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第三話:麻薬

 秀がバイトから帰れば沙南が夜食の準備をして待っていてくれた。弟二人はきっと二階でゲームでもして遊んでいるのだろう、何やら賑やかな声が聞こえる。


 沙南特製、野菜とキノコの雑炊を堪能しながら、秀は明日、森達がおそらく大量の酒を持ち込んで馬鹿騒ぎをすることを伝えれば沙南は苦笑した。


「そっかぁ、土屋さんは来られないのね」

「ええ。ですが、事件が片付いたら貰いに来るみたいですよ」

「じゃあ、翔君に見つからないように保管しとかなくちゃね」

「そうですね、金庫の中にでも入れておけば大丈夫なんじゃないですか?」


 そこまでしなければ確かに盗られる可能性はあるので、沙南はその意見を採用することにした。


 それからドタバタと階段を下りる音が聞こえてきて、翔は勢いよくリビングの扉を開ける。


「沙南ちゃん! でっかい紙袋ある?」

「あっ、秀兄さんお帰りなさい」

「ただいま。それより翔君、もう少し静かに下りて来られないんですか?」


 夜なんだから、と注意するが、未だにこの腕白坊主が秀の言うことを聞いた試しはない。ただ、脅迫されれば従うしか道はないらしいが……


 それから沙南は大きな紙袋を二つ、翔と純に差し出した。


「はい、どうぞ。明日のチョコはいくつもらえるのかしらね」

「そりゃ沢山に決まってるよ! なっ、純!」

「うん!」


 実に良い笑顔だ。この笑顔に負けて女の子達は彼等にチョコレートを渡してしまうのだろう。


 ただし、翔に関しては一言つっこんでしまうのが秀である。ごちそうさま、と告げて鈍感な弟に忠告しておく。


「紫月ちゃんが沢山用意してくれるでしょうに、それでも足りないのですか?」

「紫月のはその日のうちに全部食う。あとは保存食!」


 そうきっぱり言い切るのはさすがというか……、しかし、紫月に餌付けられてるのは確かで、彼女のことを無意識で口説いていそうな言葉だ。


 それに呆れながらも、秀はバレンタインデー後のお約束を告げる。


「はあ〜、そんなにもらって紫月ちゃんに三倍返し出来るんですか?」

「えっ、三倍!?」

「ホワイトデーの鉄則ですよ。お返しは三倍」


 あくまでも紫月ちゃんだけなんだ、と沙南は心の中でつっこむ。しかし、そう言われると純も困ったかのように可愛らしく唸った。


「う〜ん、僕、夢華ちゃんに三倍も返せるかな?」

「純君は大丈夫ですよ。ですが、翔君は普段から人の十倍紫月ちゃんに迷惑かけてますからね。それぐらい返さないと僕や兄さんまで申し訳ないんですよ」


 そのことに関しては本気で反論できない。紫月には毎日のように迷惑をかけている自覚はある。


 ただし、それを言うなら秀だって毎日ではないにしても同じことが言える。いや、寧ろ性質の悪さでは群を抜いているのではないかとすら思う。


「そういう兄貴こそちゃんと返せるのかよ! 普段から柳姉ちゃん、困らせてばかりじゃねぇか!」

「何言ってるんですか。三倍どころか百倍にして返しますよ。まぁ、それまでに始末しなくちゃいけない人がいますけどね」


 冗談に聞こえて冗談じゃないのが秀である。なんでこういう恋人のイベントごとに、毎回啓吾と争うんだろう、と誰しもが思うが、シスコンと腹黒だから、という理由で説明がつくのも二人ならではだ。


 顔を合わせた途端にこれは荒れるな、と沙南は思いながらも、そろそろ年少組は寝る時間だと時計の針が告げている。


「それより二人とも、明日も学校でしょう? 早く寝なさい」

「へいへい。そんじゃお休み」

「お休みなさい」


 それからまたドタバタと二階に駆け上がっていく年少組に、やれやれと思いながらも、コーヒーを入れようと沙南は立ち上がる。


「だけど秀さん、明日柳ちゃんと二人きりで過ごさなくて良かったの?」


 コーヒーを準備しながら沙南はもっともなことを尋ねる。こういったイベントに、秀の悪戯心が騒がないはずがないからだ。


「兄さんがいたら遠慮なく過ごしてましたけどね。でも、僕にとっても沙南ちゃんのチョコレートは楽しみでもありますし」

「小さい時からの習慣だから?」

「もちろん。年々腕を上げてますから、それを味わいたいのは当然のことです。あと僕に毎年、義理と書いてくれるのは沙南ちゃんだけですから」

「ふふっ、レア物でしょう?」

「ええ、重宝してますよ。兄さんにも渡したくないぐらいにね」


 これは秀の本心である。そして、昔から秀のこんな気遣いが沙南も好きだ。少し元気がない時に、こうして励ましてくれるのだから。それから彼女は口角を吊り上げてとてもいい顔で笑った。


「秀さん」

「はい」

「ありがとう」

「どういたしまして」


 その笑顔にホッとして、秀は差し出されたコーヒーに口をつける。何でこんな素敵な女の子を放っておくのか、と心の中で龍に抗議するが、結局いつも肝心なところははずさないのも龍だ。きっと、沙南を泣かせるようなことはしないだろう。


「それと秀さん、少し気になることがあるんだけど」

「何ですか?」


 気になること、と言われて秀はピクリと眉を動かした。そして、沙南も一口コーヒーを飲んだ後話し出す。


「うん、今日ね、闇の女帝の側近の人が来たんだけど、うちに麻薬の密売人が来ていないかって聞いてきたのよ」

「麻薬の密売人?」

「ええ、どうも天宮家に興味を示してる組織みたいでね、接触を試みてるみたいなんだけど」

「麻薬で、ですか?」

「みたい。妙な話しよね、私達ってテロ行為はたくさんしてるけど、人の道に外れることはしてないのにね」

「まっ、うちは未成年からの喫煙と飲酒運転と麻薬だけは禁止されてますからね」


 テロ行為も普通は人の道からはずれてるのでは、とここでつっこんでくれる者はいない。しかし、龍が医者だからか、健康の害になることと人の命を奪う最悪な行為に対しては、絶対やってはならないと思っているのだ。


 だが、秀はその話を聞くなり腕を組んで考え始めた。何かが動いているのかと直感が告げる。


「それにしてもタイミングがいいですね。土屋さんも明日麻薬取引の現場に行くと言ってましたし……」


 すると秀はすっと立ち上がり、車のキーをジーパンのポケットに入れて上着を引っ掛けた。


「秀さん?」

「ちょっと闇の女帝のところへ行ってきます。彼女の側近の独断で知らせにきてくれたら話は別ですけど、それでも兄さんを介さず沙南ちゃんに伝えにきたのはちょっと気になりますから」


 それだけ言い残して、秀は闇の女帝が縄張りとしている地下街へと向かうのだった。



 一方、病院では夜間に救命センターに運ばれた患者の処置を終えて、龍はようやく医局へと戻って来たのだった。


「お疲れ様、龍先生」

「ああ、お疲れ。だが、あそこまで暴れられちゃすぐに治療出来ん」

「……一撃で黙らせるのに?」

「死ぬよりいいだろ?」


 龍が救命へいったのは患者が暴れたからだ。麻薬患者だったらしく、手が付けられないと龍に助けを求め、彼は相変わらず一撃で仕留めて処置してきたらしい。


「だけど最近増えてきてるわよね、薬やって大怪我して運ばれて来る患者」

「ああ、宮岡先輩の話だと、日本にかなり巨大な密輸団が入ってきたからだって話だけど」

「迷惑な話ね。早くあっちゃんが捕まえてくれないかしら」


 毎回こんなことが起こってくれたら堪らないわ、という紗枝の意見に龍も同意する。薬なんて、治療のためだけに使えればいいのに、と医者としては思わずにはいられなかった。


 その時、慌てた様子で看護士が医局へ飛び込んできた!


「龍先生! 紗枝先生! すぐ救命に手を貸してください!」


 さっき戻って来たばかりだというのに、一体何事だと二人は一瞬顔を見合わせる。


「どうした?」

「玉突き事故が発生して重傷者多数です!」

「すぐに啓吾先生に連絡してくれ。紗枝先生、行くよ」

「分かった!」


 二人は一気に顔付きが変わり、救命センターへと急ぐ。



 そして、救命センターへ行けば既にそこは戦場だった。救命科長は龍を発見するなり声を上げる!


「龍先生来てくれたか!」

「救命科長、俺はどこから」

「第一オペ室の心破裂の患者から頼む。だが、また麻薬患者だ……!」


 事件はこれでも序章に過ぎなかった……




さて、あっちでもこっちでも麻薬騒動。

なんだか話しは妙な方向に進んでいます。


ですが、バレンタインデーのお返しは三倍返しに悩む翔と純君。

本当、彼等は何をお返しするのでしょうか?


そして、やっぱり秀です。

三倍どころか百倍って……

うん、何だかんだで荒稼ぎしてる次男坊なので、それくらいは余裕なんだろうな……

というより、何する気なんだろう……


だけど病院ではバレンタインデーどころではなく大騒動!

龍、明日はオペ二つなのに体力は……大丈夫だよね、龍だもん……


さぁ、またどうなってしまうのか……




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