炎魔法には、指差し呼称が不可欠!?
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)
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「ハハハ! よく分からんが、婚約済みらしいな? どうする、テリヒト?」
面白そうに笑った、ジャコメオ・ヴァルガ子爵。
(その女が自分のモノにならないから、余興のつもりか……)
いっぽう、テリヒトは訴える。
「父上! 彼女は、騙されているのです!」
「……だから? お前はもう、スターン騎士爵の長男だ! 今の父親に言え」
むべもなく言い捨てたジャコメオは、御者に命じて馬車を移動させた。
自身も、スタスタと観戦できる場所へ歩く。
すると、ノダック村の長老が近寄り、地面に跪いた。
野外用のチェアに座ったジャコメオが、それを見下ろす。
「何だ?」
「恐れながら、お耳に入れたいことが」
ジャコメオの許可で、男2人のヒソヒソ話。
そちらを見ていたら、テリヒトの叫び。
「な、なら! その男に勝てば、いいんだな?」
「はい、その通りです」
返事をしたマリカ・フォン・ミシャールは、こちらに歩いてくる。
「あいつを倒して! なるべく、殺さないように……。再起不能にして構わないから!」
「元親父はともかく、あの子爵は?」
「私が、何とかする!」
ここで、エルド・スターンの大声。
「よし! 誰か、剣を持ってこい! 分かっているな?」
俺が広場の中央へ出て行けば、一振りの剣が渡された。
柄を握って軽く振ると、違和感。
(これはこれは……。まともに戦えないな、この剣じゃ)
どうあっても俺が負けるように、嫌がらせだ。
(まあ、いいや! どうせ飾りだ)
俺をジロジロと見たテリヒトは、馬鹿にしたような顔。
「お前、マジックソード学院を除籍になったんだろ? ハッ! この決闘で、魔法剣による戦いを見せてやる! 俺は父上……ヴァルガ子爵に家庭教師をつけてもらい、魔法を付与できるんだよ!」
審判になったエルドが、新しい息子を鼓舞する。
「それは凄いな! こいつは、魔法付与もできない落ちこぼれだ! お前が負ける道理はない! でも、手加減しろよ? お前の嫁になるマリカに嫌われたら、面倒だ」
「分かっていますよ、父さん! 殺さない程度で、済ませます」
微笑ましい会話のあとで、エルドは離れて座るジャコメオを見た。
「ヴァルガ子爵! 決闘を行いますが、よろしいでしょうか?」
「私に関係ない話だ! 勝手にやれ!」
ジャコメオは、今までよりも警戒した声。
少し引っかかったが、エルドの声で意識が戻る。
「勝敗は、そいつが持っている剣が壊れるか、負けを認めるか、気絶などの戦闘不能になったら――」
「剣がなくても戦えるのが、騎士では? 勝敗は、相手の戦闘不能だけで」
俺の後ろに立っている、マリカの声。
すると、ジャコメオが認める。
「あなたが言うのなら、そうしましょう! いいな、スターン卿?」
「は、はいっ! では、相手が戦えなくなったら負けに……」
エルドは、畏まった。
(子爵の態度が、一変したな? あー! 元母親のナディネ・スターンが長老を通して告げ口したか!)
派閥がどうであろうと、伯爵令嬢を痛めつければ、報復は族滅。
ジャコメオは、エルドと六男を切り捨てることに決めたようだ。
テリヒトが、宣言する。
「残念だったな? じゃ、約束通りに魔法剣を見せてやるよ! ファイアダンス!」
テリヒトが両手で持つロングソードは、まさに踊るような炎に包まれた。
「おおっ!」
「これが、魔法……」
感嘆の声が、ギャラリーの村人から上がる。
「お前は、魔法付与ができないよな? 悪く思うなぁあああっ――」
正面で炎のソードを構えたテリヒトに対して、一瞬で横に回り込み、上から手刀でやつの肘を叩きつつ、もう片方の手で押して折り畳む。
それによって、やつは炎のソードを正面から受けた。
当然ながら、炎は燃え移る。
「ギャアアアアッ! 熱い……。熱いよぉおおおっ!」
燃えているソードを遠くへ投げ捨てたテリヒトは、ゴロゴロと地面を転がる。
(炎は、これが嫌なんだよ……。ロイグ・ガイアルドーニだって、すぐに放出する使い方がメインだ)
イキりの頂点みたいなロイグでも、炎による事故を防ぐために、指差し呼称。
周囲に可燃物なし! とか言う。
危険と判断したら、炎魔法を使わない。
逆に言えば、それぐらい大変。
これから学院に入る年齢でファイアダンスは、確かに優秀だ。
純粋に、経験不足。
しかし、それを指摘してやる謂れもない。
後ずさりつつ、エルドに問う。
「いいのか? 火を消さないと、助からんぞ?」
「お、お前! 何てことを!?」
「俺が、されかけたんだけど……」
そのツッコミに答えず、エルドは慌てて消した。
さらに、回復薬をぶっかける。
「え? いいの、それ? 戦えなくなった時点で、負けじゃん!?」
「黙れ! 戦場では、味方が回復することもある!」
いいけどね?
素直に負けを認めないと、こいつが精神的に立ち直れない負け犬になるだけ。
焼け焦げた服のまま、怒り心頭に発したテリヒトは、自分が投げたロングソードを拾い上げた。
「殺してやる、殺してやる、殺してやる……」
鬼気迫った表情で、思わぬ行動に出た。
「2つの魔法を同時に使ったら、どーなるか? 知っているかぁ?」
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