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第三十二話:三人の人質

 目の前に現れた武帝と鳳凰の勝敗は一瞬で決まった。いや、決まっていたと言った方が正確だった。


「うあっ……!!」

「鳳凰!!」

「鳳凰殿!!」


 突如、首筋を抑えて鳳凰はバランスを崩したと同時に衝撃波を腹部に叩き込まれて壁に減り込むほどぶっ飛ばされる!


 鳳凰ほどの達人がこんな一撃でやられるはずがないと、フラン社長と鳥の女神はすぐに鳳凰の元に駆け寄れば、彼の首筋に赤く光る呪いの紋様が浮かび上がっていた!


「これは……!」

「私が生まれた鳳凰に掛けた呪いだ。それが有る限り鳳凰は私の支配下からは逃れられん」

「ぐうっ……!!」


 さらに強められた呪いの力に激痛が走り鳳凰は立ち上がることすら出来なくなった。それから微笑を浮かべながら武帝は近付いてきて、フラン社長と鳥の女神は鳳凰を守るかのように彼を背に庇う。


「ほう、達人の域である鳳凰がこれほど苦戦しているというのに庇うとは……」

「親が息子を庇うのは当然のことだ」

「血の繋がりがないのにか?」

「息子だという事実に変わりはない」


 それから武帝は鳥の女神を見下すと、彼女はそれに怯えることなくキッと睨み返した。窓の外を見れば、鳥の群れが彼女に手を出そうとすれば襲い掛かると言わんばかりに羽ばたいている。


「なるほど……、鳥の女神の力は健在ということか……。鳳凰、私はあくまでもお前達鷹族を従えるためにここにきたのだ」

「誰が……!!」

「父親と鳥の女神、どちらが大切だ?」


 脅迫に近い問い掛けに鳳凰は言葉すら出なかった。武帝は間違いなく自分が従わなければどちらかを殺すつもりだ。


「お前達鷹族は主である父親を守るべきなら、当然殺すべきなのは鳥の女神」

「させん! 彼女は鳳凰の妻となるんだ! こんなところで死なせは」

「いいでしょう」


 鳥の女神はすっと立ち上がると、武帝の前に進み出た。しかし、それは殺されることを選んだのではなく、ほんの僅かな望みに自分の命運を委ねる決意をした表情だった。


「武帝、私が人質となります」

「なっ……!!」

「女神殿……!!」

「時は現代、武帝も当時の強さは持たないはず。でも、私は二百代前の償いを終えてはおりません」

「しかし……!!」

「貴方の父親を光帝のように失いたいのですか!」


 あの時、鳳凰は光帝が殺される前に駆け付けることも叶わなかった。それをまた繰り返させることを彼女はさせたくなかったのである。


 それこそ、鳳凰が望む幸福を潰してしまうことになるのだから……


「武帝、私が人質になるかわりにフラン社長には一切の手出しはしないと誓えますね」

「もちろんだ。私の目的はあくまでも天空王と沙南姫だからな」


 こうして、鷹族は機密院に組み込まれ現在に至るのである……



 狙いは完全に定まった。霧の中で桜姫が構えていることを悟り烏帽子はクナイを構える。おそらく勝負は一瞬、桜姫の花びらが先に烏帽子を切り裂くかその前にクナイで桜姫を一突き出来るかだ。


 ただし、あくまでも命令は鷹族の主の元に桜姫を差し出すこと。彼女を気絶させる程度に抑えなければならない。


「隊長、毒をもって相手を制さなければならないことをお許し下さい……」


 それは鷹族の戦い方としてはあまり好ましくされていないものだった。


 武の道をゆく鷹族は基本、相手が毒性の場合と回復にのみ薬は使っても、正当な戦いには滅多に用いず己の力のみで勝負を決める民族だった。


 しかし、それをしなければ桜姫を倒すことなどまず不可能。彼女には花びらの力だけではなく、天空王が二百代前に彼女に封じ込めた天の力の負の部分を持っているのだ。それを使わせては勝ち目などない。


「烏帽子、毒まで使うつもりですか?」


 どうやら手の内は読まれているらしい。ただ、桜姫の瞳は青で天の力を解放しようとはしていない。舐められているわけではなく、おそらく使わずに自分を止めようとしているのだろう。


「……お察しのとおりです。桜姫殿、これが最後です。どうか、我等の主に跪いて下さい」

「お断りいたします。私が膝を折るべき主は主以外に必要ございません。それに自分が仕えると決めた主を履き違えて戦う者に私を倒すことなど不可能!」

「……では!!」


 濃霧の中に烏帽子も飛び込むと、桜姫目掛けてクナイを放ち、さらに彼女に一掠りでもと突き立てようとすればそれは花びらの盾に塞がれる!


 しかし、烏帽子はそこからさらに霧で自分の身を隠し、背後から彼女に切り掛かった!


「桜姫!!」

「……!! 舞い上がれ!!」

「……!! きゃああああ!!」


 桜姫にクナイの刃先が届く直前、地上から舞い上がった花びらが烏帽子を切り裂き、彼女は意識だけを残したまま、戦闘不能に陥ったのだった。



 それから少しずつ霧が消えていき、花びらの絨毯の上に倒れていた烏帽子に桜姫は近寄って尋ねた。


「烏帽子、勝敗が全てを決めるのが鷹族の流儀に従い問わせていただきます。貴女は何故、鳥の女神殿を救い出せないのですか?」


 再度問われた内容にも、もう隠す必要もないと彼女は全てを打ち明けることにした。


「武帝をご存知ですね、桜姫殿」

「ええ、確か鳳凰殿の父と伺ってますが」

「そうです。そして、天空記にはそこまでの達人ではないとされ、隊長も情けで生まれ落ちた子供だと記されてますが事実は違います」

「えっ?」


 一体どういうことだと桜姫は眉をピクリと動かす。


 少なくとも彼女の記憶の中の武帝はそこそこの達人で、龍や鳳凰に勝てるレベルではなかったと覚えている。それに彼が従えていた弟子達をよく秀や啓星とあしらって遊んでもいたが……


「桜姫殿、武帝は隊長以上の達人、さらに隊長は情けで生まれたのではなく武帝の血を継ぐ道具として生まれたのです。しかも武帝の呪いまでかけられて」

「なっ……!!」


 それで全てが繋がった。烏帽子が鳥の女神を救うわけにはいかない理由は彼女だけを助けるわけにはいかないということ!


「私達はフラン社長も鳥の女神殿も当然救いたい。でも……! 隊長も失うわけにはいかないのです!!」


 そう、鷹族にとっては鳳凰すらも人質にとられているのと変わらない状況だったのである……




はい、すみません、すっかりお待たせいたしました!

久しぶりの更新になりまして……

ちょっと忙しかったのでお許しを。


さて、今回は鳳凰が武帝に従い、さらに鷹族が反旗を翻せない理由が明らかに!

そうです、鳳凰は武帝に呪いを掛けられていて戦えないとのこと。

烏帽子達鷹族もそりゃ、隊長である鳳凰には絶大な信頼と尊敬がございますので従うしかないよね〜。


だけど、桜姫が見事に勝利いたしまして、次回はいよいよ久しぶりに悪の総大将達が登場予定。

まだ蜻蛉という紫月ちゃんを苦戦させた相手も残ってますから、三男坊の活躍もご期待あれ!




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