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第十七話:褒め言葉は選ぶべし

「紫月! お前どうしたんだよその格好!」


 紫月の恰好を見たときに翔は面食らった。てっきり今回もチャイナ服だと思っていたのだが、きちんとしたオレンジのパーティードレスだったのである。とはいっても、いつでも相手を蹴れるように丈は短め、靴も踵のない銀色のパンプスだが。


 だが、レースのショールまで肩に掛けて、メイクもうっすらしていると、どうも違和感を感じてならない。しかし、それは本人も同じ心境らしい。


「分かってますよ。似合わないのでしょう?」

「いや、無茶苦茶女の子らしい!」

「えっ?」

「うん! チャイナドレスもいいけど、たまには柳姉ちゃんみたいな格好しろよ! 可愛いんだからさ!」

「っつ……!!」


 紫月は顔を真っ赤にした。そう満面の笑顔で言うのは、本気で心臓が保たなくなるからやめて欲しいと思う。それからくるりと翔に背を向けた。


「やっ、やっぱり着替えます! これじゃ、敵を蹴るのに困りそうですし!」

「いや、充分動きやすそうだけどな……」


 無自覚で人を混乱させる翔の冷静なツッコミが入るが、そのままでいいだろ、と告げられて渋面になりながらも紫月は承諾するのだった。


 そんな高校生組のやり取りをよそに、末っ子組は癒しと可愛らしさを振り撒きながら互いを称賛していた。


「夢華ちゃん可愛い!」

「えへへ、フラワーガールだよ!」


 天使降臨、そんな言葉が似合う少女は絶対秀達が指示したのだろう、フラワーガールへと変身していた。あくまでも龍と沙南に結婚の二文字を連想させる気満々である。


「純君も凄くかっこいいよ!」

「ありがとう。はい」

「えっ?」


 差し出された腕に夢華はキョトンとした表情を浮かべるが、純はふんわり笑って答えた。


「エスコート。兄さん達みたいに出来るといいんだけど」


 思わずキュンとした。そして、それはパアッと弾けんばかりの笑顔に変わって、夢華はギュッと純の腕に飛びついた。


「ありがとう! 純君大好き!」

「僕も夢華ちゃんが大好きだよ」


 大人達がいたら、これほど微笑ましい告白合戦があるのかと涙すら浮かべていたかもしれないが、当然のことながら、この二人の間にあるのは恋愛というより愛情、もしくは大好きだから一緒にいるという感情から成り立つ表現である。


 ただ、この場にいたスタイリスト達は、あまりの微笑ましさに悶え苦しんでいたことは言うまでもない……



 一方、別室では柳専用の化粧室を予約していた秀が、最後の仕上げにと今日プレゼントしたシルバーネックレスを付けていた。


「これでよし」

「ありがとうございます、秀さん」


 昼間にプレゼントされた薄桃色のワンピース型のドレスと靴を身につけて、プロの手でメイクを施された柳は本当に可憐で、繊細な美しさを放ってくれる。


 それを言葉に出すのは秀でも難しいが、彼は本能のままに感想を述べることは忘れない。香水を手にとって、それをそっと耳たぶに付けながら彼は述べた。


「ですが、やっぱり少し不満もありますね」

「えっ?」

「着飾った君を堪能出来るのは嬉しいんですけど、狼共の目に晒したくはない気持ちもあるんですよ」


 とんでもない独占欲だな、と珍しく自覚するがそれだけ愛おしくて堪らないのだ。篠塚柳という女性はそれだけ秀の心を捕らえて離さない。


 しかし、それ以上に柳も思うことだってある。


「それでしたら……、私だって妬いてしまいますよ?」

「えっ?」

「秀さんはとても優しくて格好良くて……、綺麗な人の注目も一手に引き受けちゃうから……」


 天宮家で見た秀宛ての大量のチョコレート。翔達の胃袋に収まるものだから貰ってるだけとはいうものの、それだけ秀に思いを寄せてる女性はいるのだ。


 ただ、沙南達が平然としているのに、自分一人がヤキモチ妬いてしまうのが恥ずかしくて言えなかったのだけれど……


 それに秀はクスリと笑って、柳を後ろから抱きしめた。思わずピクンと反応してしまうが、どうやら立ち上がることも許してはくれないようだ。


「柳さんより素敵な女性なんているんですかねぇ?」

「それは沙南ちゃんとか紗枝さんとか……」

「そうですね。ですが、あの二人は素敵というより最強でしょう? あっ、桜姫さんや闇の女帝は幻想的とか妖艶ですかね」


 何となく首を傾げたくなるが、言ってる意味としては理解出来る。確かにしっくりくる言葉ではあるのかもしれない。


 すると、秀は柳の細い肩に口付けを一つ落として、柳はきゃっ!と可愛らしい悲鳴を上げた。


「僕にとっては柳さんほど素敵な女性はいません。だから今宵はずっと傍にいてくださいね?」

「……はい」


 頬を赤らめながら柳は答える。本当に溶けてしまいそうなほど幸福だと感じるが、あくまでも彼女を愛しているのは超が付くほどのドSだということを忘れてはならない。


「柳さん……」


 甘ったるい声で囁かれたあと、今度は首筋に口付けを落とされる。そして、それが離れればそこは赤い花びらが咲くわけで……


「あの……、秀さん?」

「これで大丈夫ですね」

「えっ?」

「僕の所有印を付けましたので、恐らく皆諦めてくれますよ」

「なっ……!!」


 一気に茹蛸が出来上がった。それに秀は非常にご満悦らしく、気味が悪いほどニコニコ笑っている。してやられたのだ、首筋と肩に付けられた所有印はとても隠せそうにない。いや、隠させてくれない!


「さっ、それではそろそろ行きましょうか」

「秀さんっ!!」


 しかし、それでも腕を差し出せばおずおずとしながらもとってくれる柳に秀は柔らかい笑みを浮かべて、今度は唇を重ねるのだった。



 そして、秀達と今宵は別行動になる医者三人は……


「龍ちゃん! 啓吾!」


 ロビーで医院長と待ち合わせだった龍達の元に、紗枝が薄紫のシンプルなイブニングドレスの裾を持ち上げてこちらへ駆けてきた。その様子に二人は笑みがこぼれてしまう。


「紗枝、お前走るなよな」

「大丈夫よ。転んだところで足を捻るような靴は履いてないもの」

「だが、エロさはかなり出るかもな」

「色気と言えないのかしら、この口は!」


 紗枝は思いっきり啓吾の頬を抓った! しかし、紗枝を見る男共の視線はまさに野獣にも似ている気配がある。背中を広く開けた作りのドレスなので仕方ないのかもしれないが。


「龍ちゃん、どう思う?」

「とても似合ってるよ」

「もう一声!」

「すごく大人っぽい」

「それは微妙ね……」


 妹分なので、それ以上の言葉を龍に求めてもこの堅物から飛び出すとは思えないが、せめて恋人からはもう少し褒め言葉くらい聞きたいものだ。


 紗枝は啓吾を抓るのをやめてニッと笑みを浮かべて感想を求めた。


「啓吾、ちゃんと褒めてちょうだい。龍ちゃんが沙南ちゃんに使えるような言葉で!」

「ああ、それならあるぞ」


 龍と沙南に使える言葉となると思いつくのは早いらしい。啓吾はそれは悪戯な笑みを浮かべて答えた。


「今晩やらせろ」

「言えるかぁ!!」

「くたばれっ!!」


 悪の総大将と最強の女神は瞬時に啓吾を沈めた。だが、沈んでいる場合ではなくなったのである。


 その原因は医院長と共にこのパーティーの主催者が現れたことから始まるのだ……




二日連続アップは久しぶりです。

理由は昨日書いた話の余ってた分だからですが(笑)


とりあえず、今回はほのぼのと書けたかと思えば、やっぱり秀と啓吾兄さんがねぇ……

だけど、まだまだ甘くしたいなと思いますので頑張ります!

男性でも照れてしまうような言葉を思いつければいいんですけど……


そして、いよいよ龍の気苦労が始まりそうな予感が……

龍と沙南ちゃんの恋愛が一番低い話になりそうな……

皆が動いてるのに何故か甘くならない二人は一体どうなるんだ??




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