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第十九話:苛立ち

 デュパン社五十周年記念ということで会場内は大勢の招待客が訪れていたが、どんな著名人やパーティーで目を引く男女でも世界最強のテロリスト達には遠く及ばなかった。


 沙南もいつも彼女をエスコートしてくれる相手がかなり目を引く美青年であるので免疫はある方なのだが、今宵はその倍の視線を受ける状況に陥っているのである……


「秀さん……」

「どうしたんです、沙南ちゃん」

「視線が痛い……」

「目立ちますからね、闇の女帝のおかげで」


 いや、秀さんの所為でもあるんじゃ……、と沙南と柳が同時に思ったのは言うまでもないが、目を引く一行であることには変わりない。


 ただ、やはり分かるものには分かるもので、闇の女帝がパーティー会場に現れたことで、彼女にビジネスを持ち掛けようとするものや何かあるのではないかとマークするものもいる。


 しかし、その当人の傍には森と宮岡がいる所為か、それとも末っ子組と幸せな一時を過ごしている所為か彼女に近寄るものはいない。


「それにしてもかなりの著名人が来てるのね。今宵は麻薬取引現場になってるっていうのに」

「それだけ取引がしやすい現場だということですよ。でも、このパーティーの主催者がそれを目的にパーティーを開いたというなら、将来の麻酔科医としてはここで潰しておきたいですけどね」

「やっぱり怪しいの?」

「ええ、少なくとも麻薬取引のルートの一つにデュパン社の名前が出てきましたからね。聖蘭病院との繋がりもありますから、気に掛けておかないわけにもいきませんよ」


 今のところは問題なく病院は機能しているのだが、もし、デュパン社が麻薬組織と会社ぐるみで繋がっているのなら叩いておかないわけにもいかない。病院が麻薬と関わるような事だけには絶対阻止したいのだ。


「でも、秀さん。あのフラン社長って人、とても優しそうな人に見えますけど……」


 柳の視線の先にいたこのパーティーの主催者は、一人一人にきちんと挨拶をして回っている。柳の言うとおり確かに人の良さそうな感じはするが、それでも秀は警戒を解けない理由があった。


「ええ、本当に紳士に見えますけどね。でも、明らかに麻薬に関わってるメンバーとも会話をしてますから……」


 まだ桜姫もこの会場に戻って来てないことも含め、秀は手にしていたグラスのシャンパンを飲み干した。



 一方、秀達がいた傍のテーブルの食事を完食した翔は、まだ足りないと新たな食を紫月と求めに行く。いや、正確に言えば紫月がお目付け役で同行しているというところか。


 立食パーティー形式とはいえ、少しはマナーなり礼節なり守って欲しいところだが、食を与えず騒がれる方がもっと恥ずかしいかと紫月は深い溜息を吐いた。


「紫月、こっちにうまそうなケーキがあるぞ!」

「大声で叫ばないでください。それと皆の分もとって戻りますから、この場で全て食べ尽くさないでくださいね」

「こんなに」

「私が作ったチョコレートは食べないんですか?」

「いや! 絶対食う!」


 それだけは御免だと必死になる少年に紫月はクスクスと笑う。こうして自分が作るものを大切に思ってくれてることが本当に嬉しいのだ。言葉ではうまく伝えることが出来ないのが、申し訳なくなることもあるのだけれど。


 それから二人は数種類のケーキを皿にとっていた時、フランス人と日本人ハーフといった感じの豊満な胸を持つ女性が翔に声を掛けてきた。


 スイカみたいな胸だ、と感想を抱いたのはいかにも翔らしいと言える。


「可愛い坊やね。美味しい飲み物でもいかが?」

「喜ん」

「翔君!!」


 グラスに手を伸ばそうとしていた翔に紫月はピシャリとそれを制した。ただし、それは嫉妬といった類の感情からではない。


「飲酒なんてしたら龍さんに潰されますよ!」

「へっ? これって酒?」


 どうみてもジュースにしか見えないといった表情だが、女が悪戯がばれたかのようにクスクス笑って種明かしをした。それに紫月は不快感を覚えるが。


「ふふっ、ごめんなさい。坊やぐらいの招待客って珍しかったから」

「日本じゃ未成年の飲酒は禁止されてます。フランスと一緒にしないで下さい。ほら翔君、行きますよ」

「あら、折角だからお姉さんとお話しない?」


 翔の顎にそれは綺麗な指先が触れてスッとそのラインと辿ると、紫月は特大の青筋を立てた。何なんだ、この有り得ないほどの苛立ちは!


 例え沙南や紗枝が同じことをやったとして、翔が照れた反応を見せたとしてもだらしないとつっこんでやる余裕ぐらいあるというのに!


 しかし、女はさらに苛立たせるような行動に出た!


「何だか弟みたいですごく親近感が湧くのよ。年上の女は嫌いかしら?」

「うっ!」


 豊満な胸に翔は顔面ごと押し付けられ、女は紫月に勝ち誇ったような笑みを向けた。それにも腹が立つが、翔が動かないことにはもっと腹が立つ! 


「……翔君、もう知りませんから勝手にしてくださいっ!!」


 ついにキレた紫月は、ケーキの皿を持って秀達がいる場所へと戻って行くのだった。


 そして、紫月がいなくなった後、女はクスリと笑って薬を付けた胸に押し付けている翔を解放してやる。案の定、翔は見事に眠りに落ちていた。そこへウェイターが近付いて来て翔をヒョイと抱える。


「……さぁ、行きましょうか、西天空太子様」


 その瞬間! 会場内のブレーカーが落ち真っ暗となるが、わずかに燈された蝋燭の明かりを頼りにウェイターと女は走り出す!


「きゃあああ!!」

「何だ! 何も見えないぞ!」

「お客様! 落ち着いてください!」


 しかし、追い撃ちを掛けるかのように今度は銃声が鳴り響き、さらには警察官の怒声が響いて会場内は更なるパニックに陥った!


「皆! 傍にいますか!」

「うん!」

「ここにいるよ!」

「平気だ!」

「触るな! 馬鹿者が!」

「グハッ!!」


 その声で末っ子組や森達が無事だと確認する。当然のことながら、柳は停電したと同時に秀が引き寄せているために無事だ。


 ただ、沙南の声が返ってこないことに気付いて秀がすぐに携帯のランプを点せば、口を押さえられて連れ去られようとしている沙南が目に飛び込んできた!


「沙南ちゃん!」

「んん〜〜っ!!」


 秀はすぐに沙南を連れ去ろうとしている男に飛び掛かろうとしたが、ピタリと体は重力に縛り付けられる。ただ、それをやったのは啓吾だ。


「えっ?」

「ぐぼはっ!!」


 秀の真横を沙南を連れ去ろうとした男の巨体が掠める。燈した明かりで僅かながらに見えたその表情がかなり悲惨だったような気がしたが、とりあえず沙南が無事かと秀は明かりを沙南達の方に向ければ、悪の総大将に抱き着いてる沙南を発見した。


「龍さん!」

「沙南ちゃん、無事で良かった!」


 しかし、明かりの少ない場所でよく見つけられたなと秀が首を傾げていると、ライターの火を付けた啓吾が紗枝の手を引いてやってきた。


「よう、全員無事か?」

「啓吾さん、よくここが分かりましたね」

「まぁ、俺は柳達のいる場所を感じ取れたし、夜目は効くから来れたんだがな……」


 そう、啓吾も秀と全く同じことを思っていたのだ。そして、結論は一つしか思い浮かばない……


「愛か?」

「なんでしょうかね……」


 さすがに太陽の光なんて使うはずがないとすれば、それしか答えは出てこない。しかし、高校生組がまだこの場に戻って来ていないのだ、そう暢気にしてはいられない。


「啓吾さん、翔君と紫月ちゃんは?」

「三男坊は知らんが紫月は会場内にいる。ちょっと行ってくるから紗枝を頼む」


 そう告げて、啓吾は混乱の続く会場内にまた飛び込んで行くのだった。




さて、今回は騒動が起こっちゃいましたよ!?

しかも翔が誘拐されてませんか!?

綺麗なお姉さんに薬でノックアウトされちゃうなんていかにも翔らしいような……

胸がスイカに見えたからかな(笑)


でも、普段は冷静な紫月ちゃんも今回ばかりはご立腹な模様。

彼女の苛立ちはそれはかなりのものかなと思います。

まぁ、スタイル面はまだ成長期の高校生なんで大人には敵わないよねぇ。


そして、今回の一番の凄さは真っ暗闇の中で沙南ちゃんのピンチを救った龍!

これはやっぱり愛の力ですか!?




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