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第十話:杖のメンテナンスと選定



 今日の座学の終わり際、教官が唐突に免許取得後のことを話し始めた。

 授業の範囲には入っていないが大事なことらしい。


「お前たちがどこの杖で何のタイプを購入するかは解らないが、しっかりとメンテナンスはしておけ。……メンテナンス不全による事故多発を受けて、年に一度の公認整備工房による整備が義務づけられるようになった」


 車検制度みたいなのが、杖にもどうやら導入されたということみたいだ。

 いや、まあ、道具のメンテナンスは大事だけれど、こういう所まで同じにならなくてもいいのに、などと心の中で愚痴る。


 だが、それはそれとして公認整備工房とか、裏で結構な金が動いているのかな、とかぼんやり考えつつ話に耳を傾ける。


 誰の言葉だったか定かではないが、『権利は発生した瞬間から腐敗していく』といったことを聞いた覚えがある。

 きっと、この裏にも色々ときな臭い思惑が渦巻いているのだろう。


 とはいえ、仕方ないと思う。

 オートマ杖とか、一度教習所の備品の奴を使わせてもらったが、予備詠唱の自動化とか、手にしても見ても何がどうなってそれが実現されているかさっぱり解らなかった。

 そんな複雑な内部機構を持っているものも出てきた以上メンテナンスなしで運用するのは危険というのも当然の話である。


「整備証がない状態で魔法杖を運用していたのが発覚した場合、最悪免許取り消しになるからしっかりと覚えておくように。定期整備を怠って事故を起こした場合、事故の責任だけでなく、違反で逮捕されることだってあるからな、覚えておけ」


 そんな教官の言葉で今日の座学は終了となった。


「……にしても、メンテナンス義務化ってなー」


「しょうがないんじゃない。暴発事故で腕を失った魔法使いとかみたことあるし。俺の知り合いも、杖の魔力漏れで服焦がしてたぜ。まさか、杖にも『リコール』があるとは思わなかったが」


 わいわいと今日の話について口にしている。

 メンテナンス云々はよく解らないが、杖の種類によっては色々あるようだ。

 整備工房に任せるだけでなく、自分でも杖に異常がないか確認するのが大事と教官はいってたな。


 ……けれど、故障率の低下もあいまって前世の自動車教習所でも習ったような、出発前点検とかしっかりとするようなことはした記憶がないな。

「杖のコアよし! 杖のゆがみや汚損なし! 杖の魔力経路よし!」と、いちいち指差呼称で確認する魔法使いなんて、想像するだけで笑える。


 しかし、だ。

 ……本当に笑い飛ばしていいことなのだろうか?


 大丈夫、大丈夫で運用して暴発しても、誰かが責任を取ってくれるわけでもない。

 馬鹿にせずに、しっかりと点検項目については後で教科書などを確認しておこう。

 まぁ気をつけただけで回避できるのか解らないけどさ。


 そんな感じでみんなで色々雑談しながら教室を出る。


 もうそろそろ座学も実技も終盤だ。となれば、どんな杖を手にしたいか、というのも気になってくる。

 いくつもの工房がありマニュアルだったりオートマだったり畜魔力タイプだったりという機構の違いもある。

 予算の都合もあるし、選択肢は多くはないだろうがいよいよ魔法使い免許が取得できそうになっている今、少し見てみたくなったのだ。もちろん受講後に時間があるときに限定ではあるが。


「杖か……さすがに新品は難しいか」


 それにいくつもの杖を見る場合は工房直営の店よりも、街の中古店の方がいいだろうと思い足を運んでみる。複数の工房の杖が、管理されて店に並んでいる。

 店内は、木材と魔石の独特な匂いが混じり合い、どこか骨董品店のような雰囲気が漂っている。

 ショーケースの中には、使い込まれて手垢のついた杖から、まるで新品のように磨き上げられた一品まで、様々な杖が並んでいた。。


「リーライフィの頑丈さが売りの奴はさすがに高いな……サンバスは近頃評判が落ちてるが、中古だとまだそこまでではないか。レイアスの軽モデルがちょうどいいくらいかもしれないな」


 予備詠唱による魔力のめぐりは、各工房によってクセがあって、最高速が凄いのだったり、注ぎ込める魔力容量だったり、用途によって使い分けるのが常識らしい。

 加えて、近頃は繰り返し作業向きのオートマ杖や、魔力量が少なくても畜魔石から魔力を引き出して魔法を撃てる畜魔力杖なんてのも出てるしな。


 どれも一長一短で、一概には決められない。いや、畜魔力タイプは過充魔力による爆発が怖いからもう少し安全性が確保されてからの方がいいだろう。

 前世と違って、そういう安全弁なところはまだまだ発展途中で、事故率も高いようだ。


「中古市場だと一番評判いいのはリーライフィか?」


 居並ぶ杖を眺める。


「値段的にレイアスでいいかなぁ……いやちょっと待て」


 店員の説明を聞きつつ、色々と品定めをしていく。

 杖の種類は様々で用途ごとに特化したものが多い印象だ。

 ついでに言うと、免許も特化タイプが存在する。大規模魔法になればなるほど、専用の免許が必要になってくるのだ。


 軽自動車、普通車、大型トラック、戦車などで分かれているようなものだ。

 店頭に並んでいるのは普通車や軽自動車みたいなイメージの杖ばかりだったが。


 大規模魔法対応の杖はそもそも高価なこともあり展示されていないようだ。


 しかし、ここに並ぶのは基本メーカー製だが、レトロ杖、ではないが、ダンジョンから発見される杖もあるらしいけど、あれは何処に分類されるんだろう。杖検とか、メンテナンスとか、色々考えさせられるところであるが、後で教官に聞いてみよう。


「第三詠唱まで対応のレイアスの軽モデルが一番無難っぽいな……潤沢な購入資金を持つお貴族様はともかく、一般庶民の私には、これくらいがちょうどいいだろう」


 総ては免許を取得してからだろうけど、居並ぶ杖を見てやる気が出てきた。明日からの講習も頑張ろう。


 ちなみにダンジョン産の杖に関しては、ケースバイケースで一概には言えないそうだ。


 現代とは違う理論で造られた物もあったりして、しっかり分析してからでないと結論が出ないそうだ。きっと、「現行の杖検基準では判断できない」とか、「メーカー保証外」とか、厄介な代物なのだろう。


 ダンジョンのロマンも、安全基準の前では形無しのようである。残念。




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