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第一話:チョコレート

 誰もがウキウキ、ワクワクするのがバレンタインデーというわけがなく、全く無縁という人物もいるわけだが、少なくとも天宮家にとっては確実にチョコレートをゲット出来る年間行事である。


 そして、彼等に渡そうと篠塚家の年少組はこれでもかというほど、力作の数々を作り上げていた。


「出来たぁ〜!!」

「ええ、これだけ作っておけばなんとかなるでしょう。兄さん、すみませんけど、明日は龍さんに渡してもらっていいですか?」


 久し振りの休日でソファーの上でゴロゴロしながら論文に目を通している啓吾は、唯一、妹達が渡してもカンに障らない親友の名に快く承諾した。


「ああ、了解。にしても作り過ぎじゃねぇのか?」


 チョコレート、クッキー、ケーキ類と味もミルクやらビターやら、おまけに生チョコやらとよく作ったものだと啓吾は感心した。


 ただ、これを食べる少年達の満足そうな顔を張り倒してやりたくはなるが。


「これくらいはいるんじゃないですか? じゃないと足りないと騒ぎそうですし」

「そうか? あの兄弟なら結構もらうんじゃねぇの? 沙南お嬢さんも作るんだろうし、この前桜姫にもたかってたぞ?」

「それ以外に翔君の食を誰が作ってくれるんですか。まあ、純君はたくさん貰いそうですけど……」

「そりゃ末っ子はな……」


 チラリと夢華を見るが、どうやら彼女に危機感とかはなさそうだ。まぁ、純が真っ向から好きだとでも言われれば、少しは動揺するのかもしれないけれど……


 すると、啓吾はホイップを手に取ってハート型のまだ何も書いてないチョコレートを前にして尋ねた。


「紫月、天宮兄弟にやるのはこのチョコレートでいいな?」

「ええ、ですが兄さんが書くんですか?」

「ああ、俺から大切なもんばかり奪っていくんだからな。次男坊にはくたばれと」

「やめてください!!」


 せっかく作ったものをケンカの道具にされては堪らないと、紫月は何があっても書いてやるという啓吾としばらく格闘することになるのだった。



 一方、天宮家でチョコ作りに励んでいた沙南と柳は、ハート型のチョコレートを前にして悩んでいた。


「う〜ん、どうしようかなぁ?」

「そうよね、龍さんには毎年愛のメッセージを書くのが恒例なんでしょう?」

「なんだけどね、龍さんに愛の言葉を書いてるんだけど、全く動揺してくれないのよね」


 そんな悩める沙南に柳はくすくす笑った。初めて恋人に送るチョコレートなのだ。今までより驚かしてやりたい、と思う沙南の考えはとても可愛らしい。


 どうせなら少し相手に迫るメッセージでも書いたらどうか、と提案するが、それが一番の悩みどころなのだ。


「だけどね、大好き、愛してる、結婚して、私を食べてまで書いたんだけどダメだったのよね」

「沙南ちゃん……」


 そこまで書いてなんで今まで全く進展しなかったんだろう、と柳は混乱してきた。いや、寧ろそこまで書いたから進展しなかったのだろうか……


 これは明日までの宿題にしよう、と沙南は先に彼の弟達のチョコレートを完成させることにした。


「あっ、だけど柳ちゃんは愛の言葉は書かない方がいいかも。秀さんのことだもん、ホワイトデーまで待たずにその場で三倍どころか十倍で返されるわよ!?」

「アハハハ……」


 この場にもし啓吾がいれば、間違いなくくたばれとぐらい書いてやれ!と言っているに違いない。


 ただ、沙南の言うことはきっと間違いないだろうなと思う。約半年間付き合って分かることは、段々自分に対して愛を降り注ぐことに遠慮がなくなってきたことだ。


 嬉しいことではあるのだが、免疫がつくことがないのが困りものである。いや、ついたらついたでそれもどうかと思うが……


「まぁ、本来ならチョコレート渡すのも危険かもしれないんだけど、渡さずにもっと危険な目にも遭わせたくもないし……」

「えっ?」


 どういうことだろう、と柳は首を傾げる。さすがにそこまで柳の頭は回転しないらしい。


 おそらく秀のことだ、チョコレートを渡せばその場で柳をさらい、渡さなければ監禁し、それが無理なら八つ当たりを世界規模でやるに違いない。


「本当、柳ちゃんって聖なる生贄よね……」

「生贄って……」

「きっと啓吾さんがまた荒れちゃうんだろうなぁ」


 それは否定出来ないな……、と柳は啓吾と秀の争いを想像して渇いた笑いを発するのだった……



 そして、沙南を悩ませてる医者は医局でカルテをチェックし、そろそろ戻って来るかと時計を見上げるとオペでクタクタになった紗枝が帰ってきた。


「紗枝先生、お疲れ」

「お疲れ様。あ〜もうダメ。龍先生、コーヒー頂戴」


 机の上になだれ込んでコーヒーを催促する紗枝に、龍は快くそれを引き受けて、インスタントコーヒーを手際よく入れていく。


「だけど成功したんだろ?」

「ええ。あとはちゃんと大人しくしていてくれたら無事に退院出来るわ」


 クスクス笑うのはその子がとても元気な子だったからで。本当に子供好きなんだな、と思いながら紗枝にコーヒーを手渡した。


「はい、どうぞ」

「ありがとう。あと、そのマロングラッセ頂戴」

「お好きなだけ」

「そうね、今日は啓吾先生が休みだしね」


 いつも沙南は必ず三人分のおやつを用意してくれている。なんせ、休みの日でも呼び出されることなどしょっちゅうで、その時におやつがないのも申し訳ないからだ。


 ただし、さすがに今日は大事故でも起こらない限り呼び出されることはないため、紗枝は啓吾の分も堪能させてもらうことにした。


「ところで、明日のバレンタイン、啓吾にやるのか?」

「まさか、あいつに作る暇も買う暇もなかったしね」


 さも当然だと、沙南お手製のマロングラッセに舌鼓を打ちながら紗枝は答える。確かに紗枝の言うとおり、一週間は病院に缶詰状態だった訳で買いに行く暇すらなかったのは事実だ。


 ただ、貰えない啓吾を想像して龍は眉を顰めた。


「拗ねるんじゃないか?」

「そうかしら? 看護士の女の子達から沢山貰えるだろうから問題ないでしょ。それに今日が休みなら、私のためにチョコレートの一つや二つ持ってきて欲しいわよ」


 だいたい、女性から男性にチョコレートを送る週間なんて日本ぐらいなものでしょ、と紗枝は続けた。


 しかし、自分のことより気になるのは隣の恋愛初心者のバレンタインデーだ。


「それより龍先生、明日は女の子達からのチョコレートどうするつもり?」

「沙南ちゃんは貰ってこいって言うけど?」

「あら、意外ね。妬くかと思ってたのに」

「多分、俺が貰っても翔の胃袋に入るからだろう?」


 それにうちの財政にも関わってくるから、と続ければ納得せざるを得ない。そういう寛大というかしっかりしているところはさすが沙南というところか。


 まあ、龍が浮気なんてものをまずすることがないというのは世界の常識ではあるけど。


「だけど、彼女からもらえるチョコレートは格別かもね。今年はどんなメッセージを思いつくのかしら」

「そうだね。楽しみだよなぁ」


 龍はいたずらっぽく笑う。彼は沙南から貰えるチョコレートを恋人として楽しみにしている訳ではなく、そのチョコレートに書かれているメッセージを楽しみにしている。


 ただ、毎年明らかに愛の告白ではないかという言葉だったはずなのだが、何故かちっとも進展しなかったのは、未だに紗枝は摩訶不思議だとしか思えないが……


「でも龍先生、明日オペ二つ入ってるでしょう? 沙南ちゃんに会えないんじゃない?」

「それは仕方ないさ。だけど、啓吾とやるんだからせめて電話は出来るように終わらせるよ。お礼は言いたいしね」

「そうね、今月だけでデート五回キャンセルしてるもんね」


 そう突かれて微妙な表情を浮かべる龍に、紗枝は声を立てて笑うのだった。




はい、ベルトさんからリクエストしていただいた天宮家のバレンタインデーとのことで、楽しく書かせていただきます。



やはりバレンタインデー前日、相変わらずの賑やかっぷりです。

ただし、今回は少し恋愛よりに書けたらいいなと思います。(本編もイチャイチャしてるけど……)


ただ、このお話、多分またおかしな方向に進むかと思いますので、ご容赦を(笑)




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