第三十八話:母になる覚悟
機密院宿泊棟最上階。闇の女帝はフカフカの高級羽毛ベッドの上で目を覚ました。
服は一度覚醒して弾け飛んでいたものの鳳凰の考慮なのか、締め付けのないブラックのロングワンピースが身につけられていた。おそらく、着せたのはここの侍女なのだろうが。
それにしても辺りは真っ赤尽くしだと思う。シルクのレースカーテンやベッドはいいとして、調度品の数々までもが赤だ。嫌いな色ではないが、しつこいと思ってしまう。
だが、例外が一つだけあり、彼女の今いる部屋にはドアが無くあるのは鉄格子だ。どうやらここは牢屋を改造したスイートルームとでも考えた方がいいのだろう。
「さて、力さえ回復すればこの程度は抜け出せるが……」
生憎、彼女の力は先程の戦いで回復していない。もう一度覚醒するにしても後の消耗は激しく、今の自分にはあまりよろしくないことも分かる。
それにダイヤのピアスはそのままなら、そのうち助けには来るだろうと思い、少々回復を待つことにした。
その時、部屋の右側壁紙が上がり始め、防弾ガラス張りの壁へと変わる。一体何が出てくるやらと闇の女帝は腕を組んでいたが、その光景に彼女は目を見開いた!
「桜姫!」
続き部屋になっている怪しげな薄桃色の部屋に、桜姫は天井から吊されている鎖の手錠で両腕を拘束されており、頭から血を流しながら膝を折っている体勢をとらされていた。当然、意識はない。
「お目覚めですか、闇の女神殿」
笑いを含んだ声に闇の女帝は眉を吊り上げる。桜姫の傍に立っている男こそ鷹族の創主であり、この機密院のトップに立つ男だった。
「馬鹿鷹か……!」
「ははっ、その侮辱的な言葉ですら許せるほど今は気分が良い……」
「お前の名など記憶にすらない」
即答された言葉に対して鷹族の創主は止まった。さすがにそこまでは寛大ではないらしい。
すると、彼は注射器を取り出してそれを躊躇無く桜姫の首筋に打ち込んだ。
「何を打っている……!」
「媚薬だ。いつも幻術でこちらを欺いてきた桜の姫君もここまでボロボロにされた上、薬漬けにされては抵抗出来まい」
桜姫をここまでボロボロに出来るのは鳳凰かと思ったが、どうも違う気がした。だとすれば、彼女をここまで誰が追い込めるというのだろうか……
ただ、闇の女帝の顔が歪んだのは自分に対して畏怖の気持ちを持ったと勘違いした彼は、そのままにやけ面を浮かべたままさらに続ける。
「ああ、心配しなくても貴女にもそれ相応の報復はするさ」
「ふざけるな! そう簡単に」
「身篭っているとの報告が入ってきている。安定期にも入っていない今なら、殺すことは容易い」
「くっ……!」
さすがに子供のことを出されては闇の女帝も平然とはしていられなかった。今の状態では、目の前の馬鹿に蹴りの一撃をお見舞いしてやることも難しいと分かっているのだ。狙われては面倒だ。
「だが、愛してもいない男の子供ならば死んでもショックは」
「誰が愛してないと言った」
その答えに鷹族の創主は意外そうな表情を浮かべた。闇の女帝に本気で惚れられているはずがないと誰もが思う相手には違いないのだ。
まぁ、それは事実といえば事実だと彼女は否定はしないだろうが……
しかし、彼女にも母となるプライドはあり、何よりもし身篭ったら産むと覚悟していたのだ。だからこそ、真っすぐな目を鷹族の創主に向けた。
「妾は気に入りもしない者に触れさせはせぬ。それに母となる妾を侮辱するならそれ相応の覚悟はあるのだろうな」
子供を守るためなら何でもする顔だった。闇の女神といわれていた二百代前にはすることもなかっただろう、強い意志を宿した彼女らしからぬ顔だが、それはより彼女を美しく見せている気がして……
「女帝の威厳か、それとも母となるものの覚悟か……」
「俺への愛に決まってるだろうが!!」
「なっ、ぐああっ!!」
部屋のどこかにあった鉄の小さな人形の彫刻が鷹族の創主にクリーンヒットし、よろめいたところに飛び蹴りを喰らわせて彼は壁へ激突した。
そう、命からがら、ようやく森が最上階までたどり着いたのである。ただし、闇の女帝は助けに来たヒーローに対して青筋を立てるヒロインだった。
「遅い!!」
「助けに来たんだから文句言うなよ。それより母になるって……」
「事実だ」
「ですよね……」
「それよりこの牢をさっさと開けろ。こんなところに閉じ込められるなど不愉快だ」
「へいへい」
心当たりが誰よりもある人物は苦笑いを浮かべるしかなかった。つまり、彼女はただ今妊娠二ヶ月目というわけで……
しかし、そのことよりまずは桜姫を助けるように命じられ森は銃を抜いた。
手首の手錠は後から天宮兄弟か啓吾に砕いてもらうとして、とりあえず天井から下りている鎖だけは銃で弾き飛ばして倒そうになった桜姫を受け止める。
そして、次に闇の女帝を助けることにしたが、通常なら闇の力で充分この局地を乗り越えられるはずの彼女に森は首を傾げた。
「おい、闇の力は使えねぇのか?」
「疲れてるのだ、リモコンぐらいあるだろうからさっさとこのガラスの壁を上げろ」
やっぱり鳳凰との戦闘の影響かと思い、割と近くのテーブルにあったリモコンの数々を適当に弄れば、ガラスの壁はあっさりと開いた。
本当に馬鹿な奴だな、と森と闇の女帝は改めて思う。
「ほら、いく……! 彩帆!!」
いきなり崩れた闇の女帝に森は急いで駆け寄りその体を受け止める! 彼女は力だけではなく、体力もギリギリの状態だったのだ!
「馬鹿野郎!! 立つのがやっとなら立つんじゃねぇよ!!」
「誰が……!!」
「もう一人の体じゃねぇんだ!! それぐらい母親になるなら考えろ!!」
こんな時だけ真剣な顔になるのが森だ。いつもはふざけてしかないというのに、本当に肝心なところだけは絶対はずしはしない。だから彼女は森の子供を産むことを覚悟したのだ。
「ああ、そうだな……」
「さて、女二人抱えて下りられるか……」
「……妾が重いと聞こえるのは気のせいか?」
「そりゃ桜姫よりは……すみません」
やはり森のこういうところだけは惚れる要素を皆無にする。寧ろ、こういうところさえなければ評価も多少は上がるというのに……
しかし、助っ人達がすぐにこの状況を解決してくれた。
「桜姫さん!!」
「桜姫!!」
沙南、柳、宮岡の三人が駆け付けてくれたのである。沙南の意識もすっかり現代に戻っているらしく、医学生であるため傍にあった布やらタオルやらを使ってひとまずの止血をした。
「良! 助かった!」
「闇の女帝、お体は?」
「ああ、少し疲労しているだけだ。それより桜姫の治療を急げ。さらにさっきも媚薬の類を打たれている。耐性がある薬物なら良いが……」
「逃がすとでも……?」
「伏せてください!!」
その時、森達の後ろで大きな鷹の化け物が姿を表し、それに気付いた柳は瞬時に火球を投げつける!
「柳泉!!」
攻撃を仕掛けた柳の方へ鷹の化け物はその鋭い爪を振り下ろすが、柳はそれをひらりと交わして再度火球を放った!
「あいつは……!」
「ああ、鷹族の馬鹿が二百代前の姿に戻った!」
「私のハーレムを……! 今度こそ天空軍に報復を!!」
彼の怨みは二百代前の話へと遡る……
久しぶりの更新です!
さて、今回も何やらまた面倒は起こりそうな感じに。
まぁ、いつものことではありますが(笑)
そして、闇の女帝。
はい、彼女が身篭ってるのは森の子供です。
どうしてそんなことになったのかは、ノクターンの天空記を読んでいただければ分かりますので。
産む理由までバッチリ書いてますからね(笑)
それでもって、次回は鷹族との因縁話が出てきます。
ついでに武帝と鷹族の馬鹿主との関係も。
一体、天空軍のドS達が何をしていたのかお楽しみに☆