第7話 王都の檻
王都《ルミナス=アーク》に滞在して、
七日目。
最初に感じた違和感は、
もう“確信”に変わっていた。
――自由が、
少しずつ削られている。
◆
「……警備、
増えてない?」
朝、宿の食堂で
ミルフィが尻尾を揺らしながら言った。
「昨日までは、
いなかったよね?」
「増えている」
即答したのは、
セレナだった。
「配置が変わっています。
巡回の間隔も短い」
《知識神の演算式》を
起動せずとも、分かる。
宿の前。
通りの角。
屋根の上。
視線が、
確実に増えている。
(……始まったな)
◆
「英雄候補殿」
外へ出ようとした瞬間、
衛兵に声をかけられた。
「本日は、
行動予定をお聞かせください」
丁寧な口調。
だが、
選択肢はない。
「市内の散策を」
「承知しました。
護衛をお付けします」
護衛。
それは、
王都における
最も柔らかい拘束だ。
「……結構です」
俺は、
穏やかに断った。
「冒険者ですので」
「規則です」
規則。
便利な言葉だ。
◆
結局、
護衛は付いた。
二名。
距離は取るが、
常に視界に入る位置。
ミルフィが、
小声で囁く。
「ねえ、
これってさ……」
「うん」
「檻、だよね」
否定できない。
◆
街を歩く。
昨日まで入れた通りに、
今日は入れない。
「立ち入り禁止です」
「理由は?」
「上からの指示で」
上。
それが誰かは、
誰も言わない。
国家か。
貴族か。
あるいは――
教会か。
◆
「……やり方が、
綺麗すぎますね」
セレナが言う。
「力を使わせないための、
最適解です」
剣を抜けば、
危険人物。
魔法を使えば、
監視対象。
何もしなければ、
ただの“従順な英雄候補”。
王都は、
戦わせないことで
英雄を無力化する。
◆
午後。
リリアが、
深刻な顔で戻ってきた。
「……王城から、
“お願い”が来た」
「内容は?」
「移動の事前申請」
一瞬、
空気が止まる。
「……冒険者に?」
「英雄候補だから、
だそうだ」
それは、
もはや招待ではない。
管理だ。
◆
「……怒らないの?」
ミルフィが、
不安そうに聞く。
「怒るよ」
正直に答える。
「でも、
今怒ったら負けだ」
王都は、
感情的な英雄を
待っている。
それを理由に、
檻を完成させるために。
◆
夕方。
王城の外壁を見上げる。
高く、
分厚く、
隙がない。
「……昔は、
守るための壁だったんでしょうね」
アイリスが言う。
「今は?」
「守る、
という名目で……」
「閉じ込める」
続きを、
俺が言った。
◆
その夜。
部屋に戻り、
《アーカイヴ》を起動する。
王都全域。
監視網。
通行制限。
全てが、
一つの図として
浮かび上がる。
完璧だ。
逃げ道も、
反抗の余地も、
最小限に抑えられている。
(……英雄を
暴れさせないための都市設計)
感心するほどだ。
◆
だが。
《アーカイヴ》が、
一つだけ
“歪み”を示した。
――教会区画
――情報ノイズ
――未解析領域
(……まだ、
踏み込むなってことか)
国家の檻は、
理解できる。
だが、
理解できないものは
より危険だ。
◆
扉をノックする音。
「……レオン」
リリアだった。
「最悪を想定しろ」
低い声。
「次は、
“保護”という名の拘束だ」
「教会か」
「ああ」
短い会話。
だが、
重い。
◆
窓を開ける。
王都の夜景が、
美しく広がる。
灯り。
秩序。
静寂。
完璧な都。
だが、
その美しさは――
逃げ場のなさでもある。
「……英雄は、
ここでは生きられない」
呟く。
正確には、
考える英雄は、だ。
◆
《アーカイヴ》が、
一つの結論を出す。
――現状維持
→ 完全拘束
→ 名誉職ルート
――抵抗
→ 強制排除
→ 記録抹消
(……どちらも、
却下だ)
だから、
第三の選択肢を選ぶ。
「……まだ、
出る時じゃない」
だが、
準備は始める。
この檻が
完全に閉じる前に。
◆
その時。
遠くで、
教会の鐘が鳴った。
一度。
二度。
今までより、
少し近い。
《アーカイヴ》に、
強いノイズ。
(……見られてる)
王都の檻は、
もう完成しかけている。
次に来るのは――
観測。
剣でも、
政治でもない。
もっと静かで、
逃げにくいもの。
レオン=アルケイオン。
英雄候補。
その立場は、
今この瞬間、
“管理対象”へと
書き換えられつつあった。
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