第1話 王都へ来てしまった理由
この物語は、
「英雄になることを拒んだ冒険者」の記録である。
前作『異世界転生したら知識神のスキルがチートすぎて、冒険者なのに国家と神に目をつけられました』では、
主人公レオン=アルケイオンが異世界へ転生し、
《知識神の演算式》という力を得て、
冒険者として成長していく過程が描かれました。
もし本作を、
この巻から読み始めたとしても問題はありません。
レオンは、
剣や魔法で無双する英雄ではありません。
世界の仕組みを理解してしまったがゆえに、
「英雄」という役割そのものを疑う存在です。
この第2巻では、
舞台を王都へと移し、
英雄を管理しようとする国家
神の名のもとで秩序を優先する教会
そして、その狭間に置かれた“英雄候補”
という構図が、
はっきりと描かれていきます。
すでに前作を読んでくださった方にとっては、
冒険者として歩んできた日々が、
ここでひとつの答えを求められることになるでしょう。
そして、
この巻から読み始めた方には、
「なぜこの男が、
剣を抜かずに戦おうとするのか」
その理由が、
少しずつ明らかになっていきます。
これは、
強さの物語ではありません。
選ばれた役割から、
自由になろうとする物語です。
それでもなお、
戦いは避けられない。
英雄候補として名を刻まれた男が、
王都という檻の中で、
何を見て、何を選ぶのか。
その答えを、
どうか見届けてください。
この世界には、
英雄が必要とされる周期がある。
魔物が増え、
国が揺らぎ、
戦争の兆しが見えた時――
神々は異界から魂を呼び寄せる。
そうして生まれるのが、
転生者。
あるいは、召喚者。
そして彼らは、
例外なく“特別な力”を与えられる。
英雄として戦い、
世界を救い、
やがて――
記録から消える。
それが、
この世界《エリオス=グランディア》の
仕組みだ。
◆
俺の名前は、レオン=アルケイオン。
前世では、
日本で働くただの社会人だった。
理不尽な仕事。
終わらない残業。
報われない努力。
そんな人生の終わりは、
神の手違いによる事故死だった。
詫びとして与えられたのが、
《知識神の演算式》。
世界のあらゆる事象を、
数値と構造で理解する力。
魔法は式として視え、
剣技は軌道として浮かび、
敵の弱点は最初から露わになる。
――強すぎる力だ。
だからこそ、
俺は冒険者になった。
国家にも、
教会にも、
属さないために。
◆
スラム街から始まった冒険者生活は、
思った以上に順調だった。
パーティを組み、
ダンジョンを攻略し、
ランクを上げる。
仲間もできた。
正義感が強く、
真っ直ぐな剣を振るう聖剣士アイリス。
明るく距離感ゼロの獣人斥候ミルフィ。
理屈で世界を見る天才魔導士セレナ。
そして、
世界の裏側を知る元Sランク冒険者リリア。
俺たちは、
冒険者として生きていくはずだった。
――本来なら。
◆
「王国から、正式な招待状だ」
リリアがそう言った時、
嫌な予感はしていた。
冒険者が王都へ呼ばれる理由は、
一つしかない。
「英雄候補、
って書いてありますね……」
アイリスが、
静かに呟く。
英雄。
その言葉の裏にあるものを、
俺はもう知っている。
使われ、
管理され、
最後は消される存在。
「……断れないのか?」
ミルフィが、
珍しく真剣な顔で聞いてきた。
「形式上は、
“招待”だ」
リリアが答える。
「でも断れば、
次は“監視”になる」
なるほど。
選択肢は、
最初から狭い。
◆
こうして俺たちは、
王都《ルミナス=アーク》へ向かった。
白い城壁。
整然とした街並み。
行き交う人々の服装。
豊かで、
安全で、
完璧に見える。
だが。
《アーカイヴ》は、
別の情報を提示していた。
視線の多さ。
配置された兵。
冒険者に向けられる警戒。
(……歓迎、じゃないな)
王都は、
冒険者の街ではない。
ここは、
力を管理するための場所だ。
◆
宿に案内され、
最低限の説明を受ける。
明日、
王城で歓迎の席が設けられる。
貴族たちが集まり、
英雄候補を迎える。
「……宴、か」
セレナが、
小さく鼻を鳴らす。
「戦闘より、
厄介ですね」
「同感だ」
剣や魔法なら、
《アーカイヴ》で対処できる。
だが、
言葉と立場は違う。
◆
夜。
窓から見える王都の灯りを眺めながら、
俺は考えていた。
ここに来たのは、
間違いか。
だが――
逃げるには、まだ早い。
国家が、
教会が、
英雄をどう扱うのか。
それを知らなければ、
本当に自由にはなれない。
「……檻の中を、
一度は見ておくか」
俺は、
静かに息を吐いた。
明日。
王都の貴族たちが集う宴が開かれる。
そこで俺は、
剣を抜かずに戦うことになる。
英雄としてではなく、
選ぶ側として。




