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第十五話:嵐の前もやはり嵐

 ホテルに入った途端に囲まれたのは、一応、菅原財閥の御曹司である森ではなく、悪の総大将だった。


 しかも囲まれながらシャツがはだける、いわばサービスショットに女性スタッフ達の黄色い声が響き渡る羽目になる。それを啓吾や秀達は腹筋を総動員させられるほど、笑いを堪えるのに苦しんでいた訳だが……


「良、今の写真に撮ったか?」

「ああ、マダム達に売り付けたら軽く万代はいくかもね」

「お二人ともお止め下さい。それに主なんですから十万代には乗ります」


 つっこむところはそこなんだろうか、と末っ子組は首を傾げるが、闇の女帝もそのビジネスには加わると言い出したところに悪の総大将は彼等を威圧してその話は消えた。


 それから何とか女性スタッフ達から抜け出して、龍はいきなりドッとした疲労感に襲われた。


「全く、あいつらは……!!」

「ほら、龍ちゃん、さっさと男前になってらっしゃい! それに今日のパーティーの出席者、おじ様が大好きな政財界関係者はもちろん医療、製薬の重鎮に海外からもかなりの権威が出席してるみたいよ」


 ニッコリ笑って告げてくれる紗枝に龍は本気で勘弁してくれと思う。とはいっても、有能な医者には会ってみたいとは思う訳だが。


 しかし、現実を考えればとても呑気に会話をしている場合じゃないと龍は脱力した。


「おまけに犯罪組織に警察だもんな……」

「あら、素敵なセレブも多いわよ? 表向きは製薬会社の五十周年記念だけど、バレンタインデーの合コン会場としても利用されてる訳だし」

「紗枝ちゃんに必要あるのかい?」

「啓吾次第かな」


 そんな軽口を叩き合ってようやく龍は笑った。彼女はこの状況を楽しんではいても、さりげなくフォローしてくれるつもりはあるらしい。


 また後でね、と手をヒラヒラと振って一行は着替えの為に男女で分かれた。



 それから約十数分後、そこまで力を入れる必要がないだろうと、スタイリスト達から失礼にならない程度に着飾られたというより自分達で着替えた森と宮岡は、女性達の熱視線を浴びている者達を呆然と見ていた……


「……良、いい男が三人もいるってどうなんだよ」

「将来性抜群な二人もいるけどな」


 ホテルのスタイリスト達が頬を赤く染めながら作業を進めていることに森と宮岡はそれは深い溜息を吐いた。


 もともと美形の部類に入る天宮四兄弟と啓吾は、下手をすればトップモデルすら足元にも及ばないんじゃないかと思わせる。

 これは間違いなく、パーティー会場では黄色い声とチョコレートが飛び交うんだろうな、と二人は思った。


 だが、面倒だからこれ以上はいいと抜け出した啓吾は、せっかく着飾られたというのに早くも上着を脱いで細いネクタイを緩めた。それすらも格好いいのは男から見ても羨ましいところだ。


 そして、少し離れた場所に設置してあるソファーに腰掛けて啓吾は一服を決め込んでいると、将来性抜群の少年達が目を丸くして啓吾を見つめる。


「どうした、年少組」

「う〜ん、啓吾さんらしくない?」

「うん、普段と違うからかな?」


 病院にいるときは白衣かオペ着、家にいてもラフな格好しかしていないのだから、確かにタキシードは自分のイメージじゃないよな、と啓吾は苦笑する。


 ただ、年少組二人も似合ってはいるが、少し窮屈な感じがあってらしくはないのかもしれない。


「そりゃな、俺もこんな固っ苦しいのは嫌いだよ。だが、さすがにこんな所で白衣って訳にもいかねぇだろ」

「……白衣もあんまりイメージが」

「絞めるぞ、三男坊」


 刺すような視線とタバコを灰皿に押し潰す動作が一緒になり、翔は一歩後退した。さすがは龍の親友であり、秀と張り合える男である。


「それよかお前等、今夜は絶対紫月と夢華から離れんなよ? それに怪我させたらどうなるか分かってんだろうな、三男坊」

「俺限定!?」


 それは当然と言わんばかりに啓吾はニヤリと笑った。どれだけ大切な妹をさらっていく天宮家の弟とはいえども、さすがに純は殴れないらしい。


 おそらく、末っ子というイメージが強い性で、どこか夢華と同じ感覚がある性だろうと啓吾は思っている。でも、シスコンはどうにもなりそうにはないけれど……


 しかし、そんな優しさなんて一生持てないどころか、今すぐくたばってくれと思う腹黒はニッコリ笑って答えた。


「心配しないで下さい、啓吾さん。柳さんとは片時も離れたりなんてしませんから」


 ブランドのスーツを霞ませる美青年は本当に存在する。純はキラキラした目で秀を見つめるが、翔は絶対会場に来ているカップルをケンカさせるな、といった感想を抱いた。


 だが、シスコンにとってはそれどころではない。どんな格好をしようと抹殺対象である。


「次男坊〜〜!!」

「もちろん、怪我もさせませんし。ああ、だけどここのホテルが破壊される可能性があるなら、やっぱり別の所で予約入れておいた方が……」

「今すぐくたばれ次男坊!!」


 その瞬間に悪の総大将は二人を沈めた。今こんなところで本気で衝突されては、周りにいるスタイリスト達にまで危害が及ぶため、まさに瞬殺であった。


「お前等はいきなり暴れるな!!」


 さすが悪の総大将……、とその場にいたものが羨望にも似た眼差しで見つめる。それはシスコンと腹黒を一撃で黙らせたからだけではない。


「どうした?」


 何故か強く向けられる視線に龍は怪訝な表情になるが、その理由はすぐに弟達の口から語られる。


「龍兄さん、かっこいい〜!!」

「ああ! だけどさ、やっぱり真っ白の方が良かったんじゃねぇのか?」

「翔君、沙南ちゃんはウェディングドレスじゃないんですから今夜は我慢してください」


 褒められてるんだか、これから起こるであろう面倒を予告されているのかは微妙なところだが、ブラックのイブニング姿は本当に龍の男前度をより上げているのは事実だ。


 だが、ここで啓吾は彼らしくつっこんでくれる。


「龍、菅原会長が給料三ヶ月分の指輪を用意して」

「買うかぁ!! だいたい、今日は医院長のお守りがメインだろうが!」


 もっともな理由に啓吾は内心で、医院長なんて酒でも飲ませて適当に潰しておけばいいものを……、とかなり効率の良い方法を考えていたが、龍はそこまで思い至ってないらしい。


 しかし、弟達はそれに目を丸くして次々と意見した。


「えっ? 沙南ちゃんのエスコートしないの?」

「龍兄貴、それはまずいんじゃねぇの?」

「狼の群れの中の子羊同然ですね」


 本当にグサグサと突き刺すよな、と啓吾は聞いていてそう思った。若干、龍の表情が引き攣ったことから、それなりの威力はあったらしい。


 もちろん、龍も出来るならそうしたいところだが、今回お目付け役を頼んでくれた人物に対して、さすがにすっぽかすつもりにはなれなかった。


「仕方ないだろう? 外科部長からお目付け役を頼まれてるんだ。うちの病院を麻薬に染まるような病院にしたいのか?」

「外科部長ですか……、でしたら兄さんの気持ちも分からないこともないですけど……」


 目上の、しかも龍が信頼している人物に対しての頼みとなれば、まず龍は断らないだろう。少しは理解してくれたかと思い、龍は翔と純の頭にポンと手を置いた。


「それに沙南ちゃんはお前達が守れるだろう?」

「うん!」

「ああ」


 そう答えてくれた年少組に龍はホッとするが、残りのメンバーは何か考え出したらしい。


「……次男坊、敵のリスト寄越せ」

「はい、どうぞ」

「啓吾君、今日の出席者リストもいるかい?」

「ああ、それも頼む」

「良、美女リストは?」

「そっちのデータを勝手に見てろ」


 やけに真剣になったかどうかは怪しいが、少なくとも啓吾と秀のオーラがかなり危険な色になっていることは確かだ。


 それにいつも以上に嫌な予感を覚えて龍は尋ねた。


「何する気だ?」

「関わる前に消せばいい」

「全くですね」

「いいからまだ騒ぐな!」


 きっと止められないんだろうな、と純は思うのだった。




さて、今回も騒がしい御一行様。

男性陣のやり取りを書きたくなって書いたという。

話が進まないけど、ギャグは捨てられないんです……!!


だけど、龍はいきなり着いた途端になかなか悲惨な目に(笑)

女性に囲まれてシャツがはだけて、おまけにその写真がビジネスになりかけるという……

そりゃかっこいいですからね、悪の総大将。


でも、他の男性陣も普通にかっこいいんですよ?

ちょっと悪の総大将とか腹黒参謀とか、シスコンの中ボスが人の三ランクぐらい高いレベルのかっこよさを持ってるように書いてるだけですからね。


そんな感じで事件前にも騒いでいますが、女性陣もどうなっていることやら。

次回もお楽しみに☆




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