第二十五話:天上天下、唯我独尊主義
龍達と別行動をとっていた森と闇の女帝は、早くもテロ行動を開始したのだろう、パーティー会場付近でいくつもの破裂音や悲鳴が上がるのを聞きながら、彼等も鷹族の暗愚な主の元を目指していたのだが……
「手際が悪いな、菅原森」
早速入った闇の女帝からの鋭いツッコミに、森は無茶を言うなと彼女に抗議した。
「龍達と一緒にしないで貰いたいけどな」
「ならば、せめて五人くらい三十秒で片付けろ」
「今のは六人いただろうが!」
「妾なら十秒で終わるがな」
森の傍で伸びているSP達は、世間一般的には三分で倒されたのだから充分不名誉なことではあるはずなのだが、世界最悪のテロリスト達の感覚で言えば時間が掛かってるということになる。
闇の女帝は十秒、翔達ならば通常一人一秒、腹黒やシスコンなら瞬殺で、悪の総大将は戦う前に相手が気絶する。
「だったら女帝が……」
「口答えをするな。妾のために死ぬことを命じてやったのだ。有り難く思え」
「んなこと思えるかぁ!!」
「贅沢な……、他の安っぽい女より良いに決まってるだろうが」
どこまで天上天下、唯我独尊主義何だよ!と森は心の中で突っ込むが、彼女に逆らってろくな目に遭わない人間しか知らないので、それは彼がどんなに馬鹿でも言わないことにした。
「はぁ〜、んで、女王様。いくら何でもあのSP達を殴り飛ばすとなると、かなりの軍勢が寄って来るんじゃねぇのか?」
「だろうな。かといって力を使いたくもないしな……」
宿泊棟の正門前には二人のSPが立っている。すぐに倒すことはもちろん出来るが、騒ぎを聞き付け囲まれる事態を避けることはまず出来ないだろう。出来ることならすんなり入りたいところだ。
それにしてもやけに力を使いたがらないよな、と森はようやくその疑問にたどり着いた。
「女帝、やっぱ闇の力を使うのって疲れるのか?」
「いや、夜の闇を利用すればそうでもないが、溜めておきたい理由はある」
「化け物は龍の方向に流れてるのにか?」
森の指差す上空には、化け物が龍達の方に多数、夜空を飛行して向かっている。森にしてはまともな疑問だったため、彼女はきちんと理由を述べることにした。
「ああ、鷹の化け物はおそらく全て向こうに流れてる。だが、流れ過ぎだということは中にはそれ相応の奴がいるということに繋がる。最悪の場合は鳳凰がな」
「何だ? あくまでも武道家だったら闇の力で引きずり込めば」
「だからお前は馬鹿だという」
鮮やか過ぎるほど早い切り返しに、森はやっぱりこの女帝はかなりの鬼畜だと改めて思った。
しかし、彼女の答えはあまりにももっとも過ぎることだった。
「菅原森、奴は天宮龍が天の力を解放しなければならないということを忘れたのか?」
「あっ……」
「つまり、妾の闇すら届かない腕前だという可能性は充分ある。何より鳳凰は光帝の懐刀とまで言われた男だ。そう簡単にいくものか」
だからどう転ぶにせよ、力を温存しておかないわけにはいかないのだ。
「だったら俺なんかより、天宮兄弟か啓を引き連れて来た方が正解だったんじゃねぇのか?」
「いや、妾の人選は間違ってはおらぬ。もしここで鳳凰に破れれば、妾の連れはどうなる?」
「そりゃ……」
死ぬか死ぬような目に遭わされるかだ。それに森はもうぐうの音すら出なくなるほどうなだれた。どう転んでも彼女は自分を捨てゴマにするつもりだ。
「だが、理由の九割はまだ別のところにある。特に篠塚兄妹と折原沙南、夢華とあやつらに深く関わってる可能性があってな」
夢華を溺愛してる性か、彼女は少々不安そうな表情を浮かべた。ただ、あの五人に何があるのかと思うが……
「それより菅原森、何か策を考えよ。妾の力を使わずに最上階の馬鹿の元までいく方法を」
「だからなんでんな無茶苦茶……、いや、あるな。たが、協力しろよ」
森は非常に楽しそうな笑みを浮かべて、その作戦を闇の女帝に告げた。
それから数分後、宿泊棟の正門前にぐったりした女を横抱きにして一人の軍人が歩み寄って来ると、二人のSPは彼の行く手を阻んだ。
「なんだ、女なんか連れて」
「わりぃな。今からこの女と休憩するんだよ。中に入れてくれねぇか?」
二人の視線は女の身体を走る。顔は見えないが、溢れんばかりの豊かな胸と百万ドルの脚線美が男を誘っているようだ。
効果覿面だな、とサングラスの下に隠された顔を拝んでやりたいと思うが、彼等はハッとして自分達の職務を思い出した。
「一兵卒が何を!」
「一兵卒じゃねぇよ、俺の親父に呼ばれてんだよ。ここの御偉いさんに日本防衛事務所特別監察官殿の息子が来たって言え。息子が愛妾を……じゃなくて女王様を連れて来たんです……、はい……」
小さくなっていくのは闇の女帝の威圧感に圧されているため。一歩言葉を間違えば殺される……
「だが、軍人の息子などここには」
「そういうプレイだ。何ならお前達も一緒にやるか? 麻薬を打ってあるから楽しめるぜ?」
演技なのか本音なのか分からないあたり、森がいかにこういう類のことに関して知識を持っているのかと思うが、SP達が同意したことは空気だけで分かった。
「分かった。だったら警備室に来い。そこでやろう」
「ラジャー」
「一時間後に交代してやるから、待っててくれ」
「仕方ないな、早くしろよ」
男という奴は……、と闇の女帝は非常に呆れ返っていたが、それでもこの馬鹿のおかげで潜入には成功したのだ。それだけは良しとするかと思ってはいたが、どうも自分を抱えてる手つきが何となく厭らしい気がする。おまけに若干鼓動が早い気がするのも気の性ではないようだ。
そして、意外にも早くドアのガチャリという音が響いた。闇の女帝はすぐにでも仕掛けるべきかと思ったが、まだだとグッと腕を捕まれる。
「何だ、交代の時間か?」
どうやら複数いるようだ。確かにこれですぐに騒ぎを起こすというわけにはいかないと思ったが、条件反射とは恐ろしいものである。
「いや、お前達もこの女!!」
闇の女帝に触れようとした瞬間、彼女はヒールでSPの顔に強烈な蹴りを入れると、ストンと森の腕から下りた。
おいおい……、といいたげな顔を森は浮かべるが、やってしまったものは仕方ない。彼女はいつものように威厳たっぷりに告げた。
「趣味の悪い奴らだ。おまけに天宮龍並の男もいないか」
「貴様……!!」
SP達が発砲する前に森はサイレンサー付きの銃を発砲し、SP達は銃を取り落とす。そして、その取り落とした直後に、森は肩に担いでいたライフル銃で腹部を殴って彼等を悶絶させたのだった。
「さて、片付い……」
言い終わる前に史上最低温度が襲来した。もちろん、呼び寄せているのは女王様である。森は油の切れた機械のような音を立てながら闇の女帝の方を向く。
「菅原森」
「はい……」
「随分好き勝手に妾に触れてくれたな」
「その……」
いつもなら触らなかったら男じゃない!と即座に答えるが、答えた瞬間に自分は消される。
しかし、彼女は意外にもすぐに消そうとはしなかった。
「まぁ、よい。貴様はどの道死ぬのだからな」
「えっ?」
「そこにいるなら姿を見せたらどうだ、鳳凰!」
彼女がそう叫んだ直後、鳳凰は姿を現したのだった……
さぁ、今回は森と闇の女帝のギャグでしたがお楽しみいただけたでしょうか?
この二人、実は菅原財閥と裏社会ということで交流があったりしています。
というより、かなり使いやすい捨てゴマとして使われてるような……
因みに宮岡さんと桜姫は非常に優秀なので、彼女がわざわざ自分の元に招いているという。
桜姫にはシャンパンを振る舞うぐらいですからね。
でも、まさか二人の前にいきなり鳳凰が登場!
当然闇の女帝とのバトルは避けられません!
龍達は間に合うのか!?