8月の風
家に帰ると凪は、母親に元気よくただいまを告げた。そのまま2階に上がると、真っ先に取り出したのは日記帳だった。
“8月4日”花火大会の日、まだ予定は詰め込まれていない。一瞬の迷いがあったが、大きく花丸をつけて花火大会と書いた。8月の風が吹き始めている。今日は7月24日だ。
凪と裕君の間には、深い関係がある。小学校からの幼馴染で、学童保育所の時から一緒だ。何をする時も一緒にするようになったのは小学校後半になった時で、初めのころはお互いぎこちなかった。そんな二人がよく遊ぶようになったのも、8月のころだった。
凪が小学校3年生の時、学童保育所で夏祭りに屋台を出した。マーブルに彩られた水風船を2人で運んだ。風船釣りの出し物は大成功で、多くのお客さんが足を止めた。裕君はお祭りに大はしゃぎで、凪は逆に冷静だった。この頃の裕君はいつも笑顔ではしゃぐ無邪気な印象だった。
夕暮れ時、凪はお茶の間で牛乳を注いでいた。夏の蒸し暑さをかき消すように牛乳を飲む。この日は32℃を記録する猛暑日となった。そんな時だった。
ポロロンパンポン
着信音が鳴る。相手は同じクラスメートの香織だった。牛乳をこぼさない様にそーっと置きながら、落ち着いた様子で電話に出る。
「あーもしもし香織?どうしたの」
「凪!今ね篤紀君と一緒にいるの。今年の花火大会、凪も来るでしょ?篤紀君も誘っていいかな?」
篤紀君と呼ばれた男は、同じクラスメートで凪をよく知る人物である。




