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異世界転生したら知識神のスキルがチートすぎて、 冒険者なのに国家と神と魔王に目をつけられました ー王都・教会編ー  作者: 蒼月アルト


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第3話 腐敗の構造

王都《ルミナス=アーク》は、

朝になると“正しさ”を装う。


白い石畳は清掃が行き届き、

朝日に照らされて眩しく輝く。

街路樹は等間隔に並び、

通りを行き交う人々の服装も整っている。


――完璧だ。


少なくとも、

遠目には。


宿の二階、窓辺に立ちながら、

俺は王都を見下ろしていた。


《知識神の演算式アーカイヴ》が、

視界の端で静かに待機している。


起動すれば、

この都市のすべてが見える。


金の流れ。

権力の集中点。

誰が、どこで、どれだけ搾取しているか。


――すべて、数式になる。


だが。


「……見れば見るほど、

綺麗すぎるな」


ぽつりと呟く。


セレナが、

窓枠にもたれながら頷いた。


「はい。

異常なほどです」


「循環してない、よな」


「ええ。

富も、責任も」


王都は、

流れているように見せて、

上で止まっている。



「今日は、

特に予定はありません」


リリアが言った。


「だからこそ、

歩きましょう」


王都は、

“見られる”場所と

“見せない”場所がはっきりしている。


だから、

歩く。



大通りは、

活気に満ちていた。


商人の声。

行き交う馬車。

警備兵の巡回。


市民は、

王国を信じている。


少なくとも、

信じる“ふり”をしている。


だが――

一本裏へ入ると、

空気が変わった。


舗装の剥げた道。

補修されない壁。

人々の視線が、

こちらを一瞬で逸らす。


「……同じ王都なのに」


ミルフィが、

耳を伏せる。


「匂いも違うね」


「気づいたか」


ここは、

管理されていない。


いや、

管理する価値がないと

判断された場所だ。



露店の前で、

言い争いが起きていた。


「だから、

払ったって言ってるだろ!」


中年の商人が、

必死に訴えている。


「記録にない」


兵士は、

淡々と言った。


「もう一度払え」


「そんな金は――」


兵士は、

ため息をつく。


「なら、

営業停止だ」


周囲の人間は、

目を伏せた。


《アーカイヴ》が、

反射的に情報を提示する。


――二重徴税

――記録改竄

――上位役人への上納


(……典型例)


剣を抜けば、

三秒で終わる。


証拠もある。

論理も揃っている。


「……レオン」


アイリスが、

強く拳を握る。


「止めないんですか」


その声は、

震えていた。


正義感。

怒り。

恐怖。


全部混ざっている。


「止められる」


俺は、

静かに答える。


「でも、

止めない」


アイリスが、

息を呑む。


「どうして……!」


「ここで兵士を叩いても、

明日には別の兵士が立つ」


「でも!」


「構造が残る」


冷たい言い方だ。


だが、

嘘はない。



腐敗は、

悪意だけでできていない。


小さな妥協。

見て見ぬふり。

仕方がない、という言葉。


それらが積み重なって、

当たり前になる。


「正義を振るうなら、

全員を敵に回す覚悟がいる」


「……それは」


アイリスは、

言葉を失う。


「英雄なら、

それをやるべきだと

思ってるか?」


問いかける。


「……はい」


正直な答えだ。


「なら、

英雄は長生きしない」


《アーカイヴ》が、

過去の記録を提示する。


――英雄A

――汚職告発

――暗殺未遂

――名誉剥奪


――英雄B

――改革派

――孤立

――記録抹消


「英雄は、

構造を壊す前に壊される」


それが、

この王都のやり方だ。



昼過ぎ。


今度は、

孤児院の前だった。


貴族の馬車。

演説。

拍手。


「素晴らしい施策です!」


人々が、

口々に称える。


《アーカイヴ》が、

裏側を映す。


――寄付金:表向き

――回収:増税

――実質利益:黒字


「……すごいね」


ミルフィが、

ぽつりと言う。


「ちゃんと

良いことしてる“風”」


「それが一番、

厄介だ」


誰もが、

少しずつ救われているようで、

誰も本当には救われない。



「嫌い?」


ミルフィが、

俺を見上げる。


「この街」


少し考える。


「嫌いじゃない」


「じゃあ、

なんで何もしないの?」


「何もしないんじゃない」


歩きながら言う。


「見て、覚えてる」


英雄として暴れれば、

拍手される。


だがそれは、

王都が用意した“役”だ。


俺は、

その役を引き受けない。



夕方。


裏路地で、

クラリス=アーデンと会った。


「随分と、

見て回っていますのね」


「観光です」


「嘘」


即答。


「……分かってしまった?」


「ええ」


彼女は、

一瞬だけ視線を逸らす。


「それでも、

何もしない」


「今は」


「臆病?」


「賢いだけです」


その答えに、

彼女は苦笑した。


「……英雄らしくない」


「英雄じゃないので」



夜。


宿の部屋で、

《アーカイヴ》を展開する。


王都の構造図が、

光の線で浮かび上がる。


完璧だ。


完璧すぎる。


(だから、

英雄が消える)


王都は、

英雄を歓迎する。


だが、

英雄が“自分で考える”と、

排除する。


「……理解した」


剣で斬る腐敗じゃない。


これは、

檻だ。


英雄を守る檻。

同時に、

自由を奪う檻。



窓の外で、

教会の鐘が鳴った。


低く、

重く、

規則正しい。


《アーカイヴ》が、

ノイズを拾う。


(……国家だけじゃないな)


正義を語り、

秩序を守る者たち。


もう一つの管理者。


「次は、

教会か」


王都という檻は、

想像以上に深い。


そして、

俺はその中心に

立たされている。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

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