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第九話:スーパー

「夢華ちゃん、トゲがたくさんついてる胡瓜選んでくれる?」

「は〜い!」


 ビニール袋を手に取り、胡瓜を詰めていく光景はよくあるもの。ただし、注目を浴びてる理由は二人の愛らしさだけではない。


 スーパーでこれでもかというほどの大量の食材を買い込んでる沙南達の荷物持ちにされている翔と純は、周りからジロジロと見られていても特に気にした様子はなかった。


 ただし、そろそろ手に持てる量にも限界が近付いて来ている。買い物カゴの中身は溢れんばかりだ。


「沙南ちゃん、まだ買うのか〜?」

「もっちろん! 人数も多いし、翔君達が休日になっちゃったからすぐに食材も消えちゃうしね」

「はぁ〜、うちの経済状況大丈夫なのかよ……」

「大丈夫よ! 龍さんがよく働く医者で良かったわよね」


 龍から貰う給料の三分の二が食費に消えるという家庭ではあるが、それでも赤字にならないあたり沙南はかなりのやりくり上手である。


「あ〜あ、やっぱり今月も小遣アップは期待出来ないかなぁ?」

「春休みにバイトでもしたらどうですか?」

「バイトねぇ。だけど紫月はかなりはぶり良さそうだけど、一体喫茶店以外でどうやって稼いでるんだ?」

「まぁ、いろいろと」

「株とか?」

「そうですね」


 そうあっさり答えるが、秀にいろいろなことを教えてもらっているため、彼女の懐はかなり潤っていることは内緒である。おそらく、実態を知れば啓吾がうるさいだろうから……


 その時、紫月の携帯の着メロ鳴り響く。通常、彼女も女子高生なので自分が好きなアーティストの着メロを設定しているが、裏つながりの電話となると、何故か必殺仕事人のテーマになっている。理由は聞かないが……


「秀兄貴からか?」

「はい、少し失礼します。もしもし」


 紫月は一行から少し離れて会話する。結構過激な内容も秀から伝えられることがあるからだ。


『紫月ちゃん、いま皆と一緒ですか?』

「はい、スーパーへ買い物に来ていますが」

『そうですか。でしたら沙南ちゃんに今日の夕飯は皆でホテルと伝えてください。もちろん、兄さん達も一緒ですから』

「えっ、どういうことですか?」

『はい、実はですね……』


 秀の少し弾んだ声で聞く説明はけっして穏やかな内容ではないが、それ以上に彼は自分の好きなように事を運ぶ気満々である。それこそ柳が知ったら卒倒しそうな事まで考えているに違いない。


 それを頷きながら紫月は聞いているが、どうしても気掛かりなことはある。


「なるほど、ですが麻薬が絡んで来るパーティー会場に末っ子組が一緒だというのは龍さんに悪い気が……」

『ええ、それは僕も申し訳ないんですけど、昨日篠塚家が襲撃されてることからも一緒にいてもらった方が守れる状況ですし』

「警察も動いてるならあまり派手なことは出来そうにもないですけど……」

『その点は土屋さんに任せましょう。今回は現場に入るみたいですから身軽でしょうし』


 間違いなく責任は指揮官に押し付けるな、と紫月は直感でそう感じた。発砲は現場判断、失敗すれば指揮官の責任と彼なら軽く言ってのけるに違いない。


 事実、彼にはそれだけの実績と権力、おまけに現場の刑事達から厚い信頼を得ているのだから……


「分かりました。何時にどこへ行けば良いですか?」

『大丈夫ですよ。僕達も一旦家へ帰りますから』

「えっ、ですが折角姉さんと……」

『紫月ちゃん、すみませんが一度切ります。どうやらこちらはトラブル発生みたいなので』

「えっ!? 秀さん!?」


 それだけ告げて秀は携帯を切った。しかし、トラブルが起こっていたのは秀達だけではなかったのである。


「紫月、どうかしたのか?」


 会計が済んだことを伝えに来た翔は、なにやら様子がおかしい紫月に尋ねると、彼女は少し心配そうな表情を浮かべて答えた。


「秀さんと姉さんが何かトラブルに巻き込まれたみたいです。無事だとは思いますけど……」


 昨日、自分と戦ったものが相手となれば、負けることはないだろうが少々厄介な相手になるかもしれないと思う。それに少し苛立った声は柳に何かあったのではないかと思うわけで……


「大丈夫だって! 秀兄貴が負けるわけがないだろうし、柳姉ちゃんだって強いだろう?」

「そうですけど……」

「それにさ、兄貴達にトラブルが起こって俺達に起こらない訳もないみたいだ!」


 その瞬間! 紫月の横を通り過ぎようとした客がスタンガンで彼女を気絶させようと襲い掛かってきたが、翔が瞬時に気付いてスタンガンを蹴り飛ばした!


「ちぃ……!」

「おらっ!!」


 翔は思いっきりその客の顔面を殴り飛ばして気絶させ、近くで女性の悲鳴が上がった方へ駆け出した! どうやら、自分達もトラブルに巻き込まれたようだ。


「翔君、面倒ですから力は使わないで下さいよ!」

「使う必要なんてないね!」


 あの程度なら全く問題ないといわんばかりに勝ち気な笑みを浮かべて、翔と紫月は沙南達と一刻も早く合流しようと走れば、自分達の目の前に数人の男達が勢いよく床を滑って来てその上を飛んだ。


「あのクソガキ!」

「よっ!」

「グハッ!」


 純は軽々と男達の頬に回し蹴りを決めた。どうやら子供だと思って純に襲い掛かった結果、見事に返り討ちにあっているらしい。


 しかし、あくまでもここはスーパー。自分達の力がバレる事も騒ぎを大きくし過ぎて買い物に来れなくなるのも困る。


「紫月!」

「はい!」


 二人は乱闘騒ぎになってる中心に突っ込み、出来るだけ相手の急所に攻撃を叩き込んで敵を殲滅させた。もちろん、純より強いということを二人ともアピールしてだ。


「このガキどもが!!」

「やあっ!!」


 紫月は空手のお手本のような上段回し蹴りを決める。もちろん、若干風の力は纏っているが気付かれるものではない。


 そして、見事にそれが決まって全ての敵が片付くと、客達からは見事なパフォーマンスと取られたのか喝采が上がった。


「良いぞお嬢ちゃん!」

「兄ちゃんも強かったぞ!」


 平日の昼前ということで、どちらかと言えば老人などが多かったため、彼等の強さについて言及してくるものはいなかったが、店員達はそうもいかない。


「君達、一体これは何の騒ぎだね!」

「知らないやい! 俺達は買い物に来てたらいきなりスタンガンを持った客に襲われたから、正当防衛でこいつらを気絶させたんだ」

「その通りです。弟妹達にも危害を加えようとしてましたから、私達が守るのは当然のことです」


 決して嘘ではない。しかし、この店の責任者は店がこれだけの騒動になった責任を二人に追及した。


「だったら君達はそれだけ怨まれることをしているのか?」

「何を……」

「おかしいだろう! 一人ならまだしも、何でこんなに多くの不審者が!」

「警察だ!」


 突然入って来た数十人の警察官に店内はまた騒々しくなる。そして、その中に穏やかな笑みを浮かべてこちらにやってくる人物を発見した。


「あっ! 土屋の兄ちゃん!」

「やっ、翔君と紫月ちゃん、お手柄だったね。おかげでこちらも助かったよ」


 そして、土屋は店の責任者と向かい合い、きちんと納得が行くように説明を始めた。


「こちらにご迷惑をおかけして申し訳ありません。詳しくは明かせませんが、とある犯罪組織が動いていましてね、おそらくこの店に立て篭もろうとしたのでしょう。ですが、返り討ちにあったみたいですね、皆さん無事で何よりです」

「は、はぁ〜」


 どこからどう見ても警察のお偉いさんとしか見えない土屋の説明に、店の責任者はただ納得するしかなくなった。


 それから土屋は沙南を発見するとそちらに向かって歩き出す。


「沙南ちゃん、怪我はなかった?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「そうか。末っ子組がしっかり守ったんだね」

「えへへ!」


 末っ子組はくしゃくしゃと頭を撫でられて破顔する。そんなほのぼのした光景に心穏やかになりながらも、紫月はこの騒動について土屋に尋ねた。


「土屋さん、さっきの奴らは……」

「ああ、例の麻薬組織の奴らだ。数十人は街に潜り込んだと聞いて今、俺達はその検挙に当たるように命じられている。そして、皆を狙うと思って来たらビンゴだね」


 もちろん、部下達には刑事の勘と言っているのだろうが……


「とりあえず、君達を家まで送っていこう。その大量の荷物も一緒にね」


 その有り難い申し出に、沙南はクスクスと笑うのだった。




さて、今回は土屋さんがちゃんと警察官として仕事をしていたんだなぁ、という回でしたが、いかがだったでしょうか?


お話でも書かれていた通り、彼はかなりすごい人だったりしています。

まぁ、そのおかげで翔君達が不審な目で見られなくて済んだわけでしたが。


それにしてもドタバタとトラブルが起きて来そうな話になってきました。

あくまでもバレンタインデーのお話なのに、何でこんな事になったのか……


次回は秀のお話と、医者達にもスポットを当てたいなぁ。




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