の予想はまさにその通り。

時間軸でいけば、天空記本編の二百代前の最後の戦の少し前というところでしょうか。


まぁ、この光軍の遠征も光帝が殺されてしまう太陽宮襲撃成功の理由の一つになりますが……

その理由も鋭い方なら分かるかも。


次回もまた二百代前のお話。

鷹族の馬鹿が沙南姫様が天宮にいた頃にやったことも書いておかねば(笑)

では、次回もお楽しみに☆




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