デート
「デートしようよ」
この言葉を発するのに時間はかからなかった。凪はスマホの画面に向けて元気よく声を発していた。まるで断られる事はないだろうという自信満ちた発声だった。今日は7月27日土曜日。快晴に恵まれ絶好のデート日和。凪は裕君をデートに誘った。
「いいけど」
「貸し1ね。私が声かけなかったら裕君絶対外でないでしょ」
「うるせーな。今日は家で勉強する予定だったんだけど?」
「いいじゃんいいじゃん!たまにはさこうぱーっと遊ぼうよ!」
夕暮れのアウトレットは、人でごった返していた。夕焼けに染まった空が、なお一層深くなる暗さを想像させてくる。凪と裕はアウトレットの入り口で落ち合った。
「今日は何買うの?」
「決めてない」
ぶっきらぼうな裕に、凪は続ける。
「昔ね、ここお母さんと来たことがあるの。その時はまだ小学生だったんだけど。」
「そっか」
「ここから見る海がきれいだったなぁ」
「凪って何で吹奏楽部に入ったんだ?」
突然の質問に、凪は驚いた。
「え?……そりゃあ、裕君を応援するためだよ。野球、辞めちゃったでしょ?かなしかったなぁ。ねえ何で辞めたりしたのよ」
「それは、気分だよ気分。野球ってガラじゃ無いっつうか。」
裕君は本当にそれでいいの?本音が少し垣間見えた気がした。裕君はおそらく本気で言っていない。そう確信していた。
「ごめん変なこと聞いちゃったね」
全然変な事じゃない。むしろ厚かましいほどにおせっかいな私の性格からして、この質問は正解だったはずだ。ショッピングモールの大通りを歩きながら、私は考えた。もし裕君が野球を辞めずに部活を続けていたら、私は嬉しいのだろうか。確かに、裕君を応援できるのは嬉しいことだが、こうして休日にショッピングモールやアウトレットに出かけることも無かっただろう。でもそんな事、明らかに利己的な考えだ。裕君は本当は野球がしたかったのだろうか。
「俺がいないから、吹奏楽辞めるとか言うなよ?」
「辞めないよ。私は好きで続けてるんだもん。」
「じゃあ卒業まで辞めないに何賭ける?」
「そういうのを賭け事にするもんじゃありません」
私だって辞めたくなる時はある。でも、白熱した野球の試合で応援歌を演奏している時の景色が見たくて、この部活動を続けている。もう夏の大会は終わってしまったのだけれど。
Shipsでチノパンを見ながら、二人はお互いを意識することも無く、ラフな気持ちで買い物を楽しんでいる。ただ時だけが過ぎ去っているように思えた。
ベンチでスタバのフラペチーノを飲んでいる時だった。
「俺、引っ越すんだよね。」
裕君は突然真剣な声で凪に話す。
「母の施設移ることになって、それで9月から別の高校に通うことになった。」
「え、何でよ。そこからうちの高校通えばいいじゃん!」




