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浜田孝の話 2

真っ暗になった学校を背に車に乗り込む。車は、まだ家族が多かったころにかったミニバンだ。一人では大きいし、燃費も悪い。そろそろ買い替えてもいいのだが、その踏ん切りがつかないのは、心のどこかに未練を感じているからだろうか。

 エンジンをかけ、煙草を吹かす。一つ大きく息を吐いて、煙草に火をつけた。

 金子先生の対応は遅い。仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、不登校の電話を受けた初日は様子を見るだけで具体的な手立てを取らなかった。夜に学校長と二人で今後の対策について話をしたものの、次の日に取った行動と言えば子どもにプリントを持たせるだけ。具体的な行動を取っていない。あれでは、解決するものもしないだろう。

 だが、こっちも具体的なアドバイスをする訳にはいかない。そんなことしてしまっては、こっちの責任になってしまいかねない。「管理責任」と天秤にかけたとしても、下手に首を突っ込まない方がいいと思う。

「金子先生が単独で取った行動なので……」

という、知らぬ存ぜぬで通せば問題ないだろう。

 いじめの話を受けてから、今日で一週間。当の柏木さんからの電話もなくなり、音信不通。金子先生はどう動いていいかわからずに手をこまねいているようだが、そろそろ何かが起きる時だろう。

 とりあえず柏木さんから直接こちら側、管理職に電話がかかってくることは予想される。電話が来てしまったら我々管理職も含めて対応をしていかなければならない。そうなったら、金子先生には五年生の担任を外れてもらおう。そして、俺がクラスに入ってこの問題を解決する。そうすれば、その評価たるや相当のものだろう。来年度の人事は二月、まだまだ時間はある。

 一本目の根元ギリギリまで吸って、灰皿に押し付ける。俺が若いころはどういう先生だっただろうか?金子先生のようにもがいて苦しんでいた時期もあったかも知れない。しかし、昔はもう少しやりやすかったようにも思う。保護者も先生、先生、と尊敬の眼差しで見てくれていたように思う。俺が言ったことは絶対なんだ!と家でも教えてくれていただろう。それが今となっては、学歴の高い保護者からは、「所詮、先生なんだろう」とさげすまれ、逆に学歴の低い保護者からは、「簡単な仕事で高い給料もらいやがって、世間知らずのくせに」と妬まれる。嫌な世の中になった。

 だからこそ、俺は校長に憧れる。校長になれば、教職という職業の中では一番上に立てる。俺は偉くならなきゃならない。偉くなりたい。

 畠中先生はあれから辞めるとも言わなくなった。そっちの方も、注意が必要だろう。一年生のクラスも学級崩壊状態だ。あの後にクラスを持つ人は大変だろう。

 その時には、俺はこの学校にいないから、知ったことではないが。

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