表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/62

第十三話:病院襲撃

 一日の、というより一週間以上缶詰状態だった紗枝はようやく仕事を終えて医局に戻ると、先に啓吾が戻って来ていた。とはいえども、何度か急患の処置に当たっていて、先に解放されただけの話ではあるが。


「おつかれさん。終わったか?」

「ええ、龍ちゃんは?」

「愛の告白を受けに行ってる」

「あちゃ〜、明日、私休みなのに」

「コラ、からかってやんな」


 気持ちは分からないこともないが、と心の中では付け加える。しかし、啓吾もその楽しさは知っているため、一言ぐらいは突っついてやるつもりだが。


 しかし、紗枝はチラリと啓吾のチョコレートの山を見て疑問を投げ掛けた。


「でも、なんで啓吾は告られないわけ?」

「お前な……、彼氏にいう言葉かよ……」

「あら、彼女がいても他の人に愛を囁かれるってことはそれだけ魅力的だってことでしょ?」


 こういう女なんだよなぁ、と啓吾は思うが、そうゆうところも含めて惚れているのでどうしようもない。だが、このまま自分だけが惚れっぱなしというのは性に合わないなと、啓吾は行動に移った。


「紗枝」


 グッと腕を引かれたかと思えば、もう片方の手が顔を上に向かせて口づけられる。紗枝は一瞬、何が起こったのか分からなくなったが、見る見るうちに頬は赤く染まっていき唇が離れれば動揺しながらも抗議した。


「なっ……! ここ病院……!」

「もう仕事は終わった」


 再度唇は塞がれる。誰か来たらどうするのかと思うが、間違いなく啓吾はサラリと流すだろう。それどころか後頭部に手を差し入れられて、さらに深く口づけられる。


 そして、ようやく解放されればクタリと紗枝は啓吾の胸の中に倒れ込んだ。


「俺はお前にだけ愛を囁かれてれば充分。というより、行動で示して欲しいけどな」


 紗枝は視線だけ上を向けば、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた啓吾が視界に入って来て非常に悔しくなるが、いきなり机の上に押し倒された。しかもその顔は明らかに悪巧みを実行する気満々で……!


「ばっ……!」

「まだ外来が残ってるだろうから、当分誰も戻って来ないだろ」

「龍ちゃんが……!!」

「愛の告白を断るのに龍なら二十分は掛かる」

「啓……!!」

「いいから大人しくしてろ」

「ちょ……!!」

「絶対、抵抗するなよ」


 まるで射抜くかのような目に紗枝の鼓動はトクンと音を立て、彼女はスッと目を閉じて大人しくなった。抗う気を一気に無くしてしまったのだ。


 それに満足して、啓吾は紗枝の首筋に顔を埋めたその瞬間、音もなく放たれた弾丸が啓吾の周りで止まる!


「なっ……!!」

「そこかっ!!」

「うわぁ〜〜!!!」


 屋根が抜け落ち、さらに物影に潜んでいた者達が啓吾の重力で一斉に姿を現した! その数は十数人というところだが、啓吾は余裕たっぷりに言ってのける。


「おいおい、男女の情事を一体何人で覗き見するつもりだったんだ?」


 しかし、紗枝にとっては、あのまま仕掛けてこなかったらどうするつもりだったのかと心の中でつっこむ方が先だった。


 抵抗するな、と啓吾が言ったのも、半分自分の欲望を含んでいた気がするのはきっと気のせいではないだろう。


「啓星……! 貴様……!!」

「おっ、久しぶりにその名で呼ばれたな。ってことは、お前達は鷹の一味ってわけだろうが、俺の力を知らなかったのか?」

「知るか! 死ねぇ!!」


 再度発砲されるが、銃弾は啓吾の前で止まりふわふわと浮かぶ。それを見た鷹の一味は信じられないと驚愕の表情を浮かべた。


 どうやら本気で知らないらしいな、と啓吾は彼等がただの駒だということを知り、それと同時に面倒臭そうに溜息を吐いた。


「全く、お前らの組織は人を二百代前の名前で呼ぶように命じられてんのかよ」

「なっ……!!」


 そう啓吾が告げたあと、鷹の一味は重力の糸に見放されて空中浮遊を始めた。しかし、それでも何とか啓吾に攻撃を仕掛けようとしてるのは訓練を積んできた意地というところなのだろう。もちろん、悪足掻きに他ならないが。


「さて、とりあえず龍が戻って来るまでに片付けさせてもらうぞ。お前達がここに侵入したことがばれたら、龍がお前らを半殺しにして余計な急患が増えて、おまけに折角の紗枝との夜がなくなるからな」

「それってシャンパンだけの話よね?」

「まさか。全部貰う!」

「うわああああ!!!」



 それから約二分後、いくつかのチョコレートを持って戻ってきた龍はキョトンとした表情を浮かべた。


「な、なんだ!?」

「オウ、おかえり」

「お疲れ様、龍ちゃん」


 啓吾は窓を閉めながら、紗枝は箒とちりとりを持って龍を迎えた。


「おい啓吾、これは……」

「もう片付いたから気にすんな」

「いや、しかし……」

「屋根はうちで直すように頼んだから気にしなくていいわよ」


 二人とも何故かいつもより爽やかな笑顔を浮かべている。それも不自然なぐらいにだ。おそらく何者かが侵入したということは分かるのだが、何かを隠してるような気がする。


「啓吾、何か隠してないか?」

「いや、全く」

「でも侵入者がいたんだろ?」


 屋根が壊れてるのだ、そればかりはごまかせないので啓吾は認めた。


「まぁな。だが、光速で遠くまでぶっ飛ばしたからもう来ないだろ」

「ならいいが……」


 それでも釈然としないところがある。しかし、啓吾を普段から信頼しているため、龍は帰り支度を始めるのだった。


 そして、啓吾と紗枝は顔を見合わせるとホッと一つ溜息を吐き出す。二人の手に隠されていたのは銃弾、さらに棚やチョコレートの山で隠しているが、壁についた銃弾の跡……


「啓吾、隠し通せるかしら……」

「銃弾は粉砕出来るが壁はな……」

「でもね……」

「ああ、病院で発砲なんて知ったらさっきの奴らをもう一回しばきに行くからな……」


 とりあえず紗枝は手に持っていた銃弾を啓吾に渡し、啓吾はそれを重力で粉砕して塵へと変えた。あとはさっさと龍を病院の外に出してしまえば何とかなる。


 二人も掃除道具を片付けて白衣をロッカーにしまい、ようやく帰宅の準備が整った。チョコレートはさすがに置いて帰ることにした。



 それから龍と紗枝は約一週間ぶりに病院の外に出て、久し振りに夕暮れ時の風の冷たさに触れて開放感を覚える。しかし、話すことは先程の襲撃についてだが。


「だが、何でいきなり襲撃してきたんだ?」


 龍のもっともな質問に啓吾は考えるが、心当たりが全くといっていいほどない。むしろ、自分の力すら知らなかった雑魚を鷹は送り込んで来るほど愚かなのだろうか……


「さぁな。とりあえず、パーティー会場に行けば何か出てくるだろ。ああ、それと龍、シャンパンのモエには手を出すなよ」

「モエに?」

「ああ。まっ、詳しくは次男坊と桜姫が説明してくれそうだけどな」

「あら?」


 三人の前に高級外車が三台並び、運転手達が下りてきてドアを開ける。そして、その中にいた人物達を見た瞬間、龍は折角感じた開放感が一気に疲労感へと変わった。


 そう、彼は今からこのテロリスト達をまとめていかなければならないのである。


「龍兄貴達! お疲れ様!」

「ご苦労様でした」

「お疲れ様、皆さん」

「兄さん、早く乗ってください。女性陣達の支度もありますし」


 高校生組と柳、そして秀から告げられた言葉は極普通なのだが、龍は本気で逃げ出したくなった。しかし、もう逃げられないことは確定しているのだ。


 そんな龍を見て啓吾と紗枝は苦笑したが、時間は止まってはくれない。


「龍、俺と紗枝はこっちに乗るからお前は後ろの車に乗れ」

「分かった……」


 そして、ここからテロリスト達の作戦は開始する。啓吾は助手席に乗り込むと運転手に話し掛けた。


「今日は運転手の仕事もする気か、桜姫」

「ええ、主と沙南様を二人きりにするためでございますから」


 深く被っていた帽子のつばを上げて桜姫は微笑む。それにしても、こういった恰好まで似合ってしまうのはさすが美女というところか。


 そして、今この車に乗っていない末っ子組は、おそらく前の高級外車で闇の女帝に愛情を注がれていることだろう。


 当然、森と宮岡は運転席と助手席においやられているのだろうが……


「とりあえず次男坊、今まで入ってきてる情報を全て教えろ」

「はい」


 秀は微笑を浮かべて答える。


 日本一騒がしいバレンタインデーの夜は幕を開ける……




さぁ、いよいよ次回からパーティー会場へ。

テロリスト御一行様はかなり暴れてくれそうです。

すでに龍が疲労してるのは……

うん、君はかなり忙しくなるぞ(笑)


そして、いきなり襲撃された病院。

にしても啓吾兄さん、いくら仕事が終わったからって本当……

まぁ、敵をあぶり出すためにやったことですけど……


だけど啓吾兄さんと紗枝さん、本当にいいコンビです。

襲撃の証拠隠滅が手早い(笑)

そりゃ、病院で発砲なんて龍にばれたらまずいなんてものではないのでね。


さて、車の中で二人きりにされた龍と沙南ちゃん。

二人のバレンタインデーがどんなことになるのかも楽しみにしていてくださいね☆




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ