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夏の始まり

一輪の自転車が風をなびかせて走る。公道を走る時は車道側を走るよう教育を受けた凪は、意気揚々と坂道を下っていた。今日で一学期が終わる。その先に待つのは晴れ晴れしいほどに輝く夏休みだ。凪は気分が良くなったのか、口笛を吹き始めた。どこかで聞いたことのあるその音色に乗せ、小鳥たちがこだまする。

凪の行く高校は丘の上にある。自転車で片道30分の距離だが、坂が多く通学は至難を要する。いつも自転車に乗って通学を試みるものの、途中で体力に限界が来て徒歩になってしまう。そんな坂道を、凪たちは“いてこい坂”と呼んでいる。いてこます坂を略していてこいと名付けた。そんな坂道を今日は勢いよく下っていく。「なんて良い日なんだ」と凪はそう思った。

「裕くん!」

「おー凪!今帰り?」

「そうだよ。今日は帰ったら浴衣の着付けがあるの」

裕くんと呼ばれた高杉裕は、伊藤凪の幼馴染だ。

「今年の花火大会、裕くんは行くの?」

気になっている。すごく気になっている。だって、一緒に行きたいから。

「いかねーよ」

裕くんは行かないらしい。寂しい、そう思った。単純に好意があるわけでは無いが、幼馴染として、もう一緒に行ってくれないのかという気持ちが強かった。

「そうですかー」

そう返すと自転車のギアを上げて颯爽と走り出した。私の夏は、まだ始まったばかり。


今年の夏は、忘れられない夏にします!

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