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異世界転生したら知識神のスキルがチートすぎて、 冒険者なのに国家と神と魔王に目をつけられました ー王都・教会編ー  作者: 蒼月アルト


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第2話 値踏みの宴

王城に足を踏み入れた瞬間、

空気が変わった。


重い。


それも、

物理的な圧ではない。


視線。

沈黙。

立場。


それらが折り重なった、

王都特有の重さだ。


「……場違いだな」


ミルフィが、

小声で呟く。


「こんなに広いのに、

息が詰まりそう」


「分かる」


俺も同じ感覚だった。


ここは、

戦場よりもずっと危険だ。



広間には、

すでに多くの貴族が集まっていた。


豪奢な服。

余裕のある笑顔。

だが、その裏にあるのは――

計算だ。


(始まってるな)


《知識神の演算式アーカイヴ》が、

勝手に反応しそうになるのを抑える。


ここで深く覗けば、

“切り札”を見せることになる。


まだ、

その時じゃない。



「英雄候補殿」


そう呼ばれるたびに、

背中が少しだけ冷える。


この場では、

名前よりも肩書きが優先される。


「冒険者としては、

異例の速度で名を上げたそうですね」


「地方ダンジョンの攻略も、

かなりの成果だとか」


質問は丁寧。

声も穏やか。


だが、

内容は一貫している。


――どれほど使える?


「運が良かっただけです」


俺は、

同じ答えを繰り返す。


「仲間に恵まれました」


それ以上は、

語らない。


英雄を語るほど、

この場では不利になる。



その時、

一際はっきりとした視線が向けられた。


「……あなたが、

レオン=アルケイオン」


赤いドレスの令嬢。


堂々とした立ち姿。

一切の遠慮がない視線。


「アーデン侯爵家の長女、

クラリス=アーデンです」


名門。


しかも、

隠す気がないタイプ。


「率直に聞きますわ」


周囲の貴族が、

息を呑む。


「あなたは、

英雄になるおつもり?」


(直球だな)


「考えたことはあります」


事実だ。


「ですが」


一拍、置く。


「英雄になるかどうかは、

俺が決めることじゃない」


ざわり、と

空気が揺れた。


「……どういう意味かしら?」


「英雄は、

戦場で決まる」


俺は、

ゆっくり言葉を選ぶ。


「でもこの場所で決まる英雄は、

戦う前から役割が決まっている」


沈黙。


《アーカイヴ》が、

過去の事例を静かに提示する。


――英雄A:戦後、名誉職

――英雄B:政治利用後、失脚

――英雄C:記録抹消


(……やはりな)



「大胆な発言ですわね」


クラリスは、

表情を崩さない。


「それでもあなたは、

王都へ来た」


「ええ」


「矛盾していません?」


「だから、

見に来たんです」


その答えに、

彼女の目がわずかに細くなった。


「……危険な人」


それは、

評価でもあった。



宴は続く。


だが、

先ほどまでのような

露骨な勧誘は減った。


代わりに増えたのは、

距離を測る視線。


「……値踏み、終わった感じ?」


ミルフィが、

俺の袖を引く。


「いや」


首を振る。


「まだだ」


これは、

第一段階に過ぎない。



宴の終わり際。


老貴族が、

ぽつりと言った。


「英雄とは、

便利な存在です」


その言葉に、

誰も反論しなかった。


それが、

この王都の答えだ。



宿へ戻る道すがら、

アイリスが口を開く。


「……怖かったです」


「正直だな」


「剣なら、

まだ分かります」


彼女は、

拳を握る。


「でも、

ああいう場所は……」


「慣れなくていい」


俺は、

そう答えた。


慣れた瞬間、

飲み込まれる。



部屋に戻り、

一人になる。


《アーカイヴ》が、

静かに待機している。


――解析可能

――政治構造

――派閥相関


(……まだ、使わない)


ここでは、

剣も魔法も切り札にはならない。


必要なのは、

理解と距離感だ。


王都は、

俺を英雄にしたがっている。


だからこそ――

俺は、

英雄にならない。


宴は終わった。


だが、

檻は、

確かに閉じ始めていた。

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