320円の宝玉
「毎日魚ばかりだと、
葉物が欲しくなるねぇ…」
もりもりと魚を食べながら、
栄養バランスを考える。
「町があっちにあるって言ってたねぇ。
八百屋があるといいんだけんど…」
よいしょ、と立ち上がると、
荷物をひとまとめにして持つ。
拠点を変える気はないが。
「大事な物は肌身離さず…てね」
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町に到着。
市場で値札を見る。
「やっぱり円じゃないねぇ。
さて、どうしたものか…」
避難所でカード類が使えないのは
当たり前だ。
しかし、現金まで使えなくなるとは。
信用ある人に尋ねたい。
そうなると…
「お巡りさん、探してみるかい」
そして交番っぽい建物に入ってみた。
――冒険者がいっぱいいた。
交番だと思って入ったのだが。
「市役所も、最近は賑やかだねぇ」
きょろきょろ窓口――受付を探す。
「まあ、信用できる場所なら、
どこでもいいんだけんど」
受付に行くと、受付嬢が弾かれたように立ち上がる。
「少々お待ちください!」
奥から、上司のような人が出てくる。
トミを見ると、ピン!と背筋を伸ばす。
「ど、どのようなご用件でしょうか?」
丁寧な言葉遣い。
心なしか、冒険者もざわめいている。
「野菜を買いたいんだけんど、円が使えなくてね、
どこで交換したらいいか、分かるかい?」
「エン…?」
「あー……じゃあ、
物々交換かのぅ?」
ちら、と手首を見て
「これは売れるかい?」
梵字彫りの水晶を見せる。
「その宝玉は…」
「宝玉?」
「エレーネ!フォルテナ!
ちょっと来てください」
支配人が冒険者に声をかける。
2人の女性が受付にくる。
「修道女さんと…魔女さんかい?」
いかにも童話に出てきそうな出で立ちだった。
若かったが。
「賢者様、その腕輪を見せていただけますか?」
「賢者…?そりゃ私のことかい?」
首をかしげながら、
腕からパワーストーンのブレスレットを外す。
「この宝玉を知っているか?」
支配人が2人に尋ねる。
「いや、こんな印が入った珠は見たことないよ」
魔女っぽい女性が答える。
「あー、これは梵字の水晶だよ」
「ボンジ?」
「これは『カーン』。
不動明王さんの梵字だよ」
「フドーミョーオー?
古の神の、御印ですか?」
修道女が目を見開く。
「いにしえ…?みしるし…?」
トミは首を傾げた。
「守護石だから、
そういうことになるかのぅ?」
「神のご加護が?」
「そうさね。
まあ、ただの縁起担ぎだよ」
後半は聞いていなかったようだ。
「これを!
この珠を1つ譲っていただけませんか?」
魔女がじゃらりと、
袋から金色の貨幣らしい物を出す。
「いいが…そんな高級なもんじゃないし」
「古の神の加護の御印が高級じゃない…?」
「手芸屋さんで、1粒320円だよ」
他の修道女や魔女が、
わらわら寄ってくる。
「これは何の神の?」
なにやら盛り上がっている。
そしてトミの前には、ブレスレットの代わりに、
こんもり金貨銀貨が。
「あんれまぁ!
こんなにいいのかい?」
「これでも安いくらいです!」
修道女と魔女達が、声を合わせて言った。
「じゃあ、ありがたくもらっていくよ」
「ジャミール!ちょっと来てください」
「呼んだかい?」
支配人が呼ぶと、
屈強そうな大柄の男が現れる。
「この御婦人の護衛をしてくれ」
「分かった」
男は、言葉少なに答える。
トミはことの成り行きを、キョトンと見ていた。
トミとジャミールは、ギルドを出ると市場へ向かう。
「今日はけんちん汁にしようかねぇ」




