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第二十話:機密院

 いきなり停電したかと思えば人がぶつかってきてケーキの皿を取り落とす。折角借りたパーティードレスも汚れたような感覚を覚えて、紫月は渋面になった。それだけの余裕があるのはいかにも冷静な彼女らしい。


 ただ、このままというわけにはいかず、紫月は腕時計型のライトを点けて秀達と一度合流しようかと思ったところで銃声が鳴り響く!


「警察だ! 麻薬取引の現行犯で逮捕する!」

「くっ……!!」

「うわっ!」

「きゃあああ!!」


 どうやら近くで誰かが撃たれたらしく、紫月は自分の身を守ろうとしたその時、彼女の腕を掴んだものがいた!


「なっ!」

「紫月君、俺だ! 動くな!」

「土屋さん!?」


 驚いた直後にまた銃声が鳴り響く。紫月は風の結界を張って自分と土屋の身を守ることに専念した。


「どうしてここに?」

「こんなパーティー会場でライト付きの腕時計なんて、あの喫茶店でバイトしてるメンバーじゃないとまずしないと思ってね」


 なるほど、と思う。パーティー用ということで紫月もジュエリーウォッチを付けているが、それは喫茶店のマスターが作ってくれたものであり、さらに秀が改良を加えて発信機まで付けてくれたものである。


 確かに普通は持っていない代物だな、と納得したが、土屋はさらにとんでもない情報を提供してくれた。


「それに翔君が掠われた」

「はっ!? 誰にですか!?」

「紫月君がヤキモチ妬いた女」

「あっ……」


 どうやらあの場面を見られていたらしい。それは近くに土屋がいてもおかしくはない。ただ、暗闇で少し顔が赤くなってるところを隠せることだけは有り難いけれど。


 しかし、そんな女だったのなら鷹のメンバーやら麻薬組織関係の人物はチェックしていたので気付くはずだ。それもあそこまで特徴があるのだし。


「土屋さん、だったらあの女は何者なんですか?」

「スパイだ」

「えっ?」

「機密院というのが裏には存在していてね、そこが今回の麻薬パーティーに絡んできたんだ。つまり、あの女はその機密院のスパイってわけ」


 本当に次から次へといろいろな組織やら何やらと出てくるなと思うが、ふと、紫月は疑問に思った。


「そのことを秀さんは知っているんですか?」

「機密院の存在は知ってるだろうけど、今回の件に関わってることは知らないだろうね。でも、俺もさっき知ったばかりなんだ」

「桜姫さんですか?」

「そういうこと」


 桜姫が別行動というのはそれを調べるためだったのかと思う。秀がすぐに掴めなかった相手となれば、それなりに情報操作には長けていると考えてもいいのだろう。


 そして、そんな話をしている中で近くのテーブルの上にあったグラスが銃で弾かれ、破片が紫月の元に飛んできた。


 風の力で身を守っているため怪我はないものの、先程より近くで銃撃戦が行われているようだ。しかし、土屋は全く気にせずに会話を続ける。


「まぁ、刑事の勘であの女をマークしていたんだけど、張ってる最中に上がポカをやらかしたみたいでこの停電騒ぎだ。でも、桜姫君の情報から考えて、敵はおそらく紫月君も狙って来るはず」

「何のために……」

「機密院の狙いは君達への復讐と人体実験。及び女性陣にいたっては、鷹族の暗愚な主がハーレムでも作りたいみたいだからね」

「最悪ですね」

「ハハッ、全くだな」


 いろんな意味でね、と苦笑する土屋に紫月も若干引き攣った笑みを浮かべる。


 姉達を手に出来ればそれは素晴らしいハーレムだろうが、彼女達が鷹族の暗愚な主に膝を折る前に相手を叩く女性揃いだということを忘れてはいけない。


 しかも、それを達成させようと思えば、シスコンの中ボスと極悪非道の腹黒参謀、おまけに世界を滅ぼせる悪の総大将に打ち勝たなければならないことが大前提である。


 シスコンと腹黒が出てきたあたりで紫月は頭を抱えたが、ふと、今の発言で気付いたことがある。


「えっ、待ってください。土屋さんの今の言い方って」

「そういうこと。今回の黒幕はその機密院、さらに鷹はその機密院に含まれる麻薬組織であり、戦闘集団。そして、その機密院のトップが二百代前の鷹族の暗愚な主ってわけだ」


 もちろんまだいろいろな企業が絡んでいる可能性もあると付け加えれば、面倒な……、と紫月は肩を落とした。


 ただ、今から気苦労しそうな悪の総大将の方がもっと気が重いのだろうが……


「だけど、鷹は思ってた以上の武装集団みたいでね、警察の特殊部隊が数小隊やられてる」

「……やはりそれだけの力が?」

「ああ、部下達の話では人の言葉を話す巨大な鷹が襲って来たらしいんだ」

「また妙な……」

「慣れてはいるけど、一般人としては相手にしたくないね」


 一般人という単語が自分達に当てはまるかどうかは別として、少なくとも相手は化け物ということは分かる。天空記の内容から考えても、鷹族の力なんだろう。


 それだけの情報を話しているうちに、銃声も聞こえなくなり、辺りはただのパニックの音のみが聞こえて来るようになった。そろそろ頃合いかと、紫月は辺りを探る。


「土屋さん、敵も弾切れみたいですね」

「ああ。反撃するかい?」

「ええ、兄さんも来たことですし」


 そして、紫月は腕時計のライトを啓吾に向ければ、このパニックの中を全く動じもせず、しかもどこかで入手したキャンドルを手にもって啓吾はやってきた。


 しかし、紫月に対しては柳や夢華より少しだけシスコン度が落ちるため、啓吾はいつもと調子で告げた。


 というより、こんな時にシスコンを発動したら、さぞ、冷たい目で見られるだろうが……


「よぉ、無事だったか」

「はい。それより兄さん、まず翔君がさらわれました」

「はっ?」


 いきなり告げられた内容に啓吾は気の抜けた返事をするが、紫月は構わずこれから行う内容の協力を仰ぐ。


「だから追い掛けようと思うんですけど、そのためにはこの中を抜けなくてはならないんですよね」


 未だ混乱する会場内、出入口は麻薬取引があったとなれば警察が封鎖して出れないはず。しかし、この混乱をおさめて、さらに会場から抜け出せる力を持ってるものが啓吾である。


 そんな紫月のいたずらな笑みを見て、啓吾は深い溜息を吐いた。


「会場内の人間全て気絶させろと……」

「はい、龍さんは皆さんといるのでしょう? だったら、皆さんは気絶しないように龍さんが何とかしてくれますよ」

「そりゃ、龍なら気付くだろうが……」


 啓吾と同じ力を持つ龍だ。重力の相殺ぐらいは朝飯前だろう。


 そして、啓吾はとりあえずやることには決めるが、傍にいた土屋に尋ねた。


「淳行、お前はどうするんだ?」

「そうだね、今日は現場に出てるし、この失態は上の責任ということにして俺も皆と合流するよ」


 何となく、今日彼が現場を選んだ理由が分かった気がする。現場好きなのもあるだろうが、犯人を検挙するなら世界最悪のテロリストの力を借りた方が確実だ。


 もちろん、上に失態を押し付けて自分がおいしい思いをする事も楽しむつもりだろうけど。


「仕方ねぇな……」


 その瞬間、会場内に重力が掛かって中にいる者達は次々と倒れていく。その状況を察知して紫月の通信機に連絡が入った。


『紫月ちゃん!?』

「秀さん、翔君がさらわれたそうなので一度外に出て下さい。追い掛けます!」

「行くぞ」


 啓吾に促されて三人は走り出す。それから入口にライトを当てると、秀が扉を蹴り飛ばしているのが見えた。どうやら外にいた刑事達まで見事に伸びきっているようだ。


 それから一行と合流して、廊下を走りながら龍は事の流れを紫月に尋ねた。


「紫月ちゃん、翔が掠われたってどういうことだい?」

「すみません、私が目を離したのが失態でした。女スパイの誘惑に……」

「間違いなく翔が百パーセント悪いから気にしないでくれ。それにこの騒ぎで俺達の元に現れないってことは、桜姫が追いついてるってことだ」


 少し先の方にいる桜姫の気配を感じながら、龍は紫月にこんな顔をさせる翔にたっぷり忠告することに決める。啓吾にいたっては圧死させる気満々だ。


 しかし、やはりそう簡単には追い付かせてくれないらしい。


「秀、全て片付けろ」

「かしこまりました」


 こうしてまた一行はトラブルに巻き込まれていくのだった……




さぁ、いよいよバトル開始!

翔に至っては長男組の説教が待ってるので本気でピンチだぞ!


さて、機密院という鷹の大元があるらしく、どうやらかなり面倒な事に巻き込まれそうな予感。

二百代前の関係と現代の狙い、とにかく複雑な糸が絡まるだけ絡まってるみたいですね。


それにしても土屋さん。

相変わらずいい性格しています。

きっと責任転嫁は特技なんだろうなあ。

でも、おいしいところは持って行くという(笑)


次回は桜姫さんの視点かと。

どうぞ、お楽しみに☆




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