最終話:免許取得と予期せぬ遭遇
そんなこんなで、講習をこなしていたら、いつの間にか卒業していた。
聖王国騎士団直属魔法使い免許センターは直属というだけあって、通常講習と試験に本試験が組み込まれているような体制なのだそうだ。
その分、教官が厳しく、へらへらした態度とかだと叩き出されるらしい。
私が受講している間にも幾人もの受講生が「本人の資格不十分により除籍」といった掲示が張り出され、センターを後にしていった。
幸いにも、私はそこに名前が掲載されることなく、無事カリキュラムをこなしたみせた。
「おめでとうございます、こんなにスムーズに免許を取得されるなんて、カズ様は優秀でらっしゃるのですね」
あまりにもぬるっと卒業資格というか免許取得したために実感が湧かなかったが、免許発行手続きで受付のお姉さんが褒めてくれた。
彼女の笑顔は、入学時とは見違えるほど優しいものになっていた。
「いえ、普通に……授業を受けていただけですが」
多少、実地実戦で空回りして苦戦したが、真面目にやってれば問題ないと思うのだが……。
前世とは倫理観や教育レベルを含めて色々違うので、そう見えてしまうのかもしれない。
前世では「真面目にやるのは当たり前」という空気だったが、この世界では「真面目にやる」こと自体が評価される対象なのかもしれない。
ともかく免許発行である。
姿身写しの魔法で、特殊素材らしい免許プレートに顔写真を刻んでくれる。
このあたりも車の免許と同じだ。免許センターの隅にある「写真撮影はこちら」と書かれたブースで、無表情の証明写真を撮られたことを思い出す。
そうして出来上がった免許を手にする。
「ねんがんのまほうつかいめんきょをてにいれたぞ」
そう言ってみたものの、「普通魔法使用免許」とだけ印が付けられ、二年後の誕生日月まで有効と書かれたプレートを手に、私は思った。
ここまで幼馴染のアドバイスに従い、頑張ってきたのは確かだ。
だが、これでいいのか?
確かに魔法使いを希望したけれど、もっとこう、ロマンが欲しかったのだ。
前世の車免許と寸分違わぬプレートは、駄目とは言わないが、期待していた異世界魔法使いのイメージとはかけ離れていた。
下の方には小さく「魔力使用規約を遵守し、安全な魔法社会の実現に協力してください」と、どこかの標語のような一文が添えられていた。
失意の私にトドメを刺してくる。
思っていた異世界魔法使い生活とは違う、違いすぎる。
それでも……それでも、である。
ようやく私の異世界魔法使い生活が始まったのだ。
ようやく手にした免許証を大事に懐にしまい解放的な気持ちで教習所を後にする。
そしていよいよ杖を改めて見なければと思って杖屋へと足を向けると、店の前に人だかりが……。
「へーっ、ダンジョン産の珍しい杖なんだ?」
「でも魔石がはいっていないなぁ……」
ダンジョン産の杖が入荷して店頭お披露目されているらしい。
どんなものだろうと思って私も覗き込んで見る。
「魔石がないとかただの棒じゃないの?」
「でも鑑定士によると魔法使いの装備らしいよ?」
わいわいと店頭の杖らしきものを見ている民衆。
その好奇の目に、私もつられて中を覗き込む。
そこに置かれていたのは、確かに「棒」のようだが、どこか見覚えのあるフォルム……。
鑑定士による鑑定も添えられているのだが……私はその表を見て吹き出した。
「ニ○バス2000って杖じゃなくて箒ぃぃぃ!」
まあ箒の毛の部分は失われているようだったが、磨き抜かれた木製の柄には、『Nimbus 2000』と彫り込まれているのがはっきりと見て取れた。
幾ら異世界とはいえ、他所の魔法世界のものが流れてくるのは色々不味い。ある意味、この世界(作品)の危機である。
「ハ○ーポッターはヤバいって!」
関わりあってはいけないとばかりに私はその場を急いで離れた。
こんな形で「異世界からの転移品」に遭遇するとは思いもしなかった。しかもそれが、よりによって「魔法使いの免許」を取った直後とは。
こうして、不本意で思っていたのと全く違う異世界魔法使い生活が始まったのだった。
それでも、この免許があれば、きっと色々なことができるはずだ。
ひとまず、あの箒のことは忘れたい。
忘れたいが、巡り巡って箒を手にして、この異世界において初の箒による空中飛行者になるのだが、あまりネタを擦ると危険な気がするので、この話はここまで。