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第七話:魔法適性と教官の指導法



「ふむ、やはり、光と闇は発動せずか……このあたりは適性が特に問題になるからな」


 教官は、手にした記録用紙に視線を落としながら、淡々とそう告げてきた。


 最初に魔力測定をした時に見るのは、いわゆる魔法使いとしての適性だそうで、講座を受けられるかどうかだけを簡単に見ているらしい。

 で、そんな魔力量だけの簡易検査では判明しない、得意属性について検査しているのだが、どうやら四属性魔法は平均的な適性らしい。


 なお私の魔力量は平均的で、特に突出した適性属性もないとのこと。

 残念ながら、転生特典でチート! 魔力無限、とかではないようである。


「でもライトボールは使えるんですけどね」


 思わず、疑問が口からこぼれた。

 ダンジョンとかでの明かりとして便利な魔法、これって光に属さないんだろうか。

 暗闇でポンと小さな光の玉を出すだけの魔法だが、これが意外と重宝する。


 私の問いかけに、教官は少々考え込むような仕草を見せた。


「そうだな、一応光にあたるといえばあたるみたいだが、基礎の魔法はそういう分類には入っていないみたいだな。あれはむしろ『生活魔法』に分類されることが多い。いわば『簡易照明』で、高度な『光魔法』とは一線を画す、ということだ」


「はぁ……そういうものですか」


 教科書を読み込んでみたが、まだ試行錯誤を繰り返している感があって、分類も結構あやふやだった。

 何というか、過渡期の混乱を感じさせる分類だ。


 ただ、前世から考えると実際に使ってみて思ったのは、やはりイメージが重要だということだった。

 なので、他の人の魔法行使を見てイメージ力を高めれば、もっと可能性は広がる……と思いたい。

 それに前世の記憶が、この世界にない便利なものを閃くきっかけになるかもしれない。

 有利なのはその辺りだけだろうけど、それでもないよりはあるほうがいいに決まっている。


 なんていうか、せっかくの魔法が存在する世界に生まれ変わったのだから、こう、光の槍とか格好良く出したいし、千本剣とか数の暴力みたいなパワー系魔法も使ってみたい。


「免許を取ったら、まずはカッコいいスポーツカーだぜ!」と意気込む若者と同じ心境である。そうは思うものの、まずは免許取得からしないといけない。

 魔法世界だけれど、その辺りは何というか妙に現実的だ。


 ……ちなみに、一部魔法は特殊免許が要るらしく、大規模範囲魔法を筆頭にさらに注意事項や罰則が増えるようで、何だかロマンと掛け離れていてさらにうんざりする。

「対物無制限」「対人無制限」の保険に加入しないと使えないとか、「使用前申請」「使用後報告」が義務付けられているとか、そういう類の話なのだろう。


「まあ、それでも、特性として四属性はなかなか居ないから誇っていいぞ」


 教官がそういって褒めてくれる。

 彼女はいつもの厳しい顔つきを少しだけ緩め、わずかに口角を上げた。


 その一言だけで、ちょっと誇らしげかつ得意げになって浮ついてしまう自分が居る。

 何というか、普段滅多に褒められることがないから、こんな簡単なことでコロッと舞い上がってしまう。

 ああ、そういえな自動車運転免許センターでも、教習所の先生に「なかなか筋がいいですね」なんて言われて舞い上がっていたっけ。


「あ、ありがとうございます」


 礼を口にして照れる私。

 その瞬間、教官のわずかに緩んでいた表情が、すっと元の厳しいものへと戻る。


「だが、褒められた程度で集中は乱さないほうがいい。油断一瞬怪我一生だ。それだけ、繊細で危険なものを扱っていることを忘れるな。集中を乱せば、どんなベテランだろうと暴発事故を起こす可能性はある。ましてやお前はまだヒヨッコだ。調子に乗るな」


 厳しい言葉を浴びせてくる教官。

 どうやらこうやっておだてて精神を揺さぶってくるのも授業の一環ぽいみたいだ。

 なんというドSっぷり。

 それに対して、すぐに乗せられ舞い上がるお調子者かつチョロイン(だが男だ)な自分が悔しい。

 教官の手の平の上でいいように転がされてしまった。


 でもこんな風に褒められて、おだてられるのも久しぶりだからいいじゃないかと、心の中で誰にともなく言い訳した。



 ああ、思い出したくもない社畜の日々。

 上司に怒鳴られ、頑張った企画も、目の前で何も言われずゴミ箱に捨てられた時は殺意が湧いたなぁ。

 けれど、そんな私も、後輩を迎えるようになってまだ良くも悪くも目をかけられていたのかもしれない。

 あの頃は、褒められることなんて皆無で、社内での「承認欲求」は常に飢餓状態だった。


 転生直前の前世では……新入社員の問題が上がっていた。「最近の若いもんは、すぐ褒めないと動かない」「打たれ弱い」「ロマンがない」などと、居酒屋で愚痴をこぼしていた上司たちの顔が浮かぶ。

  まあ『最近の若い者は……』は、年代問わない愚痴の筆頭らしいから、まあそういうものなのかもしれないが、確かにと私も思うところがあった。



 けれど今は私は魔法が使える世界に居るのだ。

 そんな前世のことは今はいい。目の前の教官は、厳しいながらもちゃんと私を見て、指導してくれている。

 それは、前世で上司から得られなかった、ある種の「まともな評価」だった。


「はいっ」


 はきはきと返事をして私は魔力の練りこみ、そして発動に集中した。

 今度は、ライトボールがもう少しだけ大きく、そして少しだけ長く、私の手のひらで輝いた。

 いつか、教官を「ほう」と唸らせるような、派手な魔法をぶっ放してやる、しかも「ノールック魔法」でだっ。

 そんな、ささやかな野望を胸に、私は今日も魔法の訓練に励むのだった。




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