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第十四話:車内

 車に乗り込んだ途端にやられた、と思った。てっきり末っ子組あたりでも乗り込んでいるのかと思ったが、乗っていたのは沙南だけだ。しかし、隣に腰掛ければいいのに対面に座るあたりは恋人になった今でも変わらない。


 ただ、それでも勤務明けに沙南の顔を見てホッとしてしまうのだけれど。


「お疲れ様、龍さん」

「ああ」

「ゴメンね、今日はコーヒー煎れてあげられないけど」

「ああ、残念だけどまだ休んでる場合じゃなさそうだからな」


 はぁ〜、と深い溜息を吐き出すのはこれから起こるであろう騒動が容易に想像できるからで……


 しかし、それだけではなくいつもより眉間のシワが二割増しになっていることに沙南は気付いた。


「龍さん、怒ってる?」

「別の意味でね。あいつらなりに気を遣ってくれてはいるんだろうけど……」


 龍はチラリと窓際に視線を向ける。どうも二人きりにされたことに対して龍は不機嫌らしい。ただ、沙南と一緒にいたくないという訳ではないのだが。


「私は嬉しいんだけどな……」


 ちょっと朱くなって告げてくれる表情に龍はドキッとした。決して視線は交わらないがその分だけ恥ずかしさは募っていく。


 しかし、これだけ可愛らしいことを言われてしまえば、何か気の利いた言葉ぐらい返せばいいのだが、やはり龍は龍である。


「……そうだな。本来なら夜に電話出来るかどうかってところだったし、感謝しようか」


 至って当たり障りのない言葉だが、それでも沙南は笑顔になる。秀のようにストレート過ぎる言葉なんて百分の一の確率でしか告げてくれないが、龍の気持ちは充分過ぎるほど伝わって来るのだ。


 逆にたまに囁かれる愛の言葉なんて心臓に悪すぎる。


「あっ、だけどチョコレートは家に置いてきたの。絶対暴れると思ったから!」


 そう告げた瞬間に甘い空気は完全に払拭された。龍はガックリとうなだれ、せっかく穏やかな気持ちになっていたものが倍になって気苦労へと変わった。


「龍さん?」

「沙南ちゃん……、何でうちの人間達はそう人が集まるようなところで暴れたがるんだ?」


 そういえばそんな感じが……、と沙南は過去に自分達が暴れた場所を思い出してみる。

 自衛隊演習場、ホテル、研究所に市街地、遊園地を破壊したこともあったな、とまで思い出せば、龍の沈み方はもはや言葉に出来ないものになった。


「龍さん、大丈夫よ! 私達は強いから危険なことはないだろうし」

「あいつら自体が一番の悩みなんだが……」

「う〜ん、でもまさかパーティー会場そのものを大破させたり……、出来るわよね?」

「沙南ちゃん、頼むから否定してくれないか……」


 したいところではあるのだが、どう考えてもそれは不可能だなと思いながら、沙南は何とか龍を慰めるのだった。



 そんな二人の会話を前を走る車の中で啓吾達は盗聴していたのだが、少し盛り上がったかと思えば、何故かおかしな方向に進む二人に微妙な表情を浮かべさせられた。


「おい、あの二人は何であの密室で愛の一言も出てこないんだよ……」

「運転手がいるからじゃないですか?」

「いえ、紫月ちゃん、あの車の運転席と後部座席は仕切りで完全にシャットアウトしてますから、普通にいちゃつけるはずなんですが……」


 つまり龍だから……、という結論に達してしまう。決めるところは誰よりもかっこよく決めるというのに、何故か恋愛ごとになると誰よりもコケる率が高いのだ。


 しかし、今回はそうではなかった。盗聴器から有りもしない問い掛けをされたのである。


『秀、聞こえるか?』


 ギクッ!と全員の表情が変わる。そう、彼等の悪巧みに龍は最初から気付いていたのである。どうしようか、と互いに顔を見合わせるが、悪の総大将の威圧感が全員に襲い掛かってきた。


『聞こえてるならちゃんと話せ。じゃなければ、今すぐそっちの車を大破させるぞ』


 本気だと思った瞬間、秀は盗聴器を通信機のモードに変更した。これ以上無礼な行いを重ねれば、空そのものを落としかねないのだから……


 ただ、それでも平静な声で龍と会話出来るのは秀ならではだ。


「バレてました?」

『お前達がやりそうなことだからな。それより、鷹について詳しく話せ』


 龍の声自体は落ち着いているが、後から間違いなく説教の一つや二つ、げんこつの一、二撃は覚悟だな、と思った。


 そして、秀は今回のことを順に追っていくため、まずは龍に意見を求める。


「はい、まずは天空記に描かれてた鷹族についてですが、兄さんのご意見は?」

『鷹族といえば暗愚な主と有能な武道家達が印象的だな。特に鳳凰は幾度か手合わせをしたことはあるが、かなりの使い手だった記憶がある』


 それに啓吾はきょとんとした表情を浮かべさせられて龍に尋ねた。


「なんだ、そんな記憶残ってるのか?」

『というより啓吾、お前が残ってない方が不思議なんだけどな』


 はて、と啓吾は首を傾げるが、啓星だった頃の彼の行いから考えればそれも仕方ない気もする。

 なんせ彼は基本、面倒な人間とは関わらない、興味のない人間は眼中に入らない、敵は即行で片付けるといった従者だったのだから……


 それと似たタイプであった秀もあまり記憶がなく龍に尋ねた。


「どういった記憶なんです?」

『秀、太陽宮でよく手合わせをしていた時、俺達以外に相手を一撃で倒していた奴がいただろう?』


 自分達以外に相手をあっさり倒していたもの……、一行は腕を組むなり顎肘を付くなりと考えると、全員一斉にある男の顔を思い出す!


「あっ!」

「えっ!? まさか……!!」

「おいおい……、そういうオチかよ……」

『ああ、光帝の懐刀と言われた親衛隊隊長、それが鳳凰だ』


 桜姫はコクリと頷いた。どうやら彼女は覚えていたらしい。というより、男性陣に至っては覚えてない方がおかしいぐらいだ。ただ、そんな名前だったのか……、と心の中で呟くが……


「でも、ちょっと待ってください、だったら何で僕達を狙うんですか? 彼はこちら側の味方だったはずです」

『そのとおり、二百代前は光帝が主上に殺される前まで戦い続けた武道家だ。だが、現代で必ずしも味方として生まれたという証拠はない』


 普通、誰もが前世の記憶があって、全く同じように生まれて来るということ自体証明出来るわけがないのだ。自分達がたまたまそうだけだったという結果で……


「じゃあ、現代ではそんな厄介な奴の相手をしなければならないと」

『ああ、あくまでも推測の域ではあるけどな。ただ、敵が鷹族である以上、かなりの武道集団には違いない。それも紫月ちゃんと闘った相手が、鳳凰とは限らないほどの手練だった可能性も捨て切れない』


 それは紫月にとっては衝撃としか言いようがなかった。あれだけ自分が押されたというのに、あの男が鳳凰ではないなどと考えたくもない。あのレベルが多数いるとなると、自分の身すら守れなくなりそうで……


『天宮龍、どういうことだ?』


 聞こえてきた闇の女帝の声に龍は眉を顰めた。どうやら彼女が乗る車にもこちらの会話は筒抜けだった訳である。


 しかし、彼等に説教するのは後にして、龍は彼の推測を伝えた。


『鳳凰の強さは紫月ちゃん以上。それに柳ちゃんが乱入したぐらいで退却する事にも疑問を感じる』

「……どういうことです?」


 若干、紫月が動揺していることを啓吾はその声で感じ取った。彼女が戦って押されることなど滅多にない性でもあるだろう。しかし、龍は出来るだけ的確に答える。


『鳳凰の武道の腕は俺と互角。それに鷹族なんだ、風使いの紫月ちゃんとの相性を考えても鳳凰の方が明らかに強い』

「でしたら……」

『だからおかしいんだ。もし、現代で鳳凰が鷹族の暗愚な主の下についてるなら、狙いはおそらくこちらの女性陣。

 ただ、連れて来いというなら、沙南ちゃんは闇の女帝の側近の偽者が来た時点で何らかのアクションがあったはず』

『あっ!』


 沙南はもっともだと思った。あの時、自分の周りには翔達すらいなくて掠おうと思えば掠えたはずだ。

 しかし、相手は自分と会話だけを交わしてすぐに去っていった。


『しかし、相手は襲撃はしても必ず退却している。まるでこちらを誘ってるみたいにな』

「じゃあ一体、何故こちらを誘う必要があるのでしょうか……」

『それは分からないが、今回の敵が鷹族と分かってる以上、確実に翔と紫月ちゃんは苦戦しやすい相手ではある。相手は風を制した戦闘集団だ、油断してるとやられるぞ』


 それは間違いなく翔に対しての警告。しかし、天下無敵の三男坊は面白そうに勝気な笑みを浮かべた。


「おもしれぇ、それぐらいのハンデぐらいないとケンカしても楽しくねぇもんな!」

「こてんぱんにやられるのに、どうしてそんなに楽しそうなんですか?」

「んだと、秀兄貴!」

「三男坊、怪我したら治療してやるから派手にやられていいぞ?」

「ひでぇよ、啓吾さん!」


 車内は一気に騒がしくなる。どうしていつもこうなんだと、龍は聞こえて来る音声にそれは深い溜息を吐くが目の前に座っている恋人に今のうちにと告げておくことにする。


 窓際の盗聴器を壊して、念のために辺りもきちんと確認することはもちろん忘れない。


「沙南ちゃん」

「何?」

「……必ず守るから、今日の夜は一緒に過ごそう」

「え、えっと……!」

「そういうことだ」


 反則だ、沙南は真っ赤になってそう思いながらもついにパーティー会場にたどり着く……




やっぱり龍がいるとちゃんと作戦会議になるんだなぁ。

ただ、溜息の数はかなりのものですが……


さて、まずは二百代前の沙南姫様のお父さんであり、太陽の管理者であった光帝。

どうやらその親衛隊の隊長が鳳凰であり、彼の下にも鷹族の武道集団がいた模様。

龍と互角の武道家、これはバトルが大変そうです。


そして、風の力を使う翔君や紫月ちゃんには、少々相性の悪い相手みたいですが、やっぱり三男坊はケンカ好き!

でも中ボスと腹黒参謀も相変わらず(笑)


だけど龍が珍しく彼らしくない愛の言葉を……!

そうだよね、バレンタインデーだもん、恋人と夜を過ごしたいよね!

でも、君の試練はまだこれからだぞ(笑)

ガンバレ、悪の総大将!!




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