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第十六話:ドレスアップ

 スタイリスト達が思わずほえ〜っとしてしまい、全く手出し出来ないほど桜姫はプロ級のメイクを沙南に施していく。


 いつも凛とした印象を持たせてくれる桜姫だが、家事に礼儀作法にメイクにと、日本一女子力が高いんじゃないかと思わせてくれる。というより、彼女に出来ない事ってあるのかと首を傾げたくなるが……


 しかし、どれだけ女子力が高くとも、彼女はあくまでもあの秀達と意気投合する、龍と沙南の仲をより一層発展させるためには周りがどうなろうと二人さえよければ構わないという、なかなか過激な女性には違いない。


「あの、桜姫さん?」

「はい、何でございましょう」

「まさか、そこのブーケとベールまで使わないよね?」


 自分が今着せられているのが真っ白なイブニングドレスなので、下手をすれば本気で花嫁の恰好をさせられかねないなと沙南は思う。


 それに対して、桜姫は沙南にローズピンクの口紅を落しながら優美な笑みを浮かべる。


「ご心配には及びません。こちらは鑑賞用として手配させていただきました。もちろん、沙南様が望まれるならすぐにでも御付け致しますが?」

「結構です!」


 沙南は即座に断った。ただし、桜姫はちゃっかり花嫁になれるようなメイクを施しているわけなのだけれど……


 その切り返しの早さに桜姫はクスクスと笑い、スタイリスト達に目で合図を送ると彼女達はたくさんの香水や装飾品を運んできた。


「沙南様、香水なのですが、少し面白いものを御付けしてもよろしいですか?」

「面白いもの?」

「はい、このようなパーティーで沙南様をエスコート出来ない主に、私からのささやかな仕返しでございますが」


 桜姫のささやかがどのレベルなのかは非常に怪しいところだが、香が少し大人っぽかったため沙南は承諾した。相手が年上な性か、こういうところぐらい背伸びしたくなるのだ。


「では、失礼致します」

「えっ?」


 香水を吹き掛けられた場所に沙南は赤くなった。桜姫の言うささやかな仕返しは先を見越してるだけ性質が悪いのである。彼女は胸の谷間に付けたのだから……


「お、桜姫さん!?」

「主にはこれくらいで丁度よろしいでしょう」

「何がですか!?」

「それは」

「あっ、やっぱり言わないで!」


 絶対律儀に答えてくれるので沙南は桜姫の言葉を遮った。その時、部屋の扉がノックされ、準備を終えた男性陣達が入ってくる。


「入るぞ」

「お邪魔します!」


 スタイリスト達から黄色い悲鳴が飛び出した。その悲鳴の九割は秀と純の可愛らしさに当てられたものである。ただ、龍と啓吾は早くも医院長の元に行ったらしくここには来ていないが。


 そして、沙南の姿を目にするなり、男性陣は歓声を上げた。


「お〜! お姫様、花嫁みたいじゃねぇか!」

「沙南ちゃん可愛い!」

「本当、龍兄貴のやつおじさんなんてほっとけばいいのに」

「やっぱり今のうちに片付けておきましょうかね」


 それに沙南はありがとう、と礼を述べるが、このあとの会話に目を点にさせられる。やはり彼等は彼等なのだ。


「桜姫、ベールは却下されたのか?」

「はい、ですがメイクはウェディング用に仕上げておりますので、いつでも準備万端でございます」

「そうですか。まぁ、まだいろいろ策は残してますし、既成事実さえ作ってしまえば問題ありません」


 どうやら全員グルらしい。ここまでの団結力はまさに脱帽ものだ。しかし、森と宮岡は桜姫の格好に少々首を傾げた。ベージュのパンツスーツ姿は確かに凛々しいのだが、折角のパーティーなのだ、ドレス姿も見てみたいところだ。


「桜姫、お前もドレス着ろ」

「確かに勿体ないね」


 それに桜姫はクスリと笑って答える。彼女も着れる状況なら着ただろうが、着れない理由もあった。


「私は仕事がございますから、こちらの方が楽なんです」

「だったらせめて青の装束姿にしたらどうなんだ? あの脚線美さらけ出し……」


 前髪がパサリと落ちる。そして、床に落ちる数枚の花びら。森は背中に冷汗が流れていくのを感じた。


「森将軍、お召し物を真っ赤に染めたくなければ、余計な口は慎むようにお勧めいたします」

「すみません……」


 刺すような視線に森は素直に謝った。それに付き合ってられないと言うように、天宮兄弟は隣室で着飾られているそれぞれのパートナーの元へ向かうことにする。やけに秀が弾んでいるのはいつものことだ。


 しかし、そんな森と桜姫のやりとりを見ながらも、ふと宮岡は装飾品の数々と桜姫を見て動き出した。


「う〜ん、だけど少し花が欲しいな」


 宮岡は傍にあったコサージュの数々の中から、エメラルドグリーンと深緑で作られたカサブランカの花を選び、それを桜姫のスーツに取り付けた。


「よし、これでいい」

「ありがとうございます、良将軍」


 恭しく桜姫は頭を下げる。ただ、少しいい感じの雰囲気に森は悔しそうな表情を浮かべて宮岡に詰め寄った。


「良〜〜!! テメェは何ちゃっかり桜姫と親しくしてんだ!!」

「何だ、お前もコサージュ付けたいのか? 頭にでも」

「んなもん付けるか!!」

「……案外お似合いかと」

「桜姫……!!」


 沙南の頭の中でも花を纏った森を連想すると、間違いなくギャグという意味ではかなり似合うかもしれないなとの感想を抱く。


 まぁ、実際に花をバックに背負えばどこかの異国の王子様になる次男坊殿はいるわけだけど。


 その時、支度がすんだのだろう、薔薇の花を背負っても薔薇が平伏してしまう女帝がサイドスリッドの深い、銀糸とダイヤモンドで装飾されたスリムなブラッグのドレスを着こなして部屋の中に入ってきた。


「綺麗……」

「さすが……」


 大人の女性、というより女帝の魅力とはこういう事なんだろうと思う。髪を上げて後れ毛が艶かしく落ちていて、うなじがとても綺麗で……


 だが、その中で馬鹿が取る行動は一つである。


「闇の女帝! 今夜は俺がエスコートを!!」

「煩わしい!!」


 綺麗過ぎる踵落しを決めて飛びついてきた森を沈め、さらにはヒールで頭を踏み付けた。彼女がスリッドの深いドレスにした理由はこういうことかと思う。


「控えよ! 大馬鹿者が!!」

「闇の女帝、そのまま奈落の底まで落としてやってください」

「全くですね」

「いや、妾の力を力を使うのも面倒じゃ。そこのもの、銃を持ってこい」


 さすがにそう命じられたスタイリストは困惑した。あくまでも森は菅原財閥の御曹司である。


 だが、闇の女帝は森を踏むのをそこまでにして、桜姫を見るなり宮岡達と同意見を述べた。


「何だ、桜姫はやはりドレスではないのか」

「はい、少し調べることがございますから」

「そうか、無理はするな」

「恐れ入ります。では、そろそろ時間となりますのでまた後ほど」


 そう告げて桜姫は部屋を後にした。仕事だとは言っていたが、一体何があるのかと気になるところではある。沙南は椅子から立ち上がり、宮岡に尋ねた。


「桜姫さん何かあるの?」

「うん、だけどすぐに合流出来るよ」

「そっか」


 おそらく、すぐというならすぐなのだと思う。ただ、彼女が何をするのかは気になるところだけれど……


 そして、闇の女帝は沙南に近付き、ふむと頷きながら凝視した。桜姫がメイクしてくれたというのにどこかおかしいところでもあるのかと思うが、どうやらそうではないらしい。


「折原沙南」

「はい?」

「その程度でいいと思ってるのか?」

「えっ?」


 一体何のことかと思うが、闇の女帝は沙南を座らせるなりとんでもない発言をしてくれた!


「男を誘うなら徹底的にだ! 妾の前で中途半端は許さぬ! 宮岡、例の媚薬を天宮秀が持ってるはずだ、取って来い!」

「かしこまりました」

「いやぁ〜〜〜!!」


 沙南の悲鳴がホテル中に響き渡るのだった……




沙南ちゃんがかなり大変な目に……

本当、この一行は龍と沙南のためなら何でもありかと……


でも、女の子を着飾るのはとても楽しいです。

桜姫も本当はドレスアップしたかったんですけど、お話の都合上、スーツ姿にしちゃいました。

おそらく彼女は暴れますからね(笑)


そして、闇の女帝。

「男を誘うなら徹底的に」とかっこいい発言をしてくれてます。

おそらく、桜姫が沙南につけた香水に気付いたからでしょう。


だけど媚薬!?

そして秀が持っている!?

この一行本気で何やらかすつもりなんだ!?




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