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金子正一の話 2

「おはようございます。お電話変わりました、金子です。いつもお世話になっております」

「おはようございます。柏木です」

「どうされました?」

「いや、どうもこうもないんですけど」

「はぁ」

「うちの雅彦がね、学校行きたくないって言ってるんですよね」

「え!本当ですか?雅彦さんが…」

「なんか、今日なんかは、ちょっと鼻もぐずぐずしているから、様子を見るために休ませようかと思っているんですけどね」

「なんで雅彦さんは学校に行きたくないって言っているんですか?」

「みんなが僕の言うことを聞いてくれないって言っているんです。誰もわかってくれないんだって。もしかして、うちの子、いじめられているんじゃないですか?」

「いや、いじめられているというよりは…なんというか、イマイチ話がみんなと会わないところもありますよね」

「だから、それがみんなからはずされているってことじゃないんですか?」

「はずされているっていうのとも、またちょっと違うと思うのですが…」

「雅彦が話しかけても、周りのみんなはちゃんと話聞いてくれないで、僕はいつも一人ぼっちなんだって。休み時間とかも、僕がドッジボールが苦手なのわかっててドッジボールやろう、とか言うって言っているんですけど」

「それは、みんなそれぞれやりたい遊びもありますし」

「とりあえず金子先生から見て、いじめられてはいないんですね?」

「いや、ないと自分では思っているのですが…」

「どっちなんですか?自分のクラスなんだからわかるはずじゃないですか?」

「ないと、思います」

「絶対ですね。これで調べていじめがあったら、校長に言うだけじゃすみませんからね」

「話は子ども達に聞いてみますから。特に誰とうまくいかないって、雅彦さんは言っているんですか?」

「誰ってこともありません。みんなって言ってます。みんな」

「みんなって言われましても…クラスみんながいじめをしているって言っているんですか?」

「だからそうだって言っているじゃないですか!もういいです。とりあえず、今日は様子を見ます」

「あ、放課後、また時間がある時お電話してもいいですか?」

「はい。それでは」

ガチャン、ツーツー


 受話器を戻しながら、とうとう来たか…と胸が苦しくなった。電話中は頭の中が真っ白で、深く考えることができなかった。もうちょっとどうにかできなかっただろうか?少なくともこういう状態で電話を切ることにならない対応はなかっただろうか…?

 ふらふらした状態で自分の椅子に座る。雅彦か…確かに言っていることは思い当たる。雅彦の話は五年生にしてはポケモンの話題ばかりで、周囲には受け入れられていない。そして、舌ったらずな話し方で語彙も少ない。仲間外れ、とは言わないが、みんなそれぞれ少し距離を置いているのは事実だ。それをピンポイントで指摘されては返答に困る。

 その時、教頭と畠中が校長室から出てくるところが見えた。

 基本は「ほうれんそう」の「報告・連絡・相談」だ。しかし、自分で解決して何事もないように振る舞うという選択肢もあるか…自分の中の都合のいい考えが誘惑をしてくるが、正直に話した方が被害が少ないことも経験からわかっていた。どうする…?

 迷ったが、今すぐ報告するのはタイミングが悪すぎる。畠中先生の辞表話の後、期待していた若手教師からいじめの相談なんてされたら、ただでさえ薄い髪がハラハラと落ちて行ってしまうだろう。胃も悪いと聞いている。今は話すべきではない、そう決断した。

 決断すると、気が楽になった。都合が悪くなる前に教室に避難することにしよう。教室で子どもの対応をしていた、という話にすれば、何かあった時も対応できるだろう。

 自分の身を守る術は、この五年間で学んだつもりだ。今回も乗り切れるとは思う。大丈夫だ。

 教室に向かう時、畠中先生の方をチラっと見た。女の子が教室でケンカが起きていると言っている。教頭の顔が曇るのが見えた。当分報告するのは遅くなりそうだ。


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