世間知らずにも程がある親父
追放されたジンは、 歴代勇者の痕跡をたどる!
(旧題:剣と弓の世界で俺だけ魔法を使える~最強ゆえに余裕がある追放生活~)
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マジックソード学院で一緒に学んでいた、マリカ・フォン・ミシャール。
嬉し恥ずかしの2人旅……というには、色気が足りない。
(彼女というわけではないし、伯爵令嬢を手籠めにすれば後が怖い)
本人いわく、伯爵は一番わりに合わないポジションだそうだが……。
俺たちは整備された街道を歩き、乗合の馬車に詰め込まれては宿をとる。
(……マリカの金でな?)
学院を除籍されるにふさわしい旅の終着点は、乗合馬車すら近寄らない。
ノダック村。
横に並んで歩けば、小川を越えた先に、畑が広がっていた。
小川で洗濯をしていたオバサンどもが、ギョッとした顔でジロジロ見ている。
そいつらがヒソヒソと話すのを無視しつつ、村の中心へ向かった。
平屋だが、この小さな村では広い屋敷。
そこに、両親がいるのだが――
「イチッ! ニッ!」
「「「イチッ! ニッ!」」」
父親のエルド・スターンは、集会もできる広場に若い奴らを集め、練兵をしていた。
剣術の師匠よろしく、みなの前で剣を振っていた父親が動きを止めて、こちらを見る。
釣られて、集まっていた奴らも……。
「少し早いが、今日はこれまで!」」
「「「ハイッ!」」」
面白そうに見ている奴らに構わず、エルドが言う。
「フーッ! 自分で来るだけの度胸はあったか……。剣を持ったままだと、衝動的に斬りそうだ。来い!」
近くにいる奴に剣を預けたエルドは、片手の動きで、ついてくるように命じた。
――騎士爵の屋敷
応接間というには貧相なスペースで、お互いに向き合って座る。
家事をしていた母親のナディネ・スターンも、同席。
村娘で通いのメイドをしているハナは、お茶と菓子を出した。
(俺1人だったら、絶対になかったな……)
屋敷の外に大勢が潜んでいる気配を感じつつ、エルドが促す。
「で? 何をしに来た?」
「マジックソード学院を除籍された……。その報告と、これまで世話になった礼を言いに来ました」
沈黙。
苛立たしげに息を吐いたエルドは、頷く。
「学院から、早馬でその知らせを受け取った! おかげで、村中に知られたがな? 送った手紙にあるよう、学院を叩き出されたら勘当する……。その覚悟をしているうえ、こうやって筋を通しに来たのなら、半殺しにするのは止めておく」
偉そうに腕組みしたエルドは、険しい顔で話す。
「じゃ、次の話だ! お前を学院に入れるのに使った金をウチに返すように」
「どうやって?」
俺が突っ込んだら、エルドは当たり前のように言う。
「それは、お前が考えろ!」
「アホらし! 気が向いたら、考えてやるよ……」
ソファから立ち上がれば、隣のマリカ・フォン・ミシャールも同じく。
ここで、エルドが恫喝する。
「選択の余地はない! 俺はスターン家の当主で、この村を任された騎士爵だ! 平民になった貴様は、俺に従うのみ」
会話が噛み合っておらず、座り直した俺が問う。
「この村に残ると思っているのか?」
「……は?」
「え?」
両親だった2人が、ポカンと口を開けた。
エルドは、断言する。
「この村を出て、やっていけるわけないだろう!? マジックソード学院を追い出された奴が!」
うーん?
こいつ、ひょっとして学院の成績を知らないのか?
素手に限れば、あの学院で俺とやれるのは教官ぐらいなのに……。
そう思っていたら、隣で座り直したマリカも、微妙な顔で俺を見る。
彼女の視線が、どうする? と聞いた。
(どーしたもんかねー?)
元父親がアホだと、再認識した。
(学院の費用は、まともなプランを提示されたら検討しても良かったが……)
悩んでいたら、ナディネが話題を変える。
「と、ところで! そちらのお嬢さんは?」
「申し遅れました……。私は、マリカです。学院から同行しました」
素性を隠したままで、乗り切るつもりか!
「あら、そう! ごめんなさいね? ティルの付き添いをさせて――」
「おお! 良いことを思いついたぞ!」
マリカをジロジロと眺めていたアホが、叫んだ。
絶対にロクなことじゃねーな? と思っていたら、エルドがその内容を告げる。
「学院にいて、子供を産める若さ! 見た目も悪くない! 新しく息子になるテリヒトの嫁にちょうどいい!」
言っちゃったよ、こいつ。
伯爵令嬢に……。
いっぽう、アホの隣に座っているナディネは、マリカと夫の顔を交互に見ている。
(こっちは、気づいたか……。学院にいる情報とマリカの仕草を併せれば、貴族だと分かる。たぶん、肌の日焼け具合や、手の様子でも)
だから、ナディネは気を遣った。
マリカが家名を言わなかったことを踏まえつつ……。
これは理屈じゃないから、学のない村娘でも行える。
逆に言えば、上下関係と理屈で動くエルドは、正しく判断できない。
(マリカは爵位を出さなかったから、アホが気づかないのは仕方ないが)
エルドは、満面の笑み。
「うむ! 学院に払った金は惜しいが、お前を村でタダ働きさせても外聞が悪いしな! この女を連れてきたことで、忘れよう」
令嬢らしく笑みを浮かべたままのマリカは、怒りマークが増えていく。
それを察知したナディネが、引きつった顔に。
上ずった声で、フォローする。
「あああ、あなた? マリカさんにも、事情があるでしょうし。この村には、ちょっと……」
「余所者というのは、確かにマズい……。しかし、学院を卒業するのであれば、ちょうどいいだろ? 騎士爵の妻だぞ? 同年代でなければ、テリヒトに悪いし」
エルドの頭の中にある世界地図は、半日もかからずに横断できるノダック村と、俺がいたマジックソード学院しかないようだ。
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