踊る炎+旋風=?
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)
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「や、やめろ!」
俺の叫びに、焼け焦げた服を身につけたテリヒトが笑う。
「ヒャッハハハ! マジックソード学院を追い出された劣等生でも、さすがに知っているようだなぁ!? そうだ! 2つの魔法をかけ合わせることで、無限の可能性があるんだよ! てめえの顔を二度と見られないよう、焼き尽くしてやる! ファイアダンス!」
ゴオオッと炎に包まれる、ロングソード。
しかし、テリヒトは止まらない。
「やめるんだ、テリヤキ!」
「俺は、テリヒトだ! 先にやったのは、テメーだからな? もう、容赦しねえぞ! ハイウィンド!」
ロングソードに旋風が巻き起こり、炎が荒れ狂う。
両手で柄を握ったテリヒトは、同じ手は食わないとばかりに、いきなり振り抜く。
「おらぁあああああっ!」
その斬撃は、まさに火炎旋風と呼ぶべき現象で俺に迫ってくる。
瞬時に、その振り抜きの延長線を避けつつ、自分のロングソードを相手に投げた。
不意を突かれたテリヒトは、それを避けるために姿勢を崩した。
「つうっ! 往生際の悪い奴だ! おら、おら、おらあああっ!」
離れた位置で連撃を振るうテリヒトに対して、俺は四つん這いになり、カサカサと動き出す。
残像が出そうなスピードで地面を這いまわり、あるいは、手足のバネで宙を飛ぶ。
「ええっ……。家に出る虫みたい! 駆除しないと」
うるさい、マリカ・フォン・ミシャール!
今は、お前のために戦っているんだ!
キャー素敵! 抱いてー! ぐらい、言ってみろ!
「絶対に、いや!」
心の声に反応するな!
会話ができるはずもない状況で、俺は四つん這いの高速モードのまま。
姿勢が低すぎることで、テリヒトも戸惑っているようだ。
「くそっ! このっ! このっ! このっ! ハアハアハア……」
テリヒトが息切れしたので、人間に戻った。
念のために、細かいステップを刻み続ける。
肩を大きく上下させているテリヒトは、ロングソードの切っ先を下ろした。
「すばしっこいな? ハアハア……。だが、もう終わりだぜ? こっちはまだ戦える――」
「お前さ? まだ、気づかないの?」
怪訝な顔になったテリヒトは、初めて周囲を見る。
「はっ?」
ノダック村は、燃えていた。
そりゃ、火炎旋風を全方位にブッパすれば、こうもなるわ!
ゴォオオオッ!
風でかき回したから、火の勢いもすごい。
「み、水をくんでこい!」
「リレーだ、リレー! 小川から、一列になれ!」
一部の村人は、すぐに動き出した。
消えていく。
貧乏だが、それなりに安定していた暮らしが……。
ガランガランと、ロングソードを落としたテリヒト。
「えっ? ゴッ!」
正面からクロスレンジまで低く飛んだ俺は、地面に沈み込んだ勢いで、顎を下から打ち抜いた。
確かな手ごたえと共に、やつの体は上へ高く飛ぶ。
背中から崩れ落ちたテリヒトは、気絶。
その時に、マリカが動く。
左腰に吊るしているスモールレイピアを落としつつ、右手で抜いた。
左手をかざし、とある魔法を唱える。
「ブルーホール!」
深い青色に染まった剣身で、その切っ先が空を向いた。
右手だけでしならせた切っ先は、空に大きな円を描く。
それが完結した瞬間に、その円が深い青となり、水槽からぶちまけたような大量の水が降り注いだ。
ドシャアアアッという轟音に、ジュウウウッという鎮火する音。
マリカは、元の色になったスモールレイピアで風切り音を鳴らしつつ、左腰に吊るし直した。
パチパチと拍手したのは、チェアに座っているジャコメオ・ヴァルガ子爵。
「お見事! さすがは、マジックソード学院の生徒ですな?」
立ったままで優雅に会釈したマリカは、笑顔で返す。
「恐縮です、子爵……。御身を濡らして、申し訳ございません」
片手を振ったジャコメオは、同じく笑顔。
「いやいや! この村の被害が減ったと思えば、たいしたことはありませんぞ! 長老? さっきの情報の礼を含めて、すぐに援助する。ひとまず、当面の食料と住む場所だな……。今年の税についても相談に乗るから、気をしっかり持て」
ずぶ濡れの地面で土下座した長老は、感服した様子で言う。
「あ、ありがとうございます! 全員の安否確認と、火が残っていないかを調べろ!」
若者のまとめ役らしき男が、頷いた。
「は、はいっ! おい、すぐに動け!」
「「「うっす!」」」
若い人間が、散らばる。
マリカは、ノダック村にブルーホールを発動させた。
ゆえに、俺を含めて、全員がズブ濡れ。
呆気にとられたままのエルド・スターンは、何も言わない。
俺がマリカを見たら、彼女はジャコメオを見た。
視線で察したジャコメオが、頷く。
エルドのほうを向いた。
「スターン卿? この決闘は、テリヒトの負けだな?」
あ、そっか!
俺の名前を知らないものな……。
そう思っていたら、顔をゆがめたエルドは、やがて首肯した。
「はい……。俺の息子の負けです」
お前、もっと別の心配をしろよ?
村を焼き討ちしたの、お前の息子なんだよ?
今夜にでも、事故に見せかけられて村人全員で殺されても、文句言えないよ?
過去作は、こちらです!
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