第四十一話:気苦労の宴
天界でもここまで華やかで賑やかな宴は絶対ないだろうというのが天空族の揃う太陽宮の宴。
それは非常に結構なことではあるが、宴後の惨状に毎回頭を抱え、太陽宮に損害分を弁償しなければならないことに天空族の長は頭を抱えるわけだ。
さらに言うなら、その弁償に追いやる原因が弟達だけではなく、従者や将軍、おまけに何故か自然界の女神殿も加わっているわけである。
直接的に出さないのは柳泉のみという何とも痛い事実だが、いま現在は両手に花の状況を彼も楽しんでいた。
「さっすが天空王ね! スカッとしちゃったわ!」
「本当! 殿下大好きよ!」
紗枝に酒を注がれ、沙南姫に腕を絡められてピタリとくっつかれている状況はまさに男にとってはこの上ない幸せだろうが、龍には不純な気持ちなど全くない。まぁ、沙南姫にくっつかれて嬉しい気持ちはあるのだけれど。
そして、その傍で柳泉に酌を受けながら秀は気になっていたことを尋ねた。
「柳泉、貴女は変なものは送られて来ていませんか?」
「はい、ございません」
「そうですか。まぁ、あったらすぐに消し炭にしてやりますけどね」
「ありがとうございます」
消し炭になるのはものだけではないだろうな……、とここでそれを口に出せる猛者はいなかった。もちろん、火じゃなくても重力で消される可能性も考えなくてはならないが……
そんな会話を聞きながらも、龍は今日の事で気掛かりになっていることがあった。
「だが、鷹族の太子があの程度で引き下がるとは思えないんだが……」
「兄上、その時は私が手厚くもてなしてやりますから」
「龍、心配すんな。何なら今から戦でも仕掛けるか?」
「主、天空軍一同、すでに準備は進めておりますのでいつでも出陣」
「だから何でいつもお前達はそうなんだ!」
事あるごとに面白がって最終的には相手をトコトン叩きのめしている、そんな民族だという噂が天界全土に広がったらどうするというのだ。
しかし、それはそれで構わないと彼の弟と従者達はあっさり言ってのけた。
「それは兄上が気苦労なさってますから」
「気苦労の半分以上はお前達の性だ」
「気にくわなければぶっ飛ばした方がすっきりするだろ」
「戦をストレス発散に使うんじゃない」
「やはり」
「桜姫、言わなくていい……」
龍はガクリと肩を落とした。大抵、こういう時に告げてくれる桜姫の言葉は沙南姫に関すること。おそらく沙南姫を自分のものにするためにとでも言うに違いない。
ただ、そんなことなど露知らず、沙南姫は酒を飲みながら相変わらずな気苦労性の長に明るく告げた。
「まあまあ、今日はせっかくの宴なんですから楽しんで頂戴。ねっ! 殿下」
「ああ、うちの者達がそちらに無礼を働かなければの話だけどな……」
しかし、それほど叶わない願いはない。既にこんな話をしているうちに無礼講状態になっており、酒の瓶が至るところに散らばっている上に皿がいくつも割れている音が響き渡っていた。
「桜姫! 舞ってくれ!」
「私も見たい!」
「はい、夢華様」
「お嬢ちゃん限定の返事かよ!」
「森将軍のためになど」
「皆まで言うな!」
そう言いながらも桜姫は美しく舞始めると喝采が上がり、酒が進んでいる将軍達や夢華も踊り、楽を奏しはじめる。
それを愉快に見ながらも紗枝は持ち込んだ酒をドンと啓星の前に置いた。
「啓星! 勝負しましょ!」
「紗枝……、また俺におぶって帰らせるつもりかよ……」
「あら、いいじゃない。どうせ天宮に泊まるんだし。それにこのお酒上物なのよね」
「それを早く言え!」
「ちょっと! 一人で飲まないでよ!」
そして、龍は翔達は大人しくしてるかとそちらを見やれば、どうやら帰って説教が決定したらしい。紫月が飲酒した主を叱っていた。
「翔様! また純様まで巻き込んで飲酒しましたね!?」
「しゆき……、しゃけはのむものえ、のまへなひ」
「のまれてるじゃないですか! 全く!」
その翔の隣で大人しく眠っている純はとても可愛らしい。だが、きちんと注意しておかなければなと保護者は思う。
しかし、酒に思いっきりのまれている翔はヘラヘラ笑いながら紫月をギュウッと抱きしめた。
「しゆき〜〜」
「ちょっと! 翔様!」
「あっらかひなぁ〜」
それに紫月は真っ赤になってしまうが、何とか引きはがすために誰かに助けを求めようと思うが、さらに頭まで翔の胸に押し付けられてしまってはどうにもならない。
とりあえず、龍はシスコンが暴れ出す前に紫月を助けるべきかと思いそちらに向かうが、チラリと横目で秀の方を見ればまた嫌な予感がした。
「ほら、飲みなさい柳泉」
「でも……」
「今日は宴なんですからハメぐらいはずしなさい。さっ、こちらはすっきりして甘いですよ」
「あっ、本当」
そして、盃が溢れるほど並々と注ぐ秀の口角が吊り上がっていることを龍は見逃さなかった。間違いなく柳泉をキス魔に変えて自分のしたいように楽しむつもりだ。
先にそちらを止めておくべきかとも思うが、恥ずかしさが風に変わってきた紫月を見て、とりあえず彼女から助けることにした。
だが、助けに行く前に彼の背後を酒瓶が剛速球で飛んでいった。やったのは啓星である。
「おい、秀! お前どんだけ柳泉に飲ませてるんだ!」
「まだそんなに飲ませてませんよ」
「フフッ、そうよ兄様」
もう酔ったのか!?と龍はその目を疑ったが、どうやら秀が酒に即効性の薬か何かを一服盛ったらしい。柳泉が既に上機嫌で秀に抱き着いている。
しかし、その直後に爆風が起こり、ついにキレた紫月が殺気たっぷりに翔を見下ろしていた。
「いつまでくっついてるんですか! 風に切り刻まれたいんですか!!」
「紫月! それ以上力は使うな! 太陽宮が壊れる!」
慌てて龍は彼女のもとに行くが、さらに背後で重力と熱がぶつかり、おまけにどこからか大木までが生えはじめた。大木はまさに自然界の女神殿である。
「啓星! まだ勝負は終わってないんだからさっさと飲みなさい!」
「後にしろ! その前にあの腹黒を潰してやる!」
「こっちだって燃やしてやりますよ!」
「おっ! キャンプファイアーか?」
「悪くないな」
そしてまた荒れていく太陽宮……。ここまで来るともう止めようがないので、とりあえず眠っているものだけでも避難させておこうと龍は純を抱えて隅に避難したのだった……
その頃、鷹族の居城へと戻っていた鷹族の主は、ハーレムの中にいても龍への恨みを消すことが出来なかった。
「天空王〜〜〜!!」
「太子、ご機嫌を治してくださいませ」
「そうですわ、どうか御寵愛を」
「黙れ!! 私は気が立っておるのだ!!」
うなだれ掛かって来る女達を乱暴に払いのけ、傍にあったきつい酒を一気に流し込む。
彼の欲望の中では、とっくにこの酒を沙南姫達に注がれているはずだったのだが、それをあっさり龍に打ち砕かれたのだ。無論、まだ手に入れることを諦めるつもりなどないが……
その時、彼のハーレムの中にフワリと風が入り込んだかと思うと、一人の男が姿を現した。
「相変わらず心のままに動く」
「武帝……」
そこまで面識のない男が何故ここに来たのかと思うが、武帝は鷹族の主の前に座り傍にあった酒を手にとって切り出した。
「太子よ、力を望むか?」
「当たり前だ! 天空族さえ滅びてしまえば全て私の手に入る!」
即答した鷹族の主に武帝はやはりそうかと声を立てて笑った。
確かに神族や光帝など邪魔な戦力も多いが、天空族の存在を消すことは光帝の力を抑えるきっかけにもなるわけで、鷹族の主の言うことは当たらずも遠からずというところだ。
そして、武帝は酒の栓を抜きゴクリと一口喉に流し込むと鷹族の主に持ち掛けた。
「いいだろう、ならば私の力を貸そう。ただし、鷹族の武力は私に譲れ」
「武力を?」
「そうだ。天空族を消すため、特に天空王の存在を消すには手数が足りぬからな」
「構わない! 沙南姫達さえ手に入るなら自由に使え!」
この答えが後、光帝を殺す事件へつながるきっかけとなったのである……
十日ぶりぐらいの更新です……
すみません、もう一個の方を書いちゃいまして……
ノクターンの調子がかなりよろしく……
さて、今回は太陽宮で宴という名の騒動でした(笑)
弁償に悩む王……、はい、普通はないですよね、自分の部下達の責任を全て背負う羽目になるなんて……
でも、きっちりしてるから仕方がないんですよ……
そして、鷹族の馬鹿と武帝が接触。
これが後の光帝が殺されるきっかけになるわけです。
まぁ、どこまで書くかはまだ決めていませんが……
でも、次回もまだ二百代前のお話です。
楽しんで読んでくださいね☆