3/5
飯尾篤紀
篤紀の家は料亭だ。3代続く料亭の跡取り息子として育てられた。小さい頃から料理の手伝いをしてきた。そんな篤紀には、花火大会に行く暇などないはずなのだが、今年は何故か行きたいらしい。
凪は不思議そうに言葉を返す。
「いいけど、篤紀君実家の手伝いで忙しいんじゃないの?」
「それがさぁ行くって聞かないんだよね。絶対行きたい!なんて言っちゃってさ。」
香織の言葉に少しムスッと来た篤紀は香織のスマホを横取りした。
「もしもし篤紀です。伊藤さん今年浴衣担当だから。」
「そうだよ。だから着付けお願いしてあるの。今日なら篤紀君の浴衣もお願いできるかも」
浴衣の着付けは18時からだ。今からオーダーすれば篤紀君の分も間に合う。
「ごめんじゃあ俺の分の浴衣も頼むよ」
そう言うと篤紀は香織にスマホを返した。
「集合は17時に駅前で良い?」
「いいよ。」
「じゃあ決まりね!今年は3人で行こう。」
凪は知っていた。こんな何気ない日常が、本当はかけがえのない瞬間なんだって。10年後も同じように、また皆で集まったりできないんだって。分かってる。分かっているからこそ、余計に裕君の事が気がかりでならない。本当は4人で行きたい。その思いは確実に凪の心にあった。




