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異世界転生したら知識神のスキルがチートすぎて、 冒険者なのに国家と神と魔王に目をつけられました ー王都・教会編ー  作者: 蒼月アルト


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第8話 聖女候補

教会の鐘は、

剣の音よりも重い。


それを、

王都に来て初めて理解した。



「……来たわね」


朝、宿の食堂で

リリアが低く呟いた。


「教会からの使い?」


ミルフィが、

尻尾をぴくりと揺らす。


「“お願い”だそうだ」


その言い方で、

察しはつく。


お願い。

保護。

観測。


王都における、

最終段階。



教会区画は、

王城よりも静かだった。


白い石造りの建物。

高い尖塔。

人の気配が、薄い。


なのに――

圧がある。


《知識神の演算式アーカイヴ》が、

自動的に反応しかけ、

すぐにノイズに弾かれた。


(……拒否されてる?)


解析不能。


今までにない感触だ。



迎えに出てきたのは、

若い修道女だった。


「こちらへ」


声は柔らかい。

歩き方も丁寧。


だが、

こちらを“導く”動きに

一切の迷いがない。


(……慣れてる)


英雄候補を迎えることに。



通された広間は、

装飾が少なかった。


豪奢さも、

威圧もない。


ただ、

無駄がない。


「……落ち着くけど、

落ち着かない」


ミルフィが、

小声で言う。


同感だ。


ここは、

戦わせない場所だ。



「お待たせしました」


澄んだ声が、

広間に響いた。


振り向く。


白い衣。

淡い銀髪。

伏せがちな瞳。


年若いが、

どこか年齢を感じさせない佇まい。


「ルナ=セレフィアです」


名を聞いた瞬間、

《アーカイヴ》が

強く反応――

しかけて、沈黙した。


(……視えない)


情報が、

掴めない。


こんな相手は、

初めてだ。



「英雄候補、

レオン=アルケイオン様」


呼び方が、

丁寧すぎる。


「本日は、

お越しいただきありがとうございます」


「招かれたので」


俺は、

そう答えた。


彼女は、

小さく頷く。


「ご安心ください。

本日は尋問でも、

審査でもありません」


「では?」


「……観測です」


はっきりとした言葉。


周囲の空気が、

わずかに張りつめる。



「あなたは、

異界から来た魂」


「はい」


「特別な力を持ち、

冒険者として活動している」


「そうですね」


事実確認。


だが、

問いの形をしていない。


「私たちは、

それを把握する責任があります」


「管理、

という意味で?」


一瞬だけ、

ルナの睫毛が揺れた。


「……保護、

という意味で」


言葉を選んだ。


それが、

逆に伝えている。



「一つ、

お聞きします」


ルナは、

俺を真っ直ぐ見た。


「あなたは、

英雄になりたいですか」


王都の宴でも、

何度も聞かれた質問。


だが、

意味が違う。


ここでは、

答えが記録される。


「……なりたくありません」


正直に答えた。


一瞬、

空気が止まる。


「理由は?」


「選ばれた役割より、

自分で選びたい」


短い答え。


ルナは、

視線を落とした。



「……そうですか」


その声は、

どこか安堵しているようにも

聞こえた。


「ですが」


顔を上げる。


「あなたは、

すでに“選ばれています”」


《アーカイヴ》が、

強いノイズを検知する。


(……神か)


だが、

神の声とは違う。


もっと――

人間的だ。



「教会は、

神の意思を伝えます」


ルナは、

淡々と続ける。


「同時に、

世界の安定を守る役目です」


「安定のために、

英雄を管理する?」


問いかける。


「……必要な時もあります」


否定しない。


正直だ。


「レオン様」


彼女は、

少しだけ声を落とした。


「あなたは、

“予定外”です」


その一言で、

全てが繋がった。



教会は、

英雄を想定している。


数。

役割。

消費の仕方。


だが――

俺はその枠に

収まらない。


《アーカイヴ》が、

神の領域に触れかけ、

弾かれる。


(……なるほど)


俺が危険視される理由が、

はっきりした。



「今日は、

これで終わりです」


ルナは、

深く頭を下げた。


「今後、

定期的にお話を

伺うことになるでしょう」


それは、

宣告だった。



教会を出る。


外の光が、

やけに眩しい。


「……静かで、

怖かった」


ミルフィが、

正直に言う。


「剣より、

嫌な感じ」


「同感だ」


あそこは、

敵意がない。


だからこそ、

逃げにくい。



歩きながら、

俺は確信する。


王都の檻は、

外側から閉じる。


教会の檻は、

内側から閉じる。


「……厄介なのは、

こっちだな」


《アーカイヴ》が、

静かに結論を出す。


――教会は

――排除しない

――管理する


英雄を。


思想を。


そして――

自由を。


聖女候補ルナ=セレフィア。


彼女は、

敵ではない。


だが、

味方でもない。


その曖昧さこそが、

この教会の

最も危険な武器だった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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