電話
「もしもし」
「こんにちは。北星小学校の金子と申します」
「はい」
「えー、どうでしょう?一日様子を見られて」
「どうもこうも。家で落ち込んでいましたよ」
「そうですか。そうですよね」
「それで、先生の方は学校で何かしてくれたんですか?」
「いえ…特に何か行動に移したという訳ではありません」
「なんですって!うちの子がいじめられて学校を休んだっていうのに、何もしなかったってこと!どういうこと!」
「いや、とりあえず、雅彦さんの様子をもう少し見てから具体的な行動に移そうかと思っていました」
「それって遅すぎじゃありませんか?うちの子は、もう学校を休んでるんですよ!その間の勉強だって遅れるし。先生は責任とってくれるんですか?」
「いや、責任と言われましても…その間の学習については、僕がついて確実に教えますから」
「それって、明日も学校に来なくていいってこと?ふざけないでよ!すぐになんとかしなさいよ!」
「ですので、まずは雅彦さんの話を聞いたりしてみないと…」
「だから、うちの子はいじめられているって言っているでしょ!だからいじめている子を探し出して、謝らせに来るのが普通でしょ!」
「誰にいじめられているっていう話は出てきたんですか?」
「そんな話はしてないけど、誰かがいじめてるに決まってるんだから!多分、どうせ、あの悪ガキの加藤君とかが、みんなに声をかけていじめさせてるに決まってるわ」
「そうやって雅彦さんが言ってたのですか?」
「だから、そうじゃないけど、そうに決まってるって言っているのよ!もう、あんたじゃらちがあかないわ」
「すみません、とりあえず雅彦さんと話をさせてもらませんか?」
「今、雅彦と話したってどうせ『いじめなんてなかったんだろ!』って丸め込むんでしょ?今は雅彦とは話をさせる訳にはいかないわ」
「…そう言われましても、今の現状がつかめないまま、クラスで『雅彦さんをいじめている人?』と聞いても、クラスのみんなはピンと来ないと思いますよ」
「じゃあ、どうしてうちの子は学校を休まなきゃならなかったのよ。そうやってなんだかんだって言い訳しながら、結局いじめの事実ってのを隠したいだけなんでしょ?」
「いや、隠したいという訳ではないのですが、実際にどういう状況なのかを本人と話をしないわけには」
「何回言わせるのよ!雅彦はいじめられているって話をしているじゃない!本人がいじめられているって話をしているんだから、雅彦はいじめられているのよ!それはもう、疑いない事実なのよ!」
「ですから、こっちも何度も話しているように、それを詳しく雅彦さんと話をしたいと言っているんです。雅彦さんがどう感じているか、何を苦しく思っているのか、その辺りを担任としては聞いてみないと、対応もできません」
「何?私が話のわからない女だって言いたいの?」
「いえいえいえ、そんな話ではなくて…」
「ふざけないでちょうだい!雅彦のいじめを解決しないで隠そうとしただけではなく、私のことまでバカにするっていうの!そんな担任だもの、いじめが起きていても知らんぷりするのね」
「いえ、お母さんのことを悪く言っているのではなく…」
「もういいって言ってるじゃない!もういいわ。校長先生と変わりなさいよ」
「ですから、そうじゃなくて…」
「何、校長先生に変わる気もないの!もう本当に頭に来たわ」「いえいえ、今すぐ変わりますよ」
「もういいわ、覚悟しておきなさいよ」
「あっ、ちょっと待っ…」