第二十六話:別行動
突如現れた鳳凰に森と闇の女帝は恐怖を感じることは無くとも、動揺するには充分な威圧感は叩き付けられていた。背中に冷汗が伝うのを感じながら、森は臨戦状態を保ったまま言葉を搾り出す。
「おいおい、いきなり大将の登場かよ……」
「大将ではない。こいつは番人だ。それも腕の立ち過ぎるな……!」
二百代前の記憶を思い出しながら闇の女帝も力を集中し始める。龍ほどではないが、静か過ぎる強き力で相手を捉えて来るこの覇気は全く変わっていない。
だが、どこか不安定で危ない、しかし、それを掴ませることのない雰囲気を闇の女帝は見逃さなかった。
「鳳凰、貴様は現代で何のために戦う?」
「全ては我が主のため、それ以外に我等鷹族が戦う理由などない」
「その誇りだけは相変わらずだな。では、お前の主とは誰だ」
「この機密院の総主である」
「あんな馬鹿の名など聞きたくもない」
そこまで馬鹿だと言われ、名前まで聞きたくないほど毛嫌いするなんてすげぇな……、と森はある意味関心した。
自分に対してもいつも馬鹿とか死ねなどのありとあらゆる暴言どころか、実際に行動に移すまで彼女は容赦ないが、それでも自分の名前をフルネームで呼んでくれているあたり、まだマシな存在なのかもしれない。
ただ、闇の女帝にそれを言ってしまえば、間違いなく死にたいのか?と、あのおっかなさ過ぎる銀の鎌が出てくるので言わないが……
「闇の女神、いや、彩帆殿。主は貴女を御所望です。どうか」
「断る! だが、戦う前に答えよ。光帝の懐刀であったお前が何故あんな馬鹿に仕えている?」
「……ここは現代。光帝亡き今、我等一族は鷹族の主に仕えるのが義務」
「融通の効かぬ男だ。通常なら沙南姫に仕えれば良いものを」
「天界を滅ぼす要因となった姫君にですか?」
その答えに闇の女帝の顔は引き攣った。
今から二百代前、天界が滅びる最後の戦で、天空王をかばい沙南姫は彼の目の前で刃に貫かれて命を落とした。それに龍の持つ天の力は暴走し、天界そのものを消し去ってしまったのである。
ただ、光帝は最後の戦前に殺され、確かその時鳳凰は……
「菅原森」
「ああ」
「お前は最上階の馬鹿を張り倒して来い」
「はっ?」
「鳳凰は妾が天宮龍がここに辿り着くまで食い止める!」
「食い止めるって!!」
その瞬間、闇の女帝の髪はふわりと揺れ、地面に出来た人が二、三人飲み込まれそうな闇の穴から銀色の大鎌が彼女の目の前に現れた。そして、それを掴んだ瞬間、彼女の体は闇に包まれ、闇の女神として覚醒する!
「おい!」
「良いから行け! 邪魔だ!!」
厳しい口調になるのはそれだけ激しい力を解放するから。森はそれを理解して警備室の外に出るが、鳳凰はそれを追い掛けようとはしなかった。おそらく、その必要性を感じていないからだろう。
闇の女神はそれには触れず、キッと鳳凰を睨んで対峙した。
「鳳凰、言っておくが加減はせぬぞ」
「……出来れば貴女とは戦いたくない。そのまま主の元へ」
言葉を遮るかのように闇の女神は衝撃波を放ち、それは鳳凰の頬にうっすらと傷を付けた。完全に避けきれないことはなかったのだろうが、やがては主のものとなる女神に対しての彼なりに礼儀を払ったということなのだろう。
「その言葉二度とほざいてみよ、八つ裂きにするぞ!」
闇の女神自体は避けられなければ、本気で八つ裂きにする気満々だった。とにかく鷹族の主なんかに触れられたくもないといった感じで。
すると、鳳凰は腰に帯びた何とも上品な宝剣を抜く。一見は鑑賞用として楽しむといったようなものだが、刃に刻まれた古代文字はそれがお飾りのものではないと語っている。
「そちらがその気なら、こちらも加減はしない」
二人の刃は交わり高らかな音を響かせるのだった……
その頃、バーティー会場となっている棟の前で盛大に暴れていた一行の一部はと言えば……
「オラッ!!」
「やあっ!!」
上空で鷹の化け物と戦っていた翔と紫月は、通常より鋭い風の刃を相手に叩き付けながら現在は捕まることもなく交戦中である。
通常の風の鋭さでは、鷹の化け物を自由に泳がせてしまうため、二人は出来るだけ翼を狙って攻撃を繰り出していた。
「墜ちろ!!」
「ぐああ〜〜っ!!」
あくまでも翼を狙って攻撃を繰り出しているはずなのだが、コントロールと集中力に欠ける翔の攻撃は翼には全く当たらず、鷹の化け物の胴体の一部ばかりに当たっていた。結果オーライではあるのだが……
「西天空太子〜〜!!」
「うわっと!!」
胴体に当たったため、墜落せずにそのまま突っ込んできた化け物の爪を横に飛んで避け、翔はさらに風を操って化け物の上を取ると、後頭部に強烈な蹴りをお見舞いして地上に叩き落とした。
ただ、そんな一連の動きをバッチリ見ていた龍はきちんと翔に忠告しておく。
「翔! やられて落ちて来るんじゃないぞ!」
「分かってらいっ!!」
といいながらも、翔の油断癖で紫月に迷惑をかけなければいいが、と思う。
しかし、そんな余裕しゃくしゃくな龍に、翔達から地上に叩き落とされて気絶しなかった化け物達が龍を取り囲んでいた。
「天空王……!」
「引け」
「ふざけるなぁ!!」
「引けといってるんだ!!」
「……!!」
まさに一喝、たったそれだけで化け物だけではなく近くにいた軍隊までが泡を噴いて気絶する。
本気を出せばまだこんなものではないが、今は出来るだけ力をセーブしておきたいという気持ちはあった。被害者が聞けば真っ青になるところだろうが……
「龍ちゃん、本当に容赦ないわよね……」
「いや、あれでもまだ良い方だと思うよ。だって、純君が戦ってるぐらいだし」
「龍といえども力は溜めておきたいんだろうな」
いつもなら龍が重力の結界を張ってくれるところだが、今回は柳が高熱の結界で全員を銃弾から守っていた。
もちろん、森の中ということもあり、自然界の女神をだった紗枝を守ろうと木々や蔓も活発に動いてはいるのだけれど。
「だけど、啓吾と秀ちゃんは大丈夫かしら……」
「それはあの二人がケンカするという意味か、それとも島半分ぐらいは消し飛ばす可能性が高いという意味でかい?」
土屋は笑いながら聞き返した。当然、その二つは紗枝の質問の意味に含まれているが、彼女の心配事はもっと別だ。
現在、シスコンと腹黒も別行動をとっている。敵の分散という理由もあるが、わざわざ反りが合うか合わないか微妙な二人が共に行動しなくてはならなくなった理由もあるのだ。
「あっちゃんも人が悪いわよね。あの二人が例のオカマ街を通ってパーティー会場に乗り込むというのに……」
「じゃんけんで決めた結果だから仕方ないさ。だけど、いろんな意味で適役だからね。この情報が正しければ尚更いいんだけど……」
宮岡のパソコンに届いていた一つの情報、それがまた今回の鍵の一つとなる……
遅くなってすみません!
データが一回飛んで打ち直しになってしまいまして……
そんな感じで、今回はついに闇の女帝VS鳳凰が始まりました!
その結末がどうなってしまうのか、少し引っ張ります(笑)
そして、龍達も戦闘中、というか威圧で片付けてる悪の総大将です……
化け物に泡を噴かせる風格って、龍自体は一番常識人でいたいらしいですが、どうもそれとは程遠いという……
次回は秀と啓吾兄さんのお話。
オカマ街にいった二人がどんな悲惨な目に遭うのかお楽しみに☆